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「不思議な薬箱を開く時」

こんにちは、
「不思議な薬箱を開く時」です。
いきなりですが、翼がほしい!と思われたことは?
鳥のように美しい翼が生えてきたら。
まるで天使のような何かに見えますよね。
空を飛びたい願望だけではなく、とても美しい存在になったような・・・。
服用すれば、羽が生えてくる?
それは、どういうお薬なのでしょうか。
では、お薬箱を開けてみましょう。

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「翼が生える薬」

まあ、どこのどなたが、このような事を考え出すことやら。
しかし、実際にあったのですから仕方がありません。
このお薬が製剤されたのは、
パキスタンのカイバル・パクトゥンクワ州の州都、
ペシャーワルです。アレクサンドロス3世の、
ディアドコイ(後継者)であったセレウコス1世は、
かねてより、アッラーの御使いである天使に憧れておられました。
死して後、天使と共に天の王国へと飛びたいと、
国中の医師、薬剤師、錬金術師たちに、
翼が生える薬を製剤するよう命じました。
相手は皇帝ですので、
いかなる難題、それもほぼ不可能であるとわかっていても、
承るしかない時世でした。
命じられた者たちすべてが頭を抱え、
悩み苦しんだことでしょう。
あらゆる古文書を解き開き、
さまざまな国へも協力を求めましたが、
ともすれば、なんと愚かな皇帝であろう!と、
嘲笑されてしまうこともしばしばです。
名立たる美しい都を支配している皇帝は、
臣下の苦労も知らず、
毎日のように、翼が持てた日のことを思い絵描いていたのです。
お伽話ではあるまいし、さすがにこんなお薬はない・・・、
まあ、あくまでも記録上のことですが、
無理な命令が発令されてから27年後、
完成したと残されています。
被検体らしき男の背中に、
大きな翼が生えている絵を見る限りでは、
成功したのであろうと思われます。
サンスクリット語と、古いペルシア語で書かれた文書には、
製剤法と製剤料が記されています。
ペシャーワルの国庫の奥深くに、
多種多様な製剤書と共に隠されていました。
では、調剤料
をご紹介いたしましょう。

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「翼が生える薬」処方

鴉の卵・・・・・・・・・・・・・6個
蜂蜜のエリキシル・・・・・・・・小匙2杯
阿片末・・・・・・・・・・・・・小匙2杯
羊の胎児の骨粉・・・・・・・・・小匙3杯
抹香末・・・・・・・・・・・・・小匙1杯
ベラドンナエキス・・・・・・・・小匙2杯
死の天使の酒・・・・・・・・・・大匙3杯
ランプレトスのエリキシル・・・・小器2杯
ギロミトラエキス・・・・・・・・小匙2杯

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諸注意
ランプレトス、ギロミトラは、
清い水に漬けて、強い毒性のある上澄みを
絹布に沁み込ませて丹念に採取します。
採取の際は、必ず手袋を着けること。
皮膚に沁み込むと死に至る危険があります。
「死の天使」は、凄まじい毒性を持つ純白のキノコで、
寒い地方の森林地帯で、稀に見つけられる珍種です。
一握り程度の本数を
度数の高いアルコールに漬けましょう。
3年ほど熟成させれば出来上がりです。
蒸留すれば、さらに高貴な毒性を保ち、
素晴らしい製剤料になるでしょう。
蒸留中は、しっかりと目鼻を覆い、
皮膚を出さないように気をつけましょう。

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備考欄
あくまでも、記録に残されているという次第です。
しかし、製剤法、製剤料と、
どちらも詳しく書き残されていますし、
服用後に起こる症状や、
肩甲骨が凄まじい痛みを伴いつつ、
生木を裂くような音を立てながら、
翼と化していく在り様を
事細かに明記してあります。
あらかたの被検体は死亡したようですが、
生き残った成功例の背中には、
肉色をした大きな翼様の物が生えてきたようです。
実は、ここから問題でして。
実際、飛べたのか?という事例には、
一切、触れられていないのです。
セレウコス1世は、待ちに待った薬を喜び、
死の床で服用すると明言したとのこと。
成功例であるはずの被検体は、
翼の重さに喘ぎ苦しみ、
とうてい、長生きはできなかったと記されています。
まあ、みなさんがイメージしている翼とは、
どうも違うようですね。

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