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RIVER【後編】

二人の間に静寂が重くのしかかる。

青柳は言葉を失い、自分が有頂天になっていることを恥じた。この事実を山本一人で抱え込んでいる。
どんな言葉をかけたら良いのか…でも、山本のやっていることは賞賛に値するのではないか。
「山本さん、ごめんなさい。私は…私は…」
青柳は慰めの言葉を言おうとしたが山本の辛い気持ちを肌で感じ、感情が先に出て涙ぐんでしまった。
「あぁぁ青柳さん、ごめん。そんなつもりで言ったんじゃ…ないよ」
山本も20年近く後悔の念に苛まれて誰にも言わないでいたが、なぜか青柳の前では素直に自分を出せた。
「お墓参りは行っているのですか?」
「あぁ命日には必ず行っているよ…」


青柳と出会ってからの山本は、いつになく仕事に精を出している。
川岸には自転車、ステンレス製のラックハンガー、ぐちゃぐちゃの針金が散乱している。これら全部山本が一人で川から引き上げた物だった。
『なんで…みんなココに捨てるんだろ。ゴミがゴミを呼んでいるんだろうなぁ』
やるせない気持ちになりながら一人で片付けをしていると、写真を撮る “カシャ” という音が聞こえた。
振り返るとそこに青柳が立っていた。
「山本さん、こんにちは。突然写真を撮ってしまって申し訳ありません。でも私、考えていることがあるのですが、山本さんが創作しているオブジェを個展に出してみたらと思うんですけど…」
「えーーっ! こんなガラクタを!」
「ガラクタなんかじゃありません! 立派なお仕事をされていて、そこから創作をしているのは話題性がたっぷりで、絶対成功すると思います! 山本さんの想いが一つ一つに詰まっているんですもの」

夕陽が川の水面に照らされて煌めいていた。
青柳の目には何か大切なものを見つけたかのように澄んでいた。
その目をまっすぐに見つめられるようになった山本は、固まっていた自分の思考や感情が溶けていくのを感じた。

「手伝います!」
「いいよ、洋服が汚れちゃうよ」
「いいんです、やらせてください」
「それじゃ、これ軍手しな」
「ありがとうございます」
青柳は腕まくりをしてぐちゃぐちゃの針金をほどいている。少し眉間にシワを寄せながら、不器用な手さばきでなんとかやっている。
その健気な思いに、山本はクスッと笑いながら作業を進めた。
「山本さん! 個展を絶対やりましょうね」
笑顔で言う青柳に、山本はハニカミながらうなずいた。

山本の中で希望の灯火が、ほんのりと灯った。

来週につづく…

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