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ティンプーの3Dプリント出力サービス【Leaf Creative Solutions】について(続報)

昨年12月にご紹介した首都のCSIフェアの記事の中で、ティンプーに新たに3Dプリントの出力サービスを請け負うスタートアップ企業が誕生していたというお話を書かせていただきました。本日はその続報になります。

私が目下関わっている、日本(東京)とブータン(ティンプー)を結んだ事業の関係で、首都ティンプーで3Dプリントの出力サービスを行っている事業所との関係構築が必要になりました。テックパークにあるJigme Namgyel Dorji Super Fab Lab(JNWSFL)のような、首都のファブラボは候補となりますが、再三書いている通り、JNWSFLが取り組んでいる事業は、ドローンとかAIとか、ブータンの中では最先端分野で、スタッフのエリート意識が強く、障害者の自助具という、一人一人が違ったニーズを有して、しかも小さなものを1つだけ出力するという話を持って行きづらい雰囲気があります。

できれば、この事業に関わってもらうことで、一緒に成長していけるようなスタートアップ企業があれば、そういうところと組めた方が夢があっていい―――そう考えると、私にとっては、Leaf Creative Solutionsを応援したい気持ちの方が強いです。

彼らは、昨年起業し、8月にティンプー市内チャンザムト地区にあるインキュベーション施設「スタートアップ・センター」に入居したばかり。一度、どんなところで仕事しているのか見ておきたいと思い、今回、ティンプー出張の合間に、30分ほど立ち寄らせていただきました。

応対してくれたのは、共同創設者の1人であるカルマ君でした。以下、短い時間で聴き取った内容です。

  1. カルマ君は、ティンプー市南部にあるロイヤル・ティンプー・カレッジの卒業。カレッジ卒業後、プナサンチュ水力発電事業で働いていたが、それが自分のやりたいことだと思えなかった。昨年3月、労働人材省がチュメ職業訓練校を会場に3Dプリントの技能研修の参加者募集をはじめた時、「これだ」と思い、応募することにした。

  2. チュメ職業訓練校の3Dプリント技能研修は、韓国人インストラクターの下で、4月中旬から1.5ヵ月の日程で開催された。18人が参加。最後の2週間は、労働人材省主催の技能研修には最後に必ずくっつけられる起業研修だったので、実質的な3Dプリントの研修は1ヵ月だった。CADの操作から、スライサーの印刷設定の変更、マシンのトラブルシューティングまで、ひと通り学んだ。修了後、同期の仲間5人ほどで共同起業を考え、議論を重ねたが、最終的には3人が離脱し、ニメッシュ君と2人だけでの起業となった。この技能研修の卒業生で、3Dプリント出力サービスで起業した最初のケースとなる。

  3. プリンタはCreality社のEnder-3をアマゾン・インディアで購入。今までにEnderを3台にまで増設し、今後も5台増やす予定。すべてアマゾン・インディア。なぜEnderかというと、価格的にはPrusaでも良かったのだが、Prusaは欧州企業なので、Enderに比べてブータンでの入手が困難だったから。トラブルは日常茶飯事だが、トラブルシューティングは自分でやっている。YouTubeを見れば、たいていのトラブルには自分で対応できる。

  4. プリンタだけでなく、フィラメントもアマゾン・インディア経由。ジャイガオンに友人がおり、その友人に購入希望品目のアマゾンURLを送り、友人の名前で注文してもらっている。早ければ1週間程度でデリバリーされる。届いたと連絡を受けると、ティンプーからプンツォリンを経由し、インド側のジャイガオンまで引き取りに行く。ただし、この友人は別に3Dプリンタ関連での取次ぎを業にしているわけではない。ご希望なら紹介する。使用しているのはほとんどがPLAフィラメント。ABSも考えてはいるが、導入はしていない。

