もはや実生活を伴わない「元号」のレゾンデートル

私はノンセクト(≠ノンポリ)であるが、今回のこの今上陛下のご譲位に纏わる話の混乱具合が、まったく陛下のお気持ちに沿ってない感がすごいのはただ外野から笑ってりゃ良いのだけど、これはどうなんですかね? と言うニュースが5月17日に飛び込んできた。

うん、言ってる意味がわからない。

まぁ、実際にはまともな企業であれば、すでに新元号への対応とか済んでるか対応中なんだろう。元号マスタに適当なレコード切っておいて、適当な言葉を入れておいてさ、「殲滅」とか「鉄槌」とか「欅坂」とかさ。で、帳票出力とかに影響がなければそれで良い、みたいな対応を計画的に進めている社内IT部門が有る会社なら問題ないはずなのだ。はずだよな?

だが、日経の書きっぷりがヨタでなければ、これは大事件になる可能性を秘めていることになる。以下に引用しよう。

 政府や自治体の情報システムは新元号に合わせて改修する必要がある。証明書などに「昭和」や「平成」などの和暦を記しているためだ。改修が遅れると、西暦と和暦のシステムを接続する際などに障害が起きる可能性がある。例えば税を納めても納税記録が残らなかったり、住民票を発行できなかったりする可能性があるという。

うん、ちょっと落ち着こうね。ひー、ふー。ひー、ふー。

まだ着手してねぇとこがあんのか!?

もう驚き以外の何物でもないでしょうに。お役所のシステムががっつり元号で動いていることなんて百も承知なのに、それでもなお現時点においてなんら対策を講じようとしなかった中央省庁や地方自治体が有ると言うの? 冗談ですよね? まさか元号が公表されるまで対応はしないとでもおっしゃるのですか? 場合によっては古いシステムなんてべったりコードに元号埋まってて、和暦変換もライブラリになってないとかクソみたいなコードだらけのシステム、あるよ多分どっかには。もっとも、同記事ではすでに大阪府は対応をしているみたいなんだけど、どういう実装かわからないのでホントに間に合う代物なのかもわからない。

とか、言ってたらこれだ。再度引用する。

 政府はこれまで天皇陛下の在位30年記念式典を開く19年2月24日以降で新元号を公表する検討を進めていた。一方で「早く公表すると、国民の関心が新天皇に向かい、いまの天皇陛下を軽んじることになりかねない」との指摘があった。公表時期を改元に近づけ、早めに公表のタイミングを知らせることにした。

お前らは我々国民がどんだけ馬鹿だと思ってんだ。

何が今上陛下を軽んじかねないだ、お前らがそもそも国民を土砂か砂利みたいに言うておいて、どの口がそんなご立派なお気遣いを口にしやがる。お前らの口角、永遠に笑顔にしてやっても良いんだぞこの野郎。

そうじゃねぇだろうよ。確かに「一世一元の制」が明治より始まってこの方、元号は各々の天皇と1対1で紐付けされるようになったのは確かなのだが、昭和天皇の御在位は60余年にも及び、そのため基本的に「昭和さえ覚えておけば何とかなるっしょ、1945年=昭和20年だし」と、敗戦の年をベースにすれば良かった。つまり、実生活の中で元号を用いることに、それほど不都合がなかったのである。戦前がどうだったかは明確ではないが、特に大正年間は短かったこともあるし、幕末の頃生まれた方もご存命であったろうから、運用上はむしろ西暦のほうが違和感が有っただろう。だいたいその頃はまだ、オンラインシステムなんて存在しなかったのだ。

時代は移ろい、先の大戦以後直接的に日本が戦火に巻き込まれることはなかったが、世界は決して平和ではなかった、と言う説教じみた前口上を述べるとして、昭和がその幕を引き、平成と言う時代が始まった。まぁ、始まってすぐは良いのだが、それが10年、20年と今上陛下の御在位を刻むごとに、ある一つの問題が起きてきた。それは基本的に、昭和の人間にありがちな話なのだ。

「あれ、平成元年って(西暦)何年だっけ?」

市民の生活にはインターネットによるWebシステムやスマートフォンアプリケーションが深く根差して普及し出したが、そういった新興のシステムたちは、相次いで元号を捨て始めたのだ。従って、元号と言うのは既に一部金融機関やお役所、そして日本の古式ゆかしき伝統を保存する機構の中でしかレゾンデートルの存在しない、ただの称号なのだ。

ただ、不便だから面倒臭いから元号をやめろ、と言うつもりはまったくない。元号と言う暦の仕組みは、古く前漢の時代の中国に端を発し、仏教文化とともに日本に伝わってきた、いわば漢字文化圏(だからベトナムの前身である阮朝には年号が有った)特有の文化風習と言える。それを無碍にやめろと言うのは、さすがに無粋である。だが、今回の場合は「改元することが予め決まっている」と言う状態の中で起きている混乱が、明らかに政府vs宮内庁のパワーバランスによって惹起された「民間無視」のメンツの張り合いだと言うのなら、どうだろう。陛下のお気持ちに、忖度できていないのではないだろうか?

とりあえず公文書から、元号を一掃してみましょうよ。宮内庁と神社本庁くらいでその伝統を守るくらいにしても良いんじゃないんですか。だっていまのままなら確実に、我々は20年後くらいに

「あれ、『新元号』元年って(西暦)何年だっけ?」

って、確実に言ってしまう程度に、実生活は西暦に駆逐されてるので。


(2018/05/21追記)そんなことを言っていたらこんなニュースが。

まぁ、遅きに失した感は拭えませんがね。


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