三(詩の創作同人誌)

詩やショートショートなどの文芸作品を書いています。 メンバーは現在5人。(メンバー募集…

三(詩の創作同人誌)

詩やショートショートなどの文芸作品を書いています。 メンバーは現在5人。(メンバー募集中!) 愛知淑徳大学の現代詩創作ゼミ2006年卒生を中心に2006年3月に「三」を創刊。 3か月に一度詩誌を発行しています。(3,6,9,12月) 三に掲載している作品をアップします。

最近の記事

詩誌「三」73号 あとがき 石山絵里

 今回の作品にも書きましたが、名古屋ウィメンズマラソンに今年も挑戦し、無事完走しました。四度目の完走です。今回は、書きたい・伝えたい思いは強烈にあるのですが、熱くなり過ぎてしまう自分がいて、これでいいだろうか、という思いを消せないままの提出となってしまいました。  継続することは簡単でないこともあります。三は七十三号目となりましたが、継続できているのは、メンバーそれぞれが、力が入り過ぎていないことも理由の一つかなと思います。今号も、各々の「らしさ」を感じ取ってもらえる作品集

    • 詩誌「三」73号掲載【詩の座談会】

      ーー新しい企画『詩の座談会』です。 詩にまつわる話題を一つ、一人のメンバーが決め、それについてリレー形式で一人ずつ自分の考えを述べていくコーナーです。 水谷 「詩を書きたくなる時/書ける時はどんな時ですか?」というテーマで話しましょう。 私は「書きたくなる」のは圧倒的に、合評をした後です。「三」の他にも詩を書く会を定期的に持っていますが、身近な人の作品を読んだり、自分の作品を読んでもらった時に、「詩ってやっぱりすごい」と毎回新鮮に思い、また書きたくなります。 「書ける」の

      • 詩誌「三」73号掲載【その為に今日を生きている】飯塚祐司

        少年は憤っていた。理不尽に身を震わせんばかりであった。その理不尽を誰一人として理解しない事にも、少年はさらに憤っていた。 少年の誕生日は十一月一日であった。その日が「犬の日」と呼ばれている事を、隣の家に住んでいる大きな犬を飼っているおばさんに教えてもらった。犬の鳴き声「わん」に引っ掛けてわんわんわんという訳である。少年にはそれが気に入らなかったのだ。隣の犬と目が合うたびに吠えられている少年は、犬よりも猫の方が好きだったからだ。だから、両親に誕生日を二月二十二日に変更して欲し

        • 詩誌「三」73号掲載【On your mark】石山絵里

          この日のために、何百キロもの距離を走ってきた。一年前、今日と同じここナゴヤドームでゴールゲートをくぐった時のことを思い返す。膝の痛みが不安だった私。痛み止めを飲んで、テーピングを巻いて。ゴール直後は、まともに歩くこともできなかった。足の爪が二枚はがれていた。倒れこんで動けなくなって、担架や車いすで運ばれている人もいた。なぜそうしてまで人は走るのだろう。フルマラソンは簡単ではない。それなのに、こんなにもたくさんの人が、こんなにも楽しそうに、チャレンジしようと集まってくるなんて、

        詩誌「三」73号 あとがき 石山絵里

          詩誌「三」73号掲載【Bhōli】水谷水奏

          しょんぼりと ぼんやりと ぼんぼりは 少しずつ似てるね? ね わたしの しょんぼりに あかりを つけてくれる? そうだね また あしたね どこかの国の みらいの ことばは ぼり ぼーり おいてけぼりは おいてけ あした あかるい春が ゆるくて にくい 2024年12月 三73号 水谷水奏 作

          詩誌「三」73号掲載【Bhōli】水谷水奏

          詩誌「三」73号掲載【始業のチャイム】正村直子

          小学生のとき日直で 「気をつけ、礼」の号令が言えなかった 始業のチャイムが鳴ると 鼻の奥がじぃんとして 声はのどの変なところにひっかかって 指先はびりびり痺れていった わたしは恐ろしかった わたしはすっかり大きくなって 初対面の人ともそこそこ話せるし それこそ恐ろしい顔で 子どもをたしなめることだってできる だけど 傘をさそうと足元を見た瞬間 眠ろうと目を閉じた瞬間に わたしはあっけなく 何気なく何度でも できそこないの日直になる みんながこっちを向いて待っている とっくに

          詩誌「三」73号掲載【始業のチャイム】正村直子

          詩誌「三」72号 あとがき 飯塚祐司

           前回のあとがきで何を書いたか全く思い出せなかったので、昨年のあとがきを確認したところ、推理小説ばかり読んでいるという話を書いていました。  今年もそれは変わらずですが、今までは図書館で借りることが多かったのに対し、最近は本を買う喜びに目覚めました。本棚に並んだ背表紙、その中に無数の物語が収められていると思うと、なんとも言えない満足感に浸れます。  ただ本棚のスペースは限られており、来年もこの調子で買っていると大変な事になりそうで、今から心配しています。 飯塚祐司

          詩誌「三」72号 あとがき 飯塚祐司

          詩誌「三」72号掲載【メンバーによるオンライン合評会】

          ーー72号では、水谷水奏の作品「世の中じゅうの」について合評しました。 石山 「たのしい」と「たましい」。「いみ」と「きみ」。似た響きを持つ言葉を並べて書き進めていってるね。 文量が短いので、もっといろんな言葉を連想させて次から次へと言葉を展開させて書いてあっても面白そうかなと思いました。 全体にアンニュイな雰囲気の漂う、水谷さんらしい作品だね。 誰に対して「リフレクターキーホルダーをあつめてきてくれたらかんがえてあげる」と言っているのか考えてみました。 私の想像では、若い

