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知る喜び

落語を聴くようになって特に魅了されたのが「枕」。噺家さんが本編に入る前に色々と話す部分を指す。世間話や自身の体験談なのに、気が付いたら本編に移行している。そのスムーズな流れが素晴らしく、いつもほれぼれと聞き入っている。

というわけで私自身、授業でもそのようなことができれば良いなと思い、今年度はかなり意識してみた。プロの落語家ではないので、まだまだではあるのだが、毎回授業の前に「今日はどういう『つかみ』にしようかな」と考えるのも楽しい。ただ、実際はあらかじめ考え抜くのではなく、講師室から教室への移動中に見た光景などがきっかけになることも多い。

たとえば数週間前の授業。私が出講している大学には松の木がたくさん植えられている。ふと見ると、幹の部分に腹巻のようなものが。一本だけでなく、すべての松がそうなっている。早速ネットで「松 腹巻」と入力すると、「こも巻き」というページがヒットした。

こも巻きは冬の害虫対策として施される日本の伝統だ。「こも」は漢字で「薦」「菰」と書く。「推薦」の「せん」を「こも」と読むことを初めて知った。一方、「くさかんむり」に「孤独」の「孤」も興味深い。「菰」は沼などに生える水草の一種とのこと。

この「腹巻」が「こも巻き」とわかっただけでもうれしいのだが、「菰」の漢字の成り立ちも気になり、さらに「孤独」の「孤」がなぜ「子」と「瓜」なのかも調べたくなった。で、調べてみると「瓜(か)」は「懼」に通じる漢字であり、「おそれておどおどする」「父がなくおどおどした子」と「新漢五林」には書かれていた。

こうした寄り道はとにかく楽しくて、調べたことをすべて授業冒頭で披露したくなってしまう。が、それだけで授業時間100分を埋め尽くしそうなので控えることに。英語関連の授業なので、「こも巻き」の英訳を伝えることにした。

この下調べもまた楽しい作業だった。というのも、グーグルで

「こも巻き 英語」

と入力すると、トップに出てきたのは"Komaki"。ん??人名?大文字だし?なんか釈然としない。「ではDeepLでは?」と調べたところ、

"makimaki wrapped in straw wrapping"

とあった。ええっ??

漢字で「薦巻き」にしたらDeepLさまは"herring row"(かずのこ)、"hermaphrodite"(両性具有者)、 "herring robe"(ニシン、礼服)と表示してくださった。一方、「菰巻き」と入れたら"woven straw mat"と出てきた。これが一番しっくり来そう。大いに楽しんでしまった。

にしてもmakimakiって何か可愛い。内閣府の東南アジア青年の船でフィリピンを訪ねた際、halo-halo(ハロハロ)というデザートを食べたなあと懐かしく思い出した。

ちなみに「菰巻き」の効果だが、最近は害虫対策に必ずしもならないという説もあり。先日、皇居外苑を通ったら、松はハラマキなしでした!

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