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2023年の読書log

ブクログで今年の読書を振り返ると、例年より冊数は少なめながらも「いい本読めたな~」と思います。
(妊娠してびっっっくりするほど活字が読めなくなりました。新書はかなり辛い、小説も根気がいる、説明書もヤダ、一番つらいのがお役所の書類・・・)


■「私」時代のデモクラシー(宇野重規)

今年私が考えていたことの起点になった本。
「社会人」してるはずなのに、社会と私の間に距離を感じていたことがきっかけで読みました。
在宅勤務が多いせいか仕事をしていても社会にアクセスできていない感覚があり、外に出れば数えきれない人とすれ違うのに誰とも連帯感のようなものを感じない。友達付き合いはあるけど、点と点のつながりに過ぎないような気がする。
このままでは、今社会で起こっていることに対してどんどん距離ができて無関心になってしまう。大人として政治参加しなければならないのに、日本がどんどん悪くなっていっても人のせいに出来ない立場なのに、どうしたらいいんだろう。
そんな漠然とした不安感がありました。
この本は、個人の自由と平等が開かれた結果、だれもが「私」自身にフォーカスしすぎて民主主義が成り立ちづらくなっていることの説明から始まります。
今年の私にクリティカルヒットした本だったなあ。詳細な内容は忘れちゃったのでまた読み返したい。

こちらは関連して読みたい本


■再婚生活 私のうつ闘病日記(山本文緒)

タイトルの通り、雑誌に再婚後の生活の日記を連載する予定が、うつ病になってしまったことからうつ病の闘病記になったこの本。
こちらは3回目くらいの再読で、私自身の精神状態が危ういときに読み返している。
私は、調子が悪くなったときに限って自分の状態を客観的に把握することができず「まだいける」「もっと辛い人もいる」「こんなのでダメになってたら何もできない」と追い込んでしまう悪癖がある。そういうときにこの日記をパラパラとめくり、自分にも心当たりがあるような場面を発見すると、やっと客観的になれる気がする。


■細雪(谷崎潤一郎)

谷崎潤一郎の小説は学生時代半ば義務のようにいくつか摂取したけれど、これは大長編なので手をつけていなかった。この年になって初めて読めたおかげで、味わい尽くすことができたと思う。
ひたすらに文章がうまくて、文章から立ち上がってくるお着物や京阪神の景色が美しくて、船場言葉のリズムが心地よい。

「こいさん、頼むわ。―」
鏡の中で、廊下からうしろへ這入って来た妙子を見ると、自分で襟を塗りかけていた刷毛を渡して、其方は見ずに、眼の前に映っている長襦袢姿の、抜き衣紋の顔を他人の顔のように見据えながら、
「雪子ちゃん下で何してる」
と、幸子はきいた。

「細雪」上巻より

これは小説最初の一文なのですが、この、一息で読むには長すぎるように見える一文で、以下の情景を過不足なく説明しているのがすごい。
・幸子は長襦袢姿で襟に刷毛でおしろいを塗っている
・幸子から見て後方の廊下から妙子が部屋に入ってくる
・幸子は鏡越しにそれを認め、鏡から視線は動かさないまま妙子に刷毛を渡す

朝ドラのような展開も楽しい。この小説を読んだら阪急神戸線沿線に住みた
くなります。


■なにかが首のまわりに(チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ)

ナイジェリアに生まれアメリカに渡った作家による短編集。
ナイジェリア国内で暮らす人や、ナイジェリアからアメリカへ移民として渡った人について描かれている。
食べ物も主要な街も宗教も、なーんにも知らない場所について少しでも解像度を上げるには小説が一番だと思っていて、この短編集を読んだときちょっと世界が広がった気がした。
しかしアメリカという国と「黒人」の関係は知れば知るほど複雑で、外部から見るとどこにそんなこだわりポイントが・・・?と思ってしまうところもある。アフリカ系アメリカ人と、アメリカに住むアフリカ人では全然違うらしい。

この作家が描く、ナイジェリアや移民の目から見たアメリカをもっと知りたくて、続けてこちらも読みました。


■笹まくら(丸谷才一)

太平洋戦争で徴兵されたけど、「徴兵忌避」して身を隠しながら終戦まで逃げおおせた男性が主人公。徴兵忌避したことは周囲に隠しながら、戦後数十年会社勤めをしていたが、ふと雲行きが怪しくなるところから話が始まる。

ウェットな私小説かと思いきや、非常に技巧的で、英文学っぽいなと感じた。と思ったら、丸谷才一はイギリス文学の研究者なのでそりゃそうだった。技術的な面からも楽しめる小説。



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