竹内鮭鱒(たけうちさーもん)

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まるちゃんの成立(3/3章)/小説 #創作大賞2024

▼前回のお話 はじめから読む方はこちら ひとつ前から読む方はこちら 7.  二〇一七年春、ゆりちゃんは東京へ溶けこみ、人の多いところへぼくをつれていった。おそらくぼくへの教育であり、自分への訓練だった。ふたりきりで、この先本当にだいじょうぶなのかと、ぼくを連れてすごす効果を試しているようだった。  勢いで決めた転職先には、初勤務の日まで一か月半時間があった。それまでは平日の昼間から、東京駅からちかい芝生の上に座って、おひさまに当たってのんびりすごした。  彼女は地面を

    • まるちゃんの成立(2/3章)/小説 #創作大賞2024

      ▼前回のお話 はじめから読む方はこちら 4.  単純な素材で構成され、簡単な作法で描けてしまうようなぼくだけれど、ときおり見習い哲学者のようにかんがえてしまう。昔、ゆりちゃんのリュックに入っていっしょに大学の授業を受けていて、そうなった。物の存在について語る講義は、よくわからないということだけがわかったのだが、かんがえることは楽しいと気づいた。  ぼくは、どこからきたのか。どこへいくのか。どうして、ゆりちゃんの声や熱は、ぼくに命を吹きこんでくれるのか。ほかの物もそうなの

      • まるちゃんの成立(1/3章)/小説 #創作大賞2024

        1.  記念すべき誕生は、地元球団のオリックスバッファローズが優勝した一九九六年のクリスマスだった。駅に勢いある旗が立った年の瀬、こたつのうえでぼくはうまれた。ゆりちゃんとお母さんが、ふたりでぼくを作ってくれた。  ぼくは、温州ミカンくらいの大きさの、きいろいあみぐるみだ。生物体系にくみこまれていない、ただのあみぐるみで、ゆりちゃんは「まるちゃん」と呼んでいる。  誕生の方法はかんたんだった。あみもの器具にきいろいアクリル毛糸をからめて、ハンドルをまわすと、円にならん

        • アンジュルムックに夢を見る

          良い仕事をすること それだけでも震えるほど嬉しいことですが、 好きな人と良い仕事ができたら、 より歓喜するだろうと思います というのも、嫉妬するのがおこがましいほど、素敵な仕事をされた方々がおられまして アンジュルムの和田彩花さんが2019年にグループを卒業される際、蒼井優さんと菊池亜希子さんがアンジュルムのムック本『アンジュルムック』を責任編集されたのですが、 このお仕事がすごく素晴らしくて 蒼井さんと菊池さんは、アンジュルムのファンを公言されていて、 ただ好きで応援

        まるちゃんの成立(3/3章)/小説 #創作大賞2024

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        • 創作大賞2024「まるちゃんの成立」
          3本

        記事

          バナナのおしりにクマがいる

          我が家はテーブルにバナナスタンドがあるため、椅子に腰掛けると、バナナのおしり(黒い先っぽのこと)がよく見えます このおしりたち、実は枯れた花なんだそうです わたし、これがクマの顔に見えます 一度見えてしまうと、それ以来クマにしか見えなくなって、スーパーでバナナを買うとき、よりクマらしい先っぽを持つバナナを探してしまいます こいつはクマった(こまった) とりあえず、バナナ熊とでも名付けておきましょう 愛おしいです

          バナナのおしりにクマがいる

          オオイヌノフグリばかり投稿していた

          わたし、細々と続けているX(旧Twitter)で、毎年一回オオイヌノフグリの写真を投稿しています 小さくて青い可憐な花弁であることに惹かれたのはもちろん、名前もなかなか直接的な表現(犬の金玉)で、あっけらかんとした気持ちになりますので、好きで投稿しています オオイヌノフグリばかり投稿しているうちに、数年が経ち、結婚して子も生まれました 子が大きくなったとき、親の自分が何をしていたのか知らせる術は何かと考えていました わたしは会社員として働きながら小説を書く生活を長く続け

          オオイヌノフグリばかり投稿していた