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クリスマスハプニング【後編】

大山は、仏壇の写真の三枝を見て遠い昔を思い出していた…

集結する人間の顔は殺気立っている。
自分の生活を守ろうとする農民、高度経済成長を破竹の勢いで押し通そうとする国家…

1966年に現在の成田空港の建設が決まってから始まった空港建設の反対運動。
1971年9月16日には、東峰十字路事件で空港建設反対派600人と警察官260人が衝突し警察官3人が亡くなっている。

1978年3月26日 成田空港が開港する前、空港建設反対派に過激派の活動家が加わり管制塔を占拠した。そのため、2ヶ月ほど開港が遅れる事態となってしまった。いわゆる、“成田闘争”だ。
そこに大山と三枝は機動隊員として配属されたのだった。

そんな厳戒態勢の中、三里塚に集まった反対派の農民や支援学生たちと戦わなければならなかった。
国家の手先として、目の前の何の罪も犯していない人間を盾と警棒で殴りつける。このような仕事があっていいのか…大山も三枝もやりきれない思いで任務についた。
しかし、やらなければ自分の身が危なくなる。

大山と三枝は万が一、自分が死ぬようなことになったらお互いの家族へ知らせようと誓い合っていた。

智子と大介は、大山の話に聞き入っていた。
「お怪我はなさったのですか?」
「あぁ、したよ。みんなボロボロだった」
大山は腕をまくって見せた。左腕には20cmくらいの傷があった。農民の必死の抵抗をこの腕で受けたのだ。
「その時、三枝が腹に巻いていたサラシをこの腕に巻いて止血してくれたんだ。瞬く間にサラシは赤く染まっていったよ」

血は止まらず、大山はその場に倒れた。
「その後のことは記憶に無いんだ。でも、命が助かったのは三枝があの混乱の中、俺を背負って逃げてくれたからなんだと思う。本当に君たちのお父さんには感謝しているんだ。すごく勇敢なお父さんだよな」
「そんな話…父さん一度もしたことないから初耳です」
「すげー、うちの父さんカッコいいじゃん!」
「こら! 大介は…」
「いやいや、大介君それで良いんじゃないかな。素直にお父さんをカッコいいって言えるなんて、そうそう無いことだから」

大山は親友との思い出話を懐かしんで二人に話した。
「大山さん、父に会いに来てくれて本当にありがとうございました。私たちが知らなかったことまで聞かせてもらって、最高のクリスマスプレゼントになりました。良かったら時々、遊びに来てください」
「そう言ってもらえて、こちらとしても嬉しいよ。これも何かの縁だね」
「ねぇねぇ、今度キャッチボールしようよ!」
「おう! やろうやろう」

時間はあっという間に過ぎて、窓の向こうは赤々と夕焼けが広がっている。明日はきっと晴れだ。智子と大介の未来もきっと晴れるに違いない。大山の胸には熱いものが込み上げてきたのだった。

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