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第4幕 第1場 宮中の某所

(PDFファイルにより縦書きでも読めます) 夕暮れ。背景の空が朱い。 帝、武装した高野の大将より報告を受けている。 大将  仰せのとおり、左右の近衛(このえ)、左右の衛門(えもん)、左右の兵衛(ひょうえ)の六衛府より、併せて二千の兵を集めましたほか、都中の検非違使(けびいし)より剛(ごう)の者五百を選びより、竹取の邸(やかた)に遣わしております。 この二千と五百の兵を五つに分けまして、邸の東西南北をそれぞれ五百ずつで固め、残る五百を廷内にくまなく配置し、十全に警戒させ

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第4幕 第2場 竹取の翁の家

(PDFファイルにより縦書きでも読めます) 宵の口。 上手に一間、奥へと続いている。中央と下手は庭。前栽、置き石などが見える。舞台後方に築地(ついじ)、その向こうは竹林。 庭の部分にスポットが当たっている。庭では、翁、高野の大将はじめ侍達が数名、ものを食いながら談笑している。築地(ついじ)の上にも侍の姿。侍女たち、給仕している。 犬の鳴き声。 竹林にかかる――望月。 侍A  おおい、こっちにも茶をくれないか。 翁  はい。ただいま。( 侍女を指図する) 侍B 

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第4幕 第3場 竹取の翁の家

(PDFファイルにより縦書きでも読めます) 暗転の間、読経が続く。ゆっくりと天へと向かう月。 中天に達すると、青白い光が舞台に満ちる。 庭の侍達、家の中の帝、翁、媼、静寂のうちに眠り込んでいる。 フクロウの声。 中臣、登場。 中臣   ( 舞台を見回して)面白い芝居が見られるというのでこうして来てみれば、何のことはない。役者どもがアホ面並べて居眠りときている。これじゃ月の奴らにすすんで協力しているも同じ。てんで物語(ハナシ)になりゃしない。 どら、ここは一つ。

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第1幕 第1場 宮中の一角

(PDFファイルにより縦書きでも読めます) 心にもあらでこの世にながらへば  恋しかるべき夜半の月かな 春の宵。満月。 舞台奥に帝。客席に背を向け縁に座り、月を眺めている。縁の先に、満開の桜、ときおり散っている。舞台下手より続いている板塀が、桜の幹を客席よりさえぎっている。 舞台外より中臣の唄が近づいてくる。  中臣  ひさァかたのォー、ひかァりのどォけき、春の日に(下手より登場)、アア春の日に、しづゥごころォーなくゥ、花の(桜を見上げ、手にしている扇で下から扇ぐ

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第1幕 第2場 竹取の翁の家

(PDFファイルにより縦書きでも読めます) 同夜。月、天頂に達す。 座敷に竹取の翁、媼(おうな)、五人の求婚者、酒や料理を前に談笑している。 侍女たちが給仕している。 座敷の一隅は、客席からは御簾で、求婚者たちからは屏風で隠されている。(後にここにかぐやが入る) 家の外には透垣(すいがい)がめぐらされ、裏手 に築地(ついじ)、その向こうに竹林が見える。 媼  それでは大伴の大納言さまが優勝されたのでございますか? 大納言  ええ。今日は運がついておりました。(双

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第2幕 第1場 宮中(庭に面した庇の間)

(PDFファイルにより縦書きでも読めます) 秋の午後。 舞台手前は広い庭。紅葉したる木々が左右に立つ。 奥は寝殿作りの建物。勾欄のついた簀の子縁に、貴族四人( A・B・E・F)、女房二人( C・D)が、庭に下りる中央の階段の両側に居並んでいる。( 階段をはさみ中央より右方にACE、左方にBDFの順)。彼らは、今しも庭で行われている童子達のケマリを眺めている。御簾の上がった庇の間には御椅子、今は空いている。一通りケマリがなされ、見物人の拍手喝采のあと、童子達は一礼して退場

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第2幕 第2場  闇

(PDFファイルにて縦書きでも読めます) 一条の光の中、夢円法師たたずむ。 夢円  ( 大音声でいかめしく)この世は夢。この世は幻。形あるものはすべていつわり。形と影を持ついかなるものも時の仕打ちには勝てぬ。いつしか煙と失せ塵と消えるが世のならい。一体、永遠でないものが真実と言えようか。泡のように儚いものを後生大事に抱え、失うことにおびえ、壊れたことに憤り、還らぬことを嘆く。あるいはまた、おのれが依然所有せざることを悶々と恨む。形に頼れば心は形に支配される。影を追えば人は

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第2幕 第3場 竹取の翁の家

(PDFファイルにで縦書きでも読めます) 冬。雪の降り積もりたる午後。 座敷に翁、媼、石上の中納言が火桶を囲んで談笑している。中納言の傍らに朱塗りの箱が見える。 かぐやの気配が御簾を透かして窺える。(御簾の下より出し衣) 媼  さあさあ、中納言さま。もっと火のそばにお寄りくださいませ。お寒うございましょう。 中納言  いや結構。かぐや姫のお側にいるというそれだけで、この身はカッカと燃えておりますからな。( 扇であおぐ) しかも私め、火の山から戻ったばかり。全身に浴び

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第2幕 第4場 宮中の一角

(PDFファイルにて縦書きでも読めます) 真っ暗な舞台に読経の声。 それがだんだんと嵐の音、波の音に変わっていく。 船のきしむ音、雷鳴、そして人の声。 人の声1  皇子、無茶です! お止めください! 空が怒っておりまする。海が怒っておりまする。あの龍は神の使い、逆らえば必ずや神罰が下りましょう。 人の声2  みな、早く綱を取れ! どこでも良い。おのれを船に結いつけるのだ。さあ早く! 波に呑まれるぞ! 皇子、早くこちらへ。帆柱におつかまりください。 人の声3  おお

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第3幕 第1場  竹林

(PDFファイルにより縦書きでも読めます) 夜。 竹林を照らす望月。フクロウの声。 中臣  ( 舞台外から)おーい、おーい。大君さーん。聞こえますかあ? 聞こえたらご返事を。おーい、おーい。 ( 辺りを見回しながら登場)ダンナあ、どちらですかあ? もしもーし。 ( 舞台中央へ)チェッ。はぐれてしまった。言わんこっちゃない。とっとと馬に乗っけて連れて帰れば良かった。 だいたい時の帝が先払いも護衛もなしに、女のところに通うっつーだけでも前代未聞のことだのに、「今宵は月

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第3幕 第2場 竹取の翁の家

(PDFファイルにより縦書きでも読めます) 三日月。虫の声。 後ろ姿のかぐや、縁で泣き伏している。 翁、媼、奥より登場。媼、盆を手にしている。二人戸口からそっとかぐやの様子を窺い、顔を見合わせる。媼、自分に任せてくれと翁に仕草で示し、座敷に入ってくる。 かぐや、二人に気づいて身を起こし、居ずまいを正す。 媼  ( 盆を下に置き、座って)かぐや。こっちへ来て一緒にウリでもお食(あが)り。残暑続きとはいえ、やはりもう秋。夜気は体に障りますよ。 かぐや  ( 振り向かず

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