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私と和装〜特別な装いから普段着へ

 1度書いていた下書きが吹き飛んでしまったことで記事の完成が遅くなってしまいました。
 さて、前回の記事(私と和装)の続きのお話です。

 今やルームウェアも和装おねまき(旅館浴衣)であるほど、和装は私の日常の服装です。
 今回は、初めての「マイサイズ浴衣」からどうやって普段着を和装へ切り替えっていったのか、書ける限り書いてみたいと思います。

初めての「私だけの浴衣」

 大学2年生になって、初めてコンビニのレジのアルバイトをしました。そしていただいたお給料は自分なりの予算や支出計画を立てて使っていたのですが、この頃になると紺地の既製品浴衣に赤い半幅帯という、小さい頃から変わらない色味の組み合わせに少々飽きていたところでした。
 他にも、紺地の浴衣でお祭りを楽しんでいる間に汗をかき、リバーシブルな半幅帯の片面に藍色が染み付いて取るに取れなくなって……という悲しい経験もしていました。
 そこで、「白地か淡い色味の、自分の体格に合った浴衣が欲しい」と思うようになって、アルバイト代を貯めて、実行に移したのです。

 一応、かつて高校生の頃にコスプレイヤーとして衣装を自作する過程で、浴衣の型紙をベースに和裁の基本の基本を呉服屋さんにご指導頂きながら反物から縫い上げた経験はありました。
(その呉服屋さんは、JR清水駅最寄りの商店街、「清水駅前銀座」の入口すぐのところにあった、個人経営のお店、きものの丸京さんです。とても親切なお店でした。2023年現在では閉店してしまわれたか、跡形もないのが残念です)
 けれどもやはり素人の領域は出られない、学生コスプレイヤーのコスプレ衣装としては及第点という程度の代物。
 折角なら綺麗に仕立てていただきたい……!! と、貯めたアルバイト代で足りるのかどうかハラハラしながら、JR静岡駅の駅ビルへ。そこに入っていた「きものやまと」さんに、浴衣の反物とお仕立てとを相談の上でお願いすることにしました。

 反物は、白地になでしこ柄の可愛らしいもの。合わせてなでしこ柄の色味と近く、されどほんのりグラデーションがかかっている紅色系の薄く締めやすい半幅帯も。
 お代はお仕立て代まで含めておよそ3万円でした。どうにかギリギリ、自分で支払いができそうだとはいえ、一括払いでは次のお給料日までの生活が怪しくなってしまうということで初めての分割払いも経験しました。
 既製品の浴衣も安くは無いこと、当時はまだ作り帯や下駄までがセットになった既製品浴衣のセット販売はなかなか無かったことなどがあって、本当にワクワクドキドキ、ハラハラソワソワしていたことをよく覚えています。

 そして数ヶ月待って……たとう紙に包まれた初めてのマイサイズ浴衣が!
 その感動と言ったら、どんな言葉を尽くして並べても足りないほどでした。

大学生時代に、静岡のきものやまとさんでお仕立ていただいた浴衣(写真左)。
あれから20年近い時を経た今も、お手入れを繰り返して夏には現役で活躍しています。

 なお、マイサイズ浴衣はちょっとしたワガママも叶えていただきました。
 お写真をご覧いただくとお気づきになるように、袖の振りの長さが長いのです。(写真右の水色の浴衣が既製品の袖の振りの長さです。一目瞭然でしょう?)
 振りが長いということは、風に吹かれたり腕を動かしたりすると揺れる部分が長いということ。ひらひら、ふわふわ……軽やかに翻る袖に、行き交う人の視線が和むのを見ては私も嬉しくなるものでした。
 マイサイズお仕立てはこうしたちょっとしたワガママなこだわりも、基本的には追加料金などなく叶えられるのが嬉しいところです。


浴衣の着付特訓

 大学2年生からは単身アパートでのひとり暮らしをしていたことから、家族の目を気にせず、また自分のペースで生活サイクルを決められることから、浴衣の着付けの練習をこれまでの比では無いほどに頑張りました。
 身だしなみチェック用の姿見と扇風機、開けた窓の網戸越しに吹き込んでくる少し磯の香りがする涼風をお伴に、新しくフルカラーの着付け本を買って、ゲームやアルバイトや講義の合間に、練習、練習、練習……。


浴衣の着付けの基本は、他の着物の着付けの基本と大して変わらないと分かったこともあり、まずはどんな着物も着られるようになるための基礎的なところを体で覚えてしまおうと、補正の仕方や腰紐、胸紐の締め方、帯の締め方など、あれこれと試行錯誤し続けました。
 この着付け本は大判でも薄くて軽く、写真がフルカラーで解説も丁寧でしたから、昨今のように解説動画があちこちに無料で溢れているような環境ではなかった当時としては非常に見やすく分かりやすく、助けられました。
 今も袴の着付け練習のお伴として現役ですし、従兄弟や知人の結婚式に訪問着で出席する時も、この本のお陰で帯結び以外はすべて自力で綺麗に着付けができました。(帯結びだけは下手も下手だったので、金銀きらびやかな織りの、末広の袋帯をワンタッチ加工していただいてあったものを合わせました)

 こうして、浴衣の着付け、着物の基本の着付けをだんだんと身に付けて……「折角ならいつも着物で居られたら良いのに」という気持ちが膨らんでいきました。


晴れの日の装いから、普段着へ

 そうして、ひとり暮らしの大学生活中は、まずは夏休みの普段着が浴衣になっていました。
 マイサイズ浴衣はお買い物に出掛ける日や夏祭りのまだ日が高いうちに、既製品の紺地の浴衣は何でもない日や夏祭りの日暮れから先のうちに。
 本当はもっとマイサイズの和装が欲しかったのですが、親に叱られまして叶わず……それが叶うこととなったのは、つい最近、ここ近年のことでした。

