見出し画像

ナイジェリアの失業率とテクノロジー人材の獲得競争

こんにちは。Emerging Countries Groupです!
今回は通常のFounder’s Interviewシリーズではなく、アフリカのスタートアップエコシステムで起きている人材獲得競争について、お話させて頂きます。

 

アフリカスタートアップの投資状況

アフリカのスタートアップへの投資額は年々増加しており、スタートアップへの投資情報を集めているThe big dealによると、2021年は2020年の$16億ドルを大きく上回り、$30億ドルを超える見込みです(10月末時点で$29億ドル)。

(引用: https://thebigdeal.substack.com/p/3-records-for-the-price-of-one-c31

情報参照元によって数値に多少ばらつきはありますが、他の地域同様、アフリカでもスタートアップへの投資金額が年々増加しています。2021年はSequoia CapitalやTiger Globalを初めとするグローバルファンドがアフリカのスタートアップへの投資を本格的に開始しており、Softbank Vision Fundもナイジェリアのスタートアップ2社に投資を実行しています。

ナイジェリア経済とテクノロジー人材の獲得競争

スタートアップエコシステムとしては、投資金額・ユニコーンスタートアップの数・グローバルVCからの投資数など、アフリカの中で一番注目されているナイジェリアですが、実は同国の経済はMuhammadu Buhari大統領が就任した2015年から下降の一途を辿っており、2021年の失業率はアフリカ第2位の33%、若年層に限るとなんと44%となっています。(2015-2020年平均で41%)

(引用:https://businessday.ng/big-read/article/frustration-grows-as-lack-of-jobs-rack-nigerians/?mc_cid=9142dad931&mc_eid=93fe670b74

 

大手銀行や大手消費財メーカーなどで勤めていた人々もレイオフされており、約2,500万人の人々が失業しています。(レイオフと言われていますが、解雇された人々の再雇用は未だ実施されていません)

ナイジェリア国内で毎年大学を卒業する新社会人は60万人程度、学位なしの人材も含め過去5年間で1,900万人が労働力として社会に参画していますが、この5年間に市場で新たに創出された雇用はわずか350万人分と、圧倒的な需要と供給のギャップが発生しているのです。

そのような状況である一方、テクノロジー人材においては獲得競争が加熱しており、現地のスタートアップは人材獲得に頭を悩ませています。

GAFAを始めとするグローバルテック企業は、自国における人材不足を埋めるため、海外人材の採用を加速しており、ナイジェリアもそのターゲットに含まれています。

加えて、ナイジェリアのシニアエンジニアの給与は平均年間約$54,000と言われているのに対し、アメリカは約2倍の$110,000程度である為と、人材コストを削減すべく、ナイジェリアを含むアフリカのテクノロジー人材の獲得を進めているのです。コロナ禍でリモートワークが浸透したことにより、この問題はより顕在化してきています。

ナイジェリアは、文化的側面(ナイジェリアディアスポラが海外に多い)・時差(タイムゾーンが欧米と近い)・公用語が英語であるなどの観点からアジアのテクノロジー人材獲得に比べて欧米企業と相性が良いため、元々インド・ヨーロッパ各国・カナダなどでテクノロジー人材を獲得していたグローバルテック企業のタレントプールに新たに含まれてきており、人材獲得競争が加熱しています。

 市場に新卒やジュニアレベルのエンジニア人材は豊富なものの、彼らを雇用・教育するようなゆとりのある国内企業は少なく、経験豊富なシニアエンジニアはグローバル企業に獲得されてしまい、現地スタートアップは人材の獲得が困難な状況です。

日本ではあまり使われていないLinkedinですが、アフリカのテック人材はほぼ全員がアカウントを有していると言っても過言ではなく、LinkedinのDirect Mail経由でグローバル企業から引き抜きのオファーがかかることは珍しくありません。ナイジェリアで最近出会ったBlockchain EngineerはドイツのDefiスタートアップ勤務ですが、Linkedin経由でひっきりなしにDMが来るため仕事は選びたい放題で、現在の年収は$180,000だそうです。この金額をオファーできるスタートアップはアフリカにはほぼありません。 

スキルを有する人にとっては、給与が遥かに高いグローバル企業からのオファーを断るインセンティブは働きにくく、弊社の投資先も、カナダやアメリカ、ドイツ、イギリスの企業から引き抜きに合い、貴重な人材を取られてしまいました(高額な給与で引き抜きにあってもその企業に残る人も多くおり、その理由はFounderの魅力や、会社のカルチャー、この同僚達と働きたい、というインセンティブによるもので、「人」の重要性が職業選択に占める割合が高いのはナイジェリアでも同じだと思います)。

人材難が及ぼす影響

人材獲得難はプロダクト・サービスの品質にも大きな問題を齎します。多くのナイジェリアのスタートアップのサービス・プロダクトはナイジェリア市場向けに事業を行っています。しかしながら、事業の対象であるサービス提供者(中間層)の個人消費額は経済の下降と連動し、2015年から減り続けています(2015年の年間個人消費$1,600→2020年 $1,400)。

市場にとって安く、かつ使いやすいプロダクトを開発する為には経験豊富なエンジニアが必要ですが、エンジニアを獲得するにはコストが掛かります。開発コストは年々増加するにもかかわらず消費者物価指数は上がらない為、コストを吸収する場がありません。

エンジニアだけでなく、ナイジェリアにはPMも不足しています。ナイジェリアのテックメディアStears Businessによると、スタートアップにとって成長を阻害する一番の要因は人材獲得である、というデータもあります。ナイジェリアのスタートアップは、人材獲得のため、調達金額を増加させていますが(バリュエーションも2021年は2020年以前の2-3倍で高止まりしている印象です)、それにはこのような背景も関係しています。

(引用: https://www.stearsng.com/premium/article/japa-talent-wars-in-african-tech-ecosystem?utm_source=Stears+Premium&utm_campaign=7d3ff0351a-sunday_wrap&utm_medium=email&utm_term=0_577e7bb830-7d3ff0351a-374846281)


グローバル企業で活躍できるテック人材がナイジェリアで育っているということは喜ばしいことですが、現地スタートアップが影響を受けて人材難に苦しんでいるという実態についても、併せて知っていただきたいと思います。