『バースデイストーリーズ』村上春樹翻訳

 暗い話が多い。あとがきにも書いてあるように。確かに漠然とした印象で誕生日とはほっこりするものというイメージがあったから驚かされたし、意外だった。後半に収録された作品の方が楽しく読めたのはそういうズレが矯正されたからだろうか。ティファニーに朝食をでも起こったことがらだし何かあるのかもしれない。ただ慣れただけなのか最初のイメージが小説の楽しさを阻害するのか、設けたハードルが序盤にだけ作用するのか。そう考えるとで短編小説集は難しいのかもしれない。そんな中で面白かったのは「ダンダン」、「永遠に頭上に」、「波打ち際の近くで」あたりだろうかやはり少年を主人公に置いたものの方が面白いと思う傾向にあるしそういうものを求めていたということはある。「少年から大人になる瞬間」というイノセンスをテーマにした作品が好きすぎるのだろう。

 結局二十歳なんてただの記号だという考えは未だに持っている。けれど、日本の社会の中で暮らして、かつ関わりを持って生きている以上ただの記号だけではない意味を内包していることも考えておかなければならない。自分がどう思っていようと他者にその考えを求めるわけにはいかないし、そこの第三者としての視点は常に持っていなければ普通に生きていくことはできないんだろう。そういった意味で本当に自分の好きなようにやっていられた時代は終わってしまったんじゃなかろうか。モラトリアムの終焉。そうなることがすなわち社会で生きていることの証明になるような気もする。立ち位置が変わって目線が変わればまた新たな面白さが見えてくるかもしれない。なんでもできることが必ずしも理想的な自由だとは思っていない。また違った面白さを得られると考えると未来が楽しみだ。それが今のところ考えてたどり着いたところなのかな。

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