【黄金の...番外編】そんな酒知らん

今を去ること10数年前の事。その日はホステスSの誕生日。僕は「私の誕生日に来ないなんてことはないよねぇ」
というSからかかってきたお昼の電話に怯えながらも「御祝いにモエシャンドンでも入れて、とっとと帰ろう」と自らに固く誓って銀座のお店に入った。

まず僕は先手必勝とばかりに
「じゃあ御祝いにモエでも」とにこやかに言った。
「えっ!モエって何?聞いたことある~?」
Sは怪訝な顔をする。知らないはずは無い。その前に飲みに行った時は「モエ飲みたぁい」と席に着くや否や速攻を仕掛けてきたのだ。

そこにS子飼いのヘルプがカブせてくる。
「そんなシャンパンあるんですか?聞いたことないです。マネージャー知ってます?」
(シャンパンってわかってるじゃないか!)と思いながら僕は苦虫を噛み潰したような顔で黒服を見る。
黒服は苦笑いしただけで言葉を発しない。

Sは酷薄な笑みを口元に浮かべつつ
「ゴメンね。ないんだって」と言った。その目は獲物を目の前にした肉食獣のそれだ。弱い草食動物の僕は怯えながら
「えっ!あ~う~。じゃあドンペリ...」とか細い声で答える。

「『じゃあ』って何なのよ!バカにしてるわけ!」
Sは癇の強いトーンでそう言って僕を睨む。
「...いや~あ~そういうつもりではなく...」
戦いは終わった。僕はまんまと死地に追い込まれたのだ。
「ピンドン飲ませて下さい」

滞在30分あまりで、お会計伝票が30万近くになったのは言うまでもないことです。
恐喝ですよね。
Sはその後、僕の妻になります。

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真田正之

就職超氷河期に大手広告代理店の職にありつくも、それを捨て水商売の道へ。ペーペーの黒服からスタートし銀座の高級クラブオーナーに。自身が営んだクラブMを舞台にした『筆談ホステス』など好評を博すも経営破綻。その後一旦会社員となるが大掛かりな金塊密輸犯罪に携わり逮捕。現在はその日暮らし。

黒歴史

拙著「黄金を運ぶ者たち」と関わりがある写真やエッセイ。水商売時代の話や自身の黒歴史です。

コメント2件

最後の一文に驚きました!
運命のイタズラですねぇ。
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