見出し画像

スピーチコンテスト【後編】

今度は本選…人前で5分…ステージに立って一人でスピーチをする。
息子よ、上がらずにできるだろうか?
さらなる特訓が始まった。
ケリー先生はオーバーリアクションで良いと言った。
「日本人は控えめすぎる、大きな声が出ずモゴモゴ言って会場の人たちに聞こえないことが多い」と言っていた。

それもそうだと感じていた。日本は、核家族化が進んでおじいちゃんやおばあちゃんと一緒に住んでいないことが多い。周りにもいとこや兄弟などいない。一人っ子で黙々と自分の好きなことをやるのが習慣付いている。
自分をアピールするには、大きな声でハキハキと言うのが一番印象が良い。息子にはまだそれが備わっていない。できるだろうか? 大丈夫だろうか?

6月中旬にビデオ審査の結果を受け取り、本線は7月下旬にあるとのことだった。
練習する時間は、ほぼ一ヵ月しかない。そう考えると、私の言葉にも少し熱が入る。
「ハルト、もうちょっとココ元気よく言ってみて」
「もうコレ以上、大きい声出せないよー」
「じゃあ、ココさ。大きい声出せたら、おやつをケーキにしようかな」
「わぁ❗️ホント❗️」
「今のソレ! 大きい声!」
“馬の前にニンジンぶら下げ作戦”で少しずつではあるけれど、骨太の声が出てくるようになった。

暑い夏がやってくる。より一層親子で熱の入った特訓が続いていた。
夏休みに入り本選を3日後に控えての今日は英語教室があった。
ケリー先生に今までの特訓の成果を見てもらうと
「ハルトくん、スゴイよ! よくここまでがんばったね」と褒められた。

スピーチコンテスト当日。
ケリー先生も見に来てくれた。
息子はいつになく緊張している。白シャツに赤い蝶ネクタイ。一昨日カットしたヘアスタイルはバッチリ決まっている。
息子の順番が来た。
スポットライトを浴びてステージに立つ息子。心なしか頼もして大きく見える。

「Hello, I’m HARUTO. Nice to meet you.
What I want to do during my summer vacation is to climb mountains.・・・」

サエコは、堂々とスピーチをしている息子が誇らしく思え、いつも甘えてくる小学2年生とは大違いだった。
ビデオを回しながら息子をズームアップしていくと、いつのまにか涙を流していた。
『ここまで、できるようになったんだね』
サエコの頭の中で、息子が生まれた時から思い出が走馬灯のように浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返している。
『大丈夫だ。ハルトは立派に人生歩んでいける』
サエコはそう確信した。

そして、出場者全員のスピーチが終わり、最後の結果発表の時がきた。
「それでは第3位の発表です。エントリーナンバー7番、ユウコ!」
サエコは、息子の名前を呼ばれるのかドキドキしながら、司会者の声に集中してじっとしていた。
息子も膝の上で拳をギュッと握って待ち構えている。
「では次いきます、第2位の発表です。エントリーナンバー3番、ハルト!」
名前を呼ばれた瞬間、二人でにらめっこしているかのように少し動けなかった。
「ハルト君、どうぞステージに上がってきてください」
「ハルト! ほら、行ってらっしゃい」
「うん!」
ステージに上がった息子は、笑顔が輝いていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?