 今の夫と出会う頃には、夏の普段着が浴衣というのはすっかり定着していたものの、普段着向けの着物については着付け本で軽く紹介されている知識しかなく、何をどう着て何を合わせて着こなせば良いのかさえ、よく分かっていませんでした。
 心身ともに虚弱な私は体調を崩して医療費が飛んでゆくことも多く、呉服屋さんを通りかかっては店頭の華やかな反物や仮仕立ての和装に憧れ、店員さんに気づかれる前に(支出がかさんでいて買えないから)いそいそと去る……なんてことも少なくありませんでした。
 さらには、ストレスから過食に陥り、一時期は体重73kg、体脂肪率40%弱という恐ろしい体型に! ここまで太ってしまうと、流石に着付けをどう頑張ってもぽっこりお腹やむっちり太ももはどうしようもなく、浴衣がはち切れそうな悲惨な着姿に……。我ながら愕然としたものでした。何しろぽっちゃり系スポーツマンな父の体重と10kgしか違わないのですから……。

 あわや着物生活なんて絵に描いた餅か。そんな風に諦めかけた頃。「このダイエットで痩せられなかったら生涯『でぶっちょ』でいよう……」と、もう数えるのもめんどくさくなるほど多様なダイエット法や運動を試しては効果なく終わっていた私が、ついに体重55kg(身長160cmの私にとっての「理想的標準体重」とされる体重)、体脂肪率も25%〜20%と、ほぼリバウンドなくダイエットすることに成功したのです!
 「だったら、ご褒美にもっと美容にも気をつかって、たくさん和装を楽しもう!」と、自分へのご褒美を兼ねて決意。何度か通っていた、今の自宅から1番近かったきものやまとさんが閉店してしまう時に思い切って奮発し、山形紅花染めの単衣の羽織と、小千谷紬の袴とを、お仕立てをお願いしました。
 幸運なことに、この時には塩沢紬の単衣(ひとえ)のものを、親しくしていただいていたおばさまから頂戴していたのです。
 ただ、おばさまは小柄なお方でしたから、私の体格だと裄も丈も足りず、かといって解いて縫い直して長くするにも限度があってやはり十分な長さにできず、和洋折衷コーデか羽織と袴とを合わせて着るかしか無かったのです。

これが、出来上がったばかりの時に着てみた時の撮影。
後に半幅帯は色々な色味の着物に合わせやすい芥子色の薄いものへ替えました。

 かくして、私は普段から袴で外へ出掛けられるようになるため、先程の着付け本を頼りに再び猛特訓。
 袴は着付けてしまえば足捌きがとても楽で飛んで跳ねて走っても大丈夫、中に隠れてしまうからおはしょりも気にしなくていい、という気楽さがあるのに、フォーマルにもカジュアルにも着られるという便利さも兼ね備えているのが大好きです♡
 ぜひ多くの方に、卒業式や武道の稽古着以外でも袴を愛用していただけたらなぁ……なんて。

 それからは、1年を通して年間着られる和装をコツコツ揃えていきました。
 もう1枚の単衣としてさねん月桃染めの大島紬
 夏場の「薄物(うすもの)」として紫陽花色の小千谷縮と麻の長襦袢。
 本来はフォーマルな場でしか着ない訪問着を日常で着てしまうのはちょっと……ということから袷(あわせ)の小紋を2枚。
 母から譲られた傷みの激しい着物や帯の中から発見された、仮仕立てのままの総絞りの反物を袷の羽織に
 普段着向けの名古屋帯を、ひとつはいざという時のためにワンタッチ加工で、ひとつは自力で好きな結び方ができるようにそのままのかたちで。
 さらに小紋の柄に合わせて(2枚のうち片方は南天にシマエナガの飛び柄小紋)、茶色に南天が描かれた袷の羽織を。

 ……支出が恐ろしいことにはなりましたが、着物のいいところはその「初期投資」さえ乗り切ってしまえば一生モノというところ。今は気温や季節感に合わせて、お出かけ先に合わせて、袴や長着を選んで着ています。


着物生活は、これからも……

 洋服だと凄まじい速さで流行り廃りが起きて、翌年にはもう流行遅れだから傷んでもないのに着るに着られない……なんてこともあるから、勿体ないことこの上ないのですが、着物の世界の流行はもっとずっとゆっくり(数世代単位)なので、大した問題もなく母から娘へ、孫娘へ、と受け継いでいけちゃう(今だと成人式や卒業式の振袖をお母様からお下がりしてもらって着る「ママ振」が流行ってますよね)から、SDGsの取り組みが目指す「サステナビリティ」の面からも優れものなんです。
 お洋服屋さんが「循環する服」なんてキャッチコピーを掲げているのをみると、かつて江戸時代まではまさにそれが和装で実現してたのになぁ……と、何とも言えない気持ちになるものです。

 七五三の晴れ着から和装の魅力に惹き付けられた私は、今日のこの記事も和装でコツコツ書いています。
 今はルームウェアの旅館浴衣。この時期でも、中に保温性のある薄いインナーを着ておけば大して寒くもなく快適です。筒袖だから、たすきがなくても家事や仕事の邪魔にもなりません。

 和装がもっともっと、憧れだけど敷居の高い世界のものではなく、揃えてしまえば普段から着られる一生モノなんだということを、地道に広めていきたいなぁと思うところです。

 さて、私と和装のお話は一旦ここまでとしましょう。
 また何か機会やネタがあれば、書くかもしれません。コメント欄からご質問やご相談をいただけば、それにお応えする記事を書くことも考えています。

 長々とお付き合いくださり、ありがとうございました。ではまた、次の記事にて。

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