『この世界の片隅に』片渕須直

 整理しきれていない。素直によかったと思う。けれどただの戦争映画ではないとどう言えばいいのか。「やっぱり戦争は良くないと思った。」などという陳腐すぎる感想しか抱かない自分がもどかしくてならない。主人公であるすずは普通の女の子で状況にどんどん流されていく。それでもその時代ならではの狂った状況を受け入れることはなく、普通の曇りなき眼で違和感を感じ続ける。特に晴美が亡くなってしまってからその傾向は顕著になる。

 ただ、そうは言っても誰かに対して怒りをぶつけるわけでもヒーローとして毅然とした態度で立ち向かっていくわけでもない。そこにいるごく普通の民間人として生き続ける。玉音放送を聞いて、みんなでいるときは諦めや呆れといった日常的な感情に包まれながらも一人になった瞬間に、止められなかった世の中や自分自身に対しての悔しさが爆発する。その感情の動きを軽々しく理解できると言ってしまってはいけないのだろうけれど、でもすごくわかってしまう自分がいた。

 戦争があろうがなかろうが世の中は続いていく。日常に非日常が溶け合えば結局それは日常になってしまう。そこにイレギュラーが起こっても、いつかはそれを受け入れて日常の一部にしてしまわなければいけない。そしてもしも出来ることがあれば笑顔で覚えていること。

 なんとなくこの作品を掴みきれていないような気がしてならない。自分の中で強く心に残っている戦争を題材にした物語はサトウキビ畑の唄なんだけれど、じゃあ何が違うのかと言われれば口ごもる。この作品に関しては戦争の悲惨さを描くというよりも人の世の無常さとその中での強さが描かれているような気がしていた。

 私事にはなるが僕は被曝三世になる。家族の姿を重ね合わせるなというのは無理だし、原爆についての作品はできるだけ見に行こうとしている。自分にしかできない捉え方があると驕ることは出来ないけれど、せめて出来るだけ関係することを覚え続けて、思いを巡らせ続けようと思っている。

 願わくば笑顔のままで。

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