  5. 今は我々の事業を多くの人に知ってもらう時期。スタートアップ・センターに入居している事業者に営業をかけ、仕事を受注することが多い。この日取り組んでいたのはフレンチフライの型枠の量産。また、JICAの帰国研修員同窓会の事務局長も少し前に来て、ノベルティの試作について相談を受けた。障害者の自助具の出力サービスには関心ある。CADは主にFusion 360を使用。最近、Blenderの利用もはじめたところ。

  6. 料金は、フィラメント使用量(1グラム当たり1ニュルタム)とプリント時間を勘案して決める。もちろんデザイン料等加算するが、現時点では事業を知ってもらうのが優先なので、あまり大きな利幅は設けていない。

  7. 出力サービスを続ける中で、どうしても出てくるバリやサポート材の処理には悩むところ。いかに3Dプリントが材料ロスが少ないとはいえ、印刷失敗やサポート材処理で生じるごみを気にする顧客もいる。そこで、フィラメント廃棄ごみをどう再利用するか、今考えているところ。PETボトルをフィラメントに再加工する機械はJNWSFLでも見たが、あれではいい品質のフィラメントは作れない。(PETボトルをフィラメントに加工するのは、彼らが主に使用しているPLAフィラメントの再利用とは別の話なので、この説明にはちょっと首をかしげるところがありました。)

  8. 最近、事務所秘書的役割でプーランさんという女性スタッフを雇った。元ブータンテレコムの職員だが、異動を断って退職し、何か子どものためになるようなことの延長でできる仕事がないかと考え、個人的に3Dプリントに関心を持ち、Ender-3を自分でも購入して自宅で使いはじめた。ある見本市に出展していたLeaf Creative Solutionsを見かけ、共同経営者の2人に声をかけた。それなら一緒に働かないかと誘われ、1月から加わることにした。

以上は、2023年1月下旬時点での定点的情報だとご理解下さい。1カ月先、1年先にどうなっているのかはわかりませんので。

ご参考までに、カルマ君とニメッシュ君が受講したという労働人材省主催の3Dプリント技能研修については、以前ブログにて紹介したことがあります。

以下、彼らの職場で撮った写真を何枚かご紹介します。以前、ティンプー在住の日本人の方で、このスタートアップを訪問された方がいらっしゃって、「オフィスが雑然としている」といい印象を持たれなかったとうかがいましたが、3Dプリンターを数台置いて日中出力をやっていると、フロアに小さなごみが散乱しているというのはよくある光景で、うちのファブラボもよく似ているので、私にとっては大きなマイナスイメージではありません。

共同創設者の1人、カルマ君
ポテトフライの型。スタートアップ・センターに入居している
冷凍フレンチフライ卸売業者とのお仕事かと思われる。
JICA帰国研修員同窓会から依頼されたノベルティグッズの試作
私ならMDF板でのレーザー加工を考えるのですが…
障害者の自助具も見本として置いてくれるようにならないでしょうか…
事務机。スタートアップ・センター入居企業のオフィスはどこもこんな感じ。
こんな場所から育って行くのです。

ただ、3Dプリントの出力サービスを売りにしているだけでは、あまり採算の良いビジネスにはならないのではないかという心配はあります。

使用する材料がPLAフィラメント一択なので、ちょっと手元が狂ってコンクリートや大理石の床に落とすと、簡単に壊れてしまいます。そういうリスクはあまり考えていなさそうでした。かといって、レゴブロックのような耐久性の高いABS樹脂は、寒冷地であるティンプーでEnderのようなオープン型のプリンターで出力しようとすると、熱収縮が起きてビルドプレート接地面から剥がれて形がおかしくなるという現象が起きる、別のリスクもあります。

3Dプリントはもっといろんなことができるという可能性を、広く見せていく必要があります。PLAを使うのなら、製造業の現場での治具製作や短期使用でも可とするものづくりの現場へのアプローチが必要でしょう。

冒頭の繰り返しになりますが、今回、Leaf Creative Solutionsにアプローチしたのは、私が今ブータンで普及を図ろうとしている、障害者の自助具のカスタマイズ製作で、ティンプーの