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幾何学模様の向う側

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記事一覧

◯◯◯◯◯◯出られない部屋

 朝起きると、私は真っ白な部屋の真ん中で。  そもそも朝なのか、ここは一体どこなんだろうか。肩と腰が痛い。起きたらここに居たんじゃなくて、ここで寝ていたんだろうというのが身体が教えてくれる。  痛みを抱きながらゆっくりを身体を起こす。周りを見渡すと真っ白い部屋の真ん中だった。真っ白い部屋の真ん中に間違いなく私が居た。  知ってる。当然だ。映画でも小説でも漫画でも見た事がある。ゲームでもプレイした事があるし、私はこの白い部屋から出てきた。  赤かった事もあるし、青かった事もあ

足ひとつ

 仕事中、何も思考する事も無く、作業に没頭しているとそこに、無慈悲に潰れた蠅の死骸が放置されていた。気持ちが悪くなり、死骸を片付けようとするが、それは、強く床に張り付き、剥がれようとはしない。小さな箒を使っても、雑巾で擦ろうとも、それは取れなかった。  助けてくれ。  擦った際に捲れ上がった蠅の足はそう言う。 「助けてくれって言われたって、あなたもう死んでるでしょう?」  足は微かに動き、同じ事をもう一度言った。 「あなたね、いくら足が動こうが死んでるの。どう

25歳の自分が書いた物との再会

 異常な人と正常な人の違いとはなんでしょうか。  ふふ、予想以上にオマエラシイ悩みだの。  理解できない事というのは、落ち着かない気持ちになります。そうですね、そうする事によって、不安が募ります。  お前は世界の事を理解しているのか?  その返答は不定です。  ですが、そうですね、せめて、身の回りの物事は理解したいと思います。  うむ  その不安こそが、正常や異常を生み出したのだよ。そうだな、レッテルを貼ると言うのかな。そうやって理解した事にしてしまう、理解したつも

ローリングストーリー

 私はお姫様。  かっこよくてユーモアがあって私を笑わせてくれて、優しくて気遣いが出来て、甘えてくれるけれども拘束しないし距離感が完璧な彼氏と恋愛結婚をして、  初恋は実らないなんて言うけど私だけは違っていて、素敵な人と出会って素敵な恋をして、友達とも沢山遊んで、今の世の中独り立ちできない女性は馬鹿にされるから。そこらへんの男には負けないように勉強も頑張ってバイトして仕事の経験もつけて、掃除と料理は旦那様がやってくれるから私は愛情をお返しする。  そんな幻想をお気に入りの

World's End Supernova

 なんてわかりやすい世界になってしまったんだろうか。私はゆっくりと落ちていく真っ赤な太陽を見ながら煙草に火をつけた。  紫煙はマイペースにゆったりと風にゆられて消えていく。煙は気楽なもんだ。私はため息をつくように肺から煙を吐き出した。  高い高い鉄塔の上に居ると、風以外の音から遮断されて、一人の世界をより感じられる。少し耳に違和感があるのは気圧なんだろうか。そこまで高い場所じゃないんだけれども静か過ぎるとそう感じるソレなのかもしれない。  周りを見渡すと、まぁ緑の森と廃墟の森

あの素晴らしい綺麗事をもう一度

 ここに来たのは三回目だ。  いつだって風が強くて不意に連れていかれそうになる。前から押されても後ろから押されても私にとっては都合が悪い。風向きが悪い事なんて今まで沢山あったから、この程度は大した事はないと思う。大丈夫。  靴をそろえて、その下に手紙を挟む。風で遠くに行かないように。私がここに居た証明書だから。  一回目はおじさんに止められた。悪い気分にさせたと思う。ごめんなさい。  二回目は手紙が飛んで行ってしまった。読んだ人はどういう気持ちになってくれたのかな。ごめんなさ

ラプンツェル

 窓を開けると冷たい風が教室に入ってくる。気が付けば校庭から聞こえる声も小さくなって人の熱も冷めてくる季節になってきた。  真っ赤に色づいた校庭越しに吹奏楽部の笛の音が教室に入ってくる。なんだ、気が付かないうちに物思いに耽るには良い季節にもなったって訳だ。  ガラガラと教室の扉が開く。待ち人来るってね。 「よかったー、まだ居てくれたんだね」  嬉しそうな声を上げながらミサトが教室に入ってきた。すぐに私の机の前に座ると頭を当ててくる。 「今日もお疲れさま」そういうと頭をうりうり

レクイエム.

