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映画日誌’21-04:わたしの叔父さん

trailer:

introduction:

デンマークの農村を舞台に、体が不自由な叔父と一緒に酪農を営む女性に訪れた人生の転機を描くヒューマンドラマ。監督・脚本は、デンマークの新鋭フラレ・ピーダセン。主演は獣医から女優に転身した経歴を持つ若手イェデ・スナゴーと、彼女の実の叔父であり、実際に劇中の農場を所有する酪農家ペーダ・ハンセン・テューセン。第32回東京国際映画祭で東京グランプリと東京都知事賞を受賞したほか、各国の映画賞で受賞している。(2019年 デンマーク)

story:

デンマーク、ユトランド半島の農村。27歳のクリスは家族を亡くして以来、酪農を営む叔父と2人で暮らしている。足が不自由な叔父の世話をしながら酪農の仕事をし、夕食のあとはコーヒーを淹れてくつろぎ、週に一度はスーパーマーケットに出かける。穏やかな日々を淡々と過ごす2人だったが、ある日クリスはかつて抱いていた獣医になる夢を思い出す。さらに、教会で出会った青年マイクからのデートの誘いに胸が高鳴りつつも、ふいに訪れた人生の変化に戸惑っていた。そんなクリスの様子に気が付いた叔父は、姪の幸せを静かに後押しするが...

review:

日本でも話題になった「ヒュッゲ」なデンマークの暮らしが描かれる。「ヒュッゲ」とは、心の満足や健康を促進するための、居心地がよく快適な空間や、楽しい時間のことだ。クリスと叔父さんも、毎晩その空間と時間を共有している。デンマークの伝統的な酪農家の営みや食生活、生活に溶け込む優れたデザインや美しいインテリアも興味深い。

好みが分かれる作品だろうし、退屈する人もいるだろう。監督・脚本のフラレ・ピーダセンは小津安二郎の影響を受けているそうだ。「ミニマルだが奥深い構成、何気ない日常の一瞬のきらめきを掬い取る手腕、観客を不意打ちする絶妙な間合いと思わず笑みがこぼれるユーモアのセンスは、同じく小津作品をこよなく愛するジム・ジャームッシュやアキ・カウリスマキを彷彿とさせる。」と解説にあったが、彼らよりもずっと繊細だ。

一切の無駄を省いた脚本で、日々の暮らしが淡々と描かれる。端正で美しい映像は、どこまでも静謐だ。その代わり、繰り返される生活の営みのなかで起こる僅かなゆらぎ、登場人物の些細な動作や仕草、ふとした表情がこれでもかと語りかけてきて、いっときも目が離せない。

2人で支え合ってきた叔父と姪の信頼関係。諦めたはずの夢が引き起こす葛藤、恋に落ちる瞬間。家族を失った自分を引き取って育ててくれた叔父さんへの思い。フラレ・ピーダセンは緻密な心理描写で、言葉より多くのものを伝えてくる。その仕事は見事であるし、クリスの戸惑いや恐れを体現したイェデ・スナゴーの演技も素晴らしかった。

そして、未来を切り開こうとしていたクリスの物語は、思いがけない展開を見せる。運命や宿命というものがあるなら、そうした類のものだろうか。ネタばれしてしまうからこれ以上書けないけれど、しかし彼女は、自分の人生を選択したはずだ。大切な人との何気ない暮らしのなかで、きっと幸せであってほしい。心に残る、美しい作品だった。

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