青森県立美術館と企画展「奈良美智: The Beginning Place ここから」をみて
まえがき(余談)
JR東の「どこかへビューン」という、JREポイント6000円分で新幹線の駅がある街どこかにいけるという気の狂ったサービスを使用した結果、東北新幹線最果ての地「新青森」へ行くことになった日から絶対に行くとケツイしていた青森県立美術館。
有名なあおもり犬や青森出身アーティストさんの他、シャガールの作品がいっぱい見られると聞いて、一人浮かれながら訪れました。
(浮かれすぎてバスに乗り遅れ、タクシーで行くことになった)
白銀の世界に佇む真っ白な建物が良すぎて、心の底から冬に来てよかったとしみじみしながらチケット売り場へ行くと「常設展は展示替えのため非公開、企画展のみ」との記載が。
本当にかばんを落とすんじゃないかという勢いで脱力しました。
楽しみにしていたシャガールが見られないというのもありましたが、今開催されている企画展は青森出身の芸術家奈良美智さんのもので、正直なところ、私は奈良美智さんの絵があまり好みではありませんでした。
奈良さんの作品で恐らく最も有名であろう女の子がこちらを見ているあの絵、あまりに強すぎて少し怖くなるからです。
有名な方である認識はあるものの、せっかく青森に来ているのに「怖いから企画展はいいや」と思いながら企画展のポスターを眺めていたような人間です。
しかし企画展しかやっていないというならば、青森県立美術館を観るためにはもう企画展に行くしかない。来てしまったため後には引けず、企画展のチケットを購入しました。
B1展示室
正直もう地下の展示室へ足を踏み入れた時から「チケット買ってよかった~!」と思いました。まず展示スペースの屋根が高すぎる。最高。
そしてシャガールの絵が企画展の入り口から見えている!でっか!最高!
青森県立美術館のサイト(https://www.aomori-museum.jp/collection/?target=about)でも写真を見られる「アレコ」の舞台背景画の4点だけ、展示室のロビースペースのようなところ(アレコホールというらしい)にでかでかと展示されていて見ることができました。
でっけえ~~~~~!!!!
このでかさ、伝わる…?こんなでかいサイズの絵を描けるバランス感覚…一体どうなってるんだ…。すげえ…。
4幕飾ってあるうち1幕はアメリカの博物館所有で、その博物館が改修工事している間の長期レンタルだそうです。日本にあるうちにぜひ見てほしい。
モナリザは実物見ると「ちっさ!」ってなるとよく聞きますが、これは実物みても「でっか!」ってなると思う。
感じてほしい、でかさからくるパワーを。
でかいというのはそれだけでとてもすごい。
(でかいことがすごいというのはロンドンの大英博物館やV&A美術館が教えてくれますので、是非。)
そんなこんなでシャガールに圧倒され、既に満足しながら足を踏み入れたのが…
企画展「奈良美智: The Beginning Place ここから」
結論から言うと、めちゃくちゃよかったです。
奈良美智さんの作品が好きになった。
奈良美智さん、絵がうまい
まず、私が勝手に持っていた「奈良美智さんの描く絵、こわい」という印象は「絵、うま…」という直観的な感想をもって完全になくなりました。
奈良さんの絵はイラスト風(という表現があっているのかわからないけど)の印象があったのですが、数少ないながら展示されていた風景画の油彩もうますぎて思わず息が漏れました。は~…絵うま…。
画家さんになんて失礼な感想なんだという気がしますが、本当に「印象的な女の子」を描く人というイメージしかなかったので驚きました。
画角も素敵だし絵もうまい。色もすごい。
足を進めるたびに湧き上がる「なんだ、こわい絵ばっかりじゃないじゃん…」という赤ちゃんみたいな感想とともに、苦手意識もどんどん薄れていきました。
「旅する山子」
それどころか「めっちゃ好き!!!!」と言える作品と邂逅。
「旅する山子」シリーズです。
山子ちゃんという作品がいろんなところに置かれた写真作品シリーズで、巷で流行っている「ぬい撮り」によく似ているけど、ぬいぐるみの規模感では決して出せないような雰囲気と、山子ちゃんの柔らかい表情や、異物なはずなのに馴染んでしまう絶妙な素材感がもう好みドンピシャでした。
写真として見てもそれぞれとても素敵で、奈良美智さんのことがぐっと好きになりました。
(帰りに山子ちゃんのグッズがないかミュージアムショップをうろついたけどありませんでした…ほしかった…ポストカードでもミニ山子ちゃんでも…)
奈良美智さん、器用すぎる
企画展全体を通して最も驚いたことは、山子ちゃんが「写真」だったこともそうですが、作品の幅がめっちゃ広いということ。
多数飾られている絵自体もいわゆるキャンパス以外に、メモ帳に描いてあったりダンボールに描いてあったり、色鉛筆で書かれていたりアクリル絵の具で描かれていたりするのに、そんなもんでは済まず「なんか焼き物飾ってある…」とか「ウレタン像でっか」とか「展示室の中に小屋が現れた…」「今度はバーが現れた…」と、個展とは思えないほどいろんな展示にあふれていました。
バーの図面が展示されていたところのキャプションに「器用な奈良は…」といった一文があったのですが、まじで器用。
器用すぎるくらい器用で、いったいじゃあできないクリエイティブって何なの…?と思ってしまうくらいなんでもできそうでした。才がありすぎる。
現代芸術を浴びる
展示の中には戦争のことや原発のことのように、「うんうんそうだね」と簡単に頷くことができない題材の作品も色濃くあったけど、それでも奈良さんがその作品一つ一つに自分の意思を盛り込まれていることはひしひしと伝わってきて、「ああ現代芸術を浴びているな~」という気持ちになりました。
作家と同じ時代を生きて、題材になった事象を自らも経験しているからこそ感じる「何か」こそ、現代芸術の一つの魅力だと思います。
それらは見た人がその事象を考える機会を与えてくれる。
ただ「考える機会を与える」というのは、文章ではなかなか成せないと思う。だから昔からいろんな事象に合わせていろんな絵が描かれてきたんだなと、この展示で気づきました。
企画展をみて
この企画展は私の中の「奈良美智」という芸術家の印象を大きく変えてくれました。
本企画展のポスターにも使われている代表的な女の子の絵は今でも少し怖いけど、その「怖い」という感情を与えられるパワーこそが奈良美智という人の作品が持つ魅力であるのだと思います。
苦手だと思っていたものの印象が変わり、好きなものを見つけ、現代芸術を考え、そこから社会を、未来を考える機会を与えてくれた、とてもよい展示でした。
あとがき(余談)
青森県立美術館、建物のデザインも良く、展示室も広く、またそれを生かした作品の配置ができる学芸員さんがおられて、めちゃくちゃいい県立美術館だなと思いました。
いい美術館だなあ。
欲を言うなら常設展を「コレクション展」と呼んでいることと、それらが今見られないことをサイトの上の方に記載しておいてほしかったけど、また行けばよいだけなので些細なことです。
青森駅でタクシーを拾って「青森県立美術館まで」という前の私が常設展を観られないと知っていたら向かってなかった可能性すらあるので、むしろよかったのかもしれない。
それくらいよい企画展、そして美術館でした。
2024/2/4 来訪
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