          詩誌「三」72号掲載【メンバーによるオンライン合評会】

          詩誌「三」72号掲載【カマキリ】正村直子

          夕焼けの終わりに 道路に飛び出た一匹のカマキリが 車に轢かれるのを見た ペキ と ずいぶん軽い音だった 通り過ぎるタイヤの影が どんどん濃く深くなって 世界は形をあいまいにするのに 踏みつぶされたカマキリの ヘッドライトに照らされる一瞬 いっそ若葉のように瑞々しい あしたの朝 もうそこにカマキリはないだろう 排気ガスと十月の風が 混ざって通り過ぎていった 2023年12月 三72号 正村直子 作

          詩誌「三」72号掲載【カマキリ】正村直子

          詩誌「三」72号掲載【こだま】飯塚祐司

          ねこのこだまがいなくなった。 昼間の暑さがなりを潜め、心地よい風が吹き、つくつくぼうしの声が聞こえる夕方。お腹の上にごろごろと鳴くこだまを乗せて、デッキチェアで音楽を聴いていた。心地よい風に一瞬うとうとしてしまい、気づいた時には既にこだまの姿はどこにもなかった。お腹の上にはじんわりとした体温と、ぴんと伸びたおひげが一本残っていた。 慌てて家の中のお母さんにこだまがいなくなった!と叫ぶと、 「だから言ったでしょ、ねこは液体だからあまり陽にあたると蒸発しちゃうって。心配しなくても

          詩誌「三」72号掲載【こだま】飯塚祐司

          詩誌「三」72号掲載【うしろの正面だぁれ】石山絵里

          幼いころ遊んだ「かごめかごめ」で、わたしは時々薄目を開けて、みんなの足をこっそり見ていた。ズルしてるという自覚はあったけれど、罪悪感よりも、みんなの足を内緒で見るワクワク感の方が大きかった。「うしろの正面だぁれ」で止まった正面の足を見て、背後にいる子が誰か考える。この足は、リボンのついたハイソックスだからみゆきちゃん。みゆきちゃんの両隣はあの子とあの子だから…と小さな頭をフル稼働させて、うしろが誰かを想像する。 幼いわたしがうしろの子を見事当てられたのか。そこだけ記憶が抜けて

          詩誌「三」72号掲載【うしろの正面だぁれ】石山絵里

          詩誌「三」72号掲載【世の中じゅうの】水谷水奏

          たのしいと たましいは どこまでも いつまでいっても いみ なんてありません いみを 知りたいと いわれても 分からない きみを 知りたいと きかれても 分からない 世の中じゅうの リフレクターキーホルダーを あつめてきてくれたら 少し かんがえてあげます 2023年12月 三72号 水谷水奏 作

          詩誌「三」72号掲載【世の中じゅうの】水谷水奏

          詩誌「三」71号 あとがき 正村直子

          最近、家族としか話していない日が続いていることに気が付きました。由々しき事態です。たいして困っていませんが、たぶん、良くないような気がします。しかし、自分の手の届く範囲でのみでくらせるというのは、元来怠け者の私にとって非常に幸せであるとも思っています。よく知らない相手とのかかわりというのは刺激的な分、精神を疲弊してしまいます。しかしそういった外部とのふれあいには詩が多くひそんでいる気もします。うーん、やはり、ときどきは、勇気をもって、力を振り絞って、町へ出ることも必要なのでし

          詩誌「三」71号 あとがき 正村直子

          詩誌「三」71号掲載【メンバーによるオンライン合評会】

          ーー71号では、石山絵里の作品「青」について合評しました。 正村 恋の詩と読みました。 「君のブルーハワイはサイダーみたいな味がした」は初キス…!と読みましたがどうでしょうか。 切ない言葉のあいまに微かに明るい言葉もでてきて、この恋が一体どこへ向かうのか、揺れている「私」の気持ちがまざまざと伝わってきました。 そしてさいご占いに頼っちゃうのがかわいい。 全体をとおして胸がきゅんとしました。 飯塚 率直に言って、読むのにすごく時間が掛かりました。 なんでだろうと色々考えて

          詩誌「三」71号掲載【メンバーによるオンライン合評会】

          詩誌「三」71号掲載【夜と呼ぶには明るすぎる】飯塚祐司

          大きなエンジン音が、遠くの方から徐々に近づいてくるのが聞こえた。外へ出ると、無数の星明りと満月が夜の高原を照らしている。昼間は牛が過ごす広大な牧草地に月の光で出来た小さな影が映り、瞬く間にその姿を大きくすると、丸みを帯びた飛行機の形となった。車輪を出したその飛行機は、草原を滑走路代わりにしてしばらく走ると完全に停止した。 やあ、久しぶり。元気にしてたかい? 扉が開いて出てきたのは、古めかしいフライトジャケットにゴーグルと、何世紀も前の飛行士のような姿をした、白髪交じりの年

          詩誌「三」71号掲載【夜と呼ぶには明るすぎる】飯塚祐司

          詩誌「三」71号掲載【夏の終わりの雨は】正村直子

          夏の終わりの雨は ずいぶん長い テーブルの上には しっけたクッキーと 一週間前の新聞 そしてこもった咳がひとつ この夏 風邪をこじらせて 肺炎をわずらった父は いっそう小さくなった はす向かいで 骨のういた喉を上下させて おいしそうに コップ一杯のビールを飲む ダイニングだけ灯したあかり エアコンからは ほこりをひっかけた音がする この雨がやんだら 夏は終わってしまう きっと終わってしまう ぼつぼつぼつと 大粒の雫が窓をつたっていった 2023年9月 三71号 

          詩誌「三」71号掲載【夏の終わりの雨は】正村直子