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RIVER 【前編】

このゆったりと流れる川が好きだ。
川を見ていると心が安らいで、ひとりでいても寂しくなく、心を許せる誰かと一緒にいる心地よさと似ている。

山本は、慈善事業で川のレスキューの仕事をしている。
川で子供が遊んだり、大人が酔っ払って飛び込んだり、危ない時は救助に向かうのだ。
時々、川に金属を不法投棄するものがいる。
川に落ちた時に身を傷つけないよう、それらを拾って清掃もしている。
その拾ってきた金属を加工してオブジェを作り、小さい小屋だが展示している。
昔、大学で彫刻の勉強をしていた。得体の知れないものから何かを作ることは、心がワクワクして時間を忘れることが多い。

ーー40歳までこれといった出会いもなく、これからも無いだろうと思っていた時のことだった。

また、酔っ払いが橋から落ちた。
山本は、必死になって岸へ引き上げた。それは若い女性だった。服をつかんで引っ張ったりしたため、服が肌けてしまった。すかさず自分が着ていた上着をかけた。
すぐさま救急車を呼び、来るまで呼びかけや応急処置をした。
幸い、呼吸は微かにしていたので安心した。

後日、その助けた女性が山本のところへ訪ねて来た。
「青柳遥と申します。先日は川から落ちたところを助けていただき、本当にありがとうございました。病院や救急隊の方からこちらのレスキューに助けられたと聞き参りました。コレ、その時かけていただいていた上着お返しします。」
「あーいやいや。そんなボロをわざわざ返しに来てくれたんだね。こちらこそ、ありがとう。…山本と申します」
山本は、ちょっと恥ずかしかった。
汗が染み込んだ上着を丁寧に洗ってくれていること、女性と話すのは苦手だということ…
「あの、山本さん。ちょっと聞いたのですが、オブジェを作っていらっしゃるとか…」
山本は話すのが苦手なので手持ち無沙汰もあって、すぐそちらに案内をした。
「こんな感じですけど…」
「うわぁぁ、いいですね!」
「そうですか?」

お世辞と言えども悪い気はしなかった。女性から褒められるなんて滅多になかったから、少し心がくすぐられた。そして、何故か安心できるひと時に思えた。
青柳は、感心して山本の作ったオブジェをマジマジと見ている。
「コレ全部、川に落ちていた物なんですか?」
「あぁぁ、はい…」
このぶきっちょな山本に微笑みかけてくる青柳が、天使のように見えた。『可愛らしい人だな…』
「また、来てもいいですか? 山本さんの作品すごく素敵です!」
「あぁ…それはどうも…」
頭を手でかきながら照れくさくて、でも嬉しくて…
久しぶりの感情が山本の中で起こっていた。

来週につづく…

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