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[ソウル暮らしのおと]西小門(ソソムン)アパート

ソウル駅から地下鉄5号線の西大門(ソデムン)駅に向かって北上すると、道路の左側に、近代的なビルや警察庁の間に挟まった不思議なかたちの建物が見えてきます。

周りの風景に不釣り合いなほど古く、長屋のように細長く連なった建物は、道に沿ってゆるくカーブしているのです。

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ここは、西小門(ソソムン)アパートという名前の建物です。

1971年に承認を受け72年に完成したという50年の年季の入った7階建てのアパートで、1階が飲食店などのテナント、2階から7階までが住居となっています。1棟から9棟までがまさに長屋式に横に連なっているという珍しい形。

ゆるくカーブしてみえるのは、実は湾曲しているのではなく、棟の間の2か所で少し内側に折れ曲がるように建てられているそうなんです。

この不思議な形の理由は、建てられた立地にあります。このアパートが建てられた場所は土地ではなく、蔓草川(マンチョチョン)という河の上。つまり暗渠の上に建てられたのです。そのため、建物が河の形にそってしなっているように見えるのです。

その後、法整備によって河川の上に建物が建てられなくなってしまったため、この西小門アパートは再建築ができないという運命になってしまいました。それでこのアパートは50年前の姿そのままに、ここに現存しているわけです。

もちろん今も人が住んでいます。気になる不動産価格は?
不動産情報によると、12坪の部屋で、売値は2億5千万ウォン(2400万円)、賃貸はチョンセ(韓国独特、一度に預け金を払って契約期間賃貸する)で1億5千万ウォン(1400万円)、月家賃は6~7万円といったところ(2021年2月現在)。

ソウル駅から徒歩圏内という都心でこの価格、というのは住居価格が高騰しつづけているソウルではなかなかあり得ません。やはり再建築ができないという点が大きいのでしょう。

ところで、建築家ファン・ドゥジンさんが書いた「もっとも都市的な暮らし(가장 도시적인 삶)」という本では、この西小門アパートの魅力をこんな風に分析しています。

1階に飲食店が並ぶこのアパートには、7棟と8棟の間に通路があり、アパートの裏側の路地に並ぶ昔ながらの小さな飲食店に直接つながっているのです。

つまり、商店街への人の流れが、西小門アパートによって遮断されることなく、大通りからアパートを通って裏通りへとつながるように建てられたわけです。

このような都市の機能と人の住まいの調和を、著者のファンさんは「建築したあの時代の都市的な礼儀作法」と表現しています。

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ソウルと近郊の都市は、どこもかしこも再開発・再建築で、昔の姿をとどめる場所は年々消えさっています。

都心でビルの間に70年代の姿のまま残ってしまった西小門アパートは、だからこそ、ただ通り過ごせない魅力を醸しているのかもしれません。

ちなみにここは、ドラマ「マイ・ディア・ミスター(나의 아저씨)」にも、ロケ地として登場しています。
(2018年放映の「マイ・ディア・ミスター」は今でもたくさんの人が「人生で一番のドラマ」に挙げるほど。超おすすめです!)

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KBS World Radio「土曜ステーション」2021.02.06 放送]
http://world.kbs.co.kr/service/program_main.htm?lang=j&procode=one

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