盲腸で入院した話 入院編

冬のある日、盲腸で入院した記録。
前回はこちら。


その言い方はやめてくれ

入院手続きには母が付き添ってくれた。
看護師さんに病院での生活について説明を受ける。ちなみに面会はコロナ対策のため禁止だった。前回、彼氏が読み聞かせの練習をしていた話をしたが、あれは全くの無駄になった。

手続きの最後に入院生活をサポートする人はいるか聞かれた。家から必要な荷物を届けたり、病状を聞きに来たりする人のことだ。私の場合、これは同棲している彼氏である。
ここで迷った。
オフィシャルな場で「彼氏」って言っていいのか?ちょっと恥ずかしいし、家族以外はダメですとか言われたら面倒だし、どうしようかな。
すると同様の思考にたどり着いていたらしい母が重々しく切り出した。

「あの、何と説明してよいかわからないのですが、同居…を一応している男性がおりまして……」

すぐに止めたが、看護師さんの表情を見るに手遅れだった。

その後なんとか看護師さんの誤解は解け、5日間の入院生活が幕を開けた。

食事禁止カード

お腹がすいた。
盲腸になっても食欲は健在だった。入院前は胃腸炎だと思っていたので食事を控えていたが、朝から麻婆豆腐が食べたくてしょうがなかった。
しかし私の頭上には「食事禁止」と書かれた可愛い絵文字つきカードが貼られている。今回の治療法はとにかく腸を休めて投薬、だったので、炎症が治まるまでは何も食べられないのだ。
斜向かいのベッドのおばあちゃんが美味しそうにチキンナゲットを頬張っておりムカついたので、何かして気を紛らわすことにした。

そうだ、アマプラでも見よう。
病棟内にWi-Fiがないことを知っていた私は、家を出る前にアマプラでビデオをいくつかダウンロードしていた。イヤホンをすれば周りの食事音も聞こえないし、気が紛れてちょうどいい。さあどれにしようかな。

・孤独のグルメ
・きのう何食べた?
・ゆるキャン△

入院前の私を引っ叩きたかった。
消去法でゆるキャンを見たが余計にお腹がすいた。各務原なでしこがカップ麺を啜る姿をイライラしながら眺める時間となった。
その後3日間絶食となるのだが、インスタでラーメンを見すぎておすすめ欄にラーメンしか出なくなってしまい、今も困っている。

病室の治安

入院生活前半はとにかく暇だった。
痛み止めを打っているのでお腹はあまり痛くないが、ホイホイ出歩けるほどでもない。Switchや本も持ってきたがまだそれらに没頭するほどの元気はなかった。
そこで私は病室の人間観察を始めた。
というか病室の治安が悪いので嫌でも気になった。おばあちゃん3人と同室だったのだが、三者三様にマナーが悪いのだ。それぞれナゲットのAさん、難聴のBさん、山内のCさんと名付けて説明しよう。

ナゲットのAさんは、私の入室時にチキンナゲットを頬張っていたおばあちゃんである。この人は常に何かを食べており、空腹の私を悩ませた。またそれだけでなく、ずっと電話で大騒ぎをしていた。
もちろん病室内は電話禁止。
彼女は歩けないわけではないが、ご飯を食べたいのでベッドで電話しているようだった。電話の向こうの女性の声がコラショに超似ているのも耳についた。

難聴のBさんは最も性質が悪かった。彼女はテレビをつけたまま寝落ちする習慣らしく、夜中にカーテン越しの光とイヤホンの音が漏れていた。
初日の夜「テレビを消してもらえませんか」と直接頼んだが反応がない。そうか、耳が遠くて聞こえないのか。今度は腹に力を入れ大声で「すいません!テレビ消してください!!!」と叫んだが明らかに無視されたし、そういえば盲腸患者だった私は激痛でしばらくうずくまった。
結局、毎晩Bさんが寝てから看護師さんに消してもらった。夜中に「隣のテレビ消してください」なんてしょうもないナースコールを入れる私の身にもなってほしい。

山内のCさんは基本大人しい人だったが、不定期に山内恵介のコンサート音源を放送することだけやめてほしかった。

賑やかなルームメイトのせいでなかなか落ち着いて過ごせなかったが、なんとか正気を保って過ごした。上司と同僚から励ましのメッセージが来た日の夜は部署全員の似顔絵を描き、眺めて眠った。

盲腸はうつりません

幸い、盲腸は順調に治った。
入院3日目の昼には早くも食事が解禁された。毎日病院食の献立を食い入るように見つめる私を不憫に思い、早めてくれたのだろう。

解禁日の食事は本当に本当に美味しかった。
空腹もよいスパイスになったのだろう。母から「病院食は大抵まずい」と聞いており、絶望してファミチキを隠れ食いしようか100回くらい悩んだが、我慢してよかった。

食事が取れるようになると元気も湧いてきて、入院後半は基本デイルームで過ごした。
デイルームでは電話OKなので、定期的に母と電話することになった。しかし3日目の夜にかけたら「上の弟が痔になった」と言われ、4日目の昼には「下の弟が早稲田に落ちた」と言われたのでそれ以降はかけるのをやめた。
どうも盲腸は人にうつるらしい。

そして退院へ

入院5日目の金曜日、退院が決まった。
当初は土曜日退院の予定だったが、経過が順調のため1日早めることができた。アラサー、まだまだ若いなと思った。

病院の外の空は青かった。
付き添いの母にショーシャンクみたいなポーズの記念写真を撮ってもらい、帰路についた。

盲腸で入院した話はこれで終わり。

なお、春頃にまた手術を予定している。盲腸は再発率が高いので、薬で散らして落ち着いた後、再発する前に切ってしまうのが良いらしい。
手術編も気が向いたら書こうと思う。

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