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スピーチコンテスト【前編】

サエコは悩んでいた。
駅前の名の知れた所にするか、自宅から5分程度のアットホームな所にするか…
息子の英会話教室をどこにするかで悩んでいた。
これからの時代、グローバル化は避けられない。SNSの発達、いつでも世界と繋がれる環境、サエコは息子を国際人として育てたいと思っている。
そのためには、小さい頃から英会話教室に通うべきだと考えていた。

まずは、駅前の名の知れた英会話教室を訪ねた。
スーツをバシッと決め込んだ白人の先生だった。
『うんうん、そうそう、こんな感じ』
サエコも若い頃は、英会話教室に通って同じようなことを習っていた記憶がある。まぁ、こんなものかな。

次は自宅から5分程度の近い英会話教室。アジア系の先生だった。
これがまたよく笑う先生なのだった。とても明るい。息子の表情もとっても良かった。
楽しい雰囲気の中で授業が進んでいる。
さっき行った名の知れた英会話教室での息子は、口をぽかんと開けて先生を見ているだけだった。

『よし! 決めた。よく笑う方の先生にしよう』

先生の名前は、ケリー。フィリピン出身。とにかく明るくよく笑う先生だった。
最初の授業は、親も一緒に参加しても良いと言ってくれた。
息子はまだ小学2年生。落ち着いて先生の言うことを聞いて授業を受けられるのか少し心配だった。
でも、先生の誘導が上手なのか、息子は前のめりで笑顔で聞いていたり、英語の単語をオーム返しで言っている。

楽しいと思ってやっている事は絶対身に付くと思う。
「勉強をやりなさい!」と言われて勉強する子はほとんどいないと思う。
サエコ自身の経験からそう思うようになった。

ケリー先生から
「ハルトくんは抜群に記憶力が良いね」と褒められた。
そうなのだ。うちの息子ハルトは3歳の頃から電車の名前を暗記するという特技を持っている。
好きなことへの執着心は凄いのだ。
「ハルトくん、スピーチコンテストに出てみない?」
「え? スピーチコンテスト?」
息子は何のことやら分からず首をかしげている。
「予選はビデオ審査。合格したら、本選は東京へ行ってステージに立つの」
「えー、うちのハルトが! できるかしら?」
サエコも首をかしげている。

次の週の英会話教室で、スピーチコンテストの概要とお題のスピーチの文面を渡された。
「先生、これって難しくないですか?」
文面は"夏休みに何をする?"と言うようなことが書いてあった。ざっと時間にして5分ほどの内容だった。
「5分間…暗記してみんなの前で話せるかしら?」
「大丈夫! ハルトくんを信じてあげて」

そして特訓が始まった。
学校から帰ったら宿題よりも、すぐスピーチコンテストの勉強にとりかかった。
一文ずつ音読して私に語りかけるように言ってみる。
そして、意味を調べる。
息子は耳で聴いたように言葉を言う。意味がわかってから音読してみると、感情の入り方が全然違った。
『ハルト、いけるかも!』
私は期待に胸を膨らませた。

一次予選審査のビデオを送った。2週間後、ケリー先生の英会話教室に合否結果が届いた。
「congratulations! やりましたね。ハルトくん次は本選ですよ」
その結果を信じられないと思いつつも、親子2人で手を取り合ってジャンプしながら喜んだ。

来週につづく…

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