 まぁ、地に足が着かないっていうのは落ち着かない事他ならない。  私が死んでからかれこれ五年は経ったけど未だに慣れない、たまに地面に足を着けて歩く振りをしてる。見た目はそれっぽくなったけれども重力を感じないってのは困りものだ。  死んですぐ出会った街角のおじさんは、まず足を透明にしろって言っていた。幽霊の礼儀だと。一理あるしああいう人が居るから日本の幽霊は足無しスタイルが一般的なのかな。それともやる事がなくなって、新人にそう言う事を伝えるのが生き甲斐になっているのかも。  今

レクイエム

 峠を越えると何だって楽になる。嵐も痛みも苦しみも後悔も。  じゃあそのてっぺんを決めるのは誰なんだろうか。誰ももう少しで終わるよなんて教えてくれない。最中にいる間はただただ痛みを受け続ける事になる。死は峠を越えたというのだろうか。登り坂の後は下り坂だと相場は決っているが、崖になっている事もあるし、穴に落ちる事もある。線が途絶える。  なんにせよ、死んだら終わり。苦しみや痛みからの解放だ。良い事なんだろう。  煙草に火をつけて石の上に置く。私は同じ煙草に火をつけて深呼吸した

カンケリ

 どうしようもねーやと思ったらお酒を飲めば良いと教えてもらった。  今日も下らない誰よりも安いお酒を飲んでいる。喉に流し込まれた安いお酒は一瞬の潤いと長い乾きを私にくれて、駄目なお酒ほど駄目な自分を酔わせてくれる。飲み終わったお酒を落としてそれを空中でキレイに蹴り飛ばせれば、今日の運勢は吉。とか言ってもう今日なんて後何分あるのさ。  投げた缶は私の足をすり抜けて、カランと音と立てて地面に転がっていった。本日の残り十三分は凶という事だ。  駅にでも行こうかそこの公園でボケっとし

ゴング

 喫煙所はいつも癒しだ。ここは目まぐるしい世界の中でも時間が止まっている様に感じる。  煙を吸い込み先端が真っ赤に光る、一瞬のブレイクの後煙を空中へ舞いあがらせる。深呼吸よりこっちの方がよっぽど落ち着く。幾らそれがドラッグの効果であったとしてもだ。 「火貸ひれくれ」  先輩が喫煙所に入ってくるなりくわえ煙草でそう言った。煙草の先端に火を当てる。目を瞑り数秒。一つのルーティンが終わる。 「お前TWENTY FOURって見た事あるか。海外ドラマの」 「いえ、名前知ってるだけ

死ぬほど気持ち良い同性同士のセックスの条件

 独特の浮遊感だなと思う。  部屋に一人浮かび上がっている私は自分の部屋を見ながらそう思った。重力が無い状態っていうのは宇宙に行けば体験できて、ナサだかジャクサだかに行っても多分疑似的な奴は体験できるんだったっけ。 「まぁ、落ち着いてよ」  眼下に移る自分の部屋には女性が二人。女性って客観視してるみたいに言ったがどちらも顔を知っているし、なんなら先週までは良く喋ってた。可愛い胸の大きい方の女性はずっとオロオロしたり泣いたりしている。  一方胸が小さくてあんまりかわいらしくない

lo-fi music

 たった今、私は愛用していた音源が詰まったUSBメモリを折り曲げて、クラブから一番近い川に向かって投げた。それはなんというか、私にとっての卒業式みたいなもので、言い方を変えると退学かもしれないけれども。 「よし」私はそう口に出した後、後ろは振り向かずに歩き始めた。  時計はてっぺんを回っていて、帰りの足なんか無いんだけれども、まぁ気合いを入れれば歩いて帰れない事もない。駅前の光が及ばない町の端、この場所でもコンビニはいつだって明るいし、99.99の新譜は最高の気分にしてくれる

エレクトロミュージック

 真っ暗な部屋で窓辺に座ると月明かりがほんの少しだけ混ざった街灯の光が私に届く。  スピーカーから流れるスクエアプッシャーの音楽は独特な浮遊感を与えてくれた。  理知的でかつ破壊的なリズムと幻想的とは程遠い街灯の柔らかい光の中、私はプシュっと空気感を全て破壊するような音とともにプルタブを開けた。 「駄目だわこれ。先に開けておくべきだったな」  雑にチューハイを流し込むと駄菓子の様なグレープフルーツ味と工業製品の様な取ってつけたアルコールの匂いが鼻を駆け抜ける。 「飲み物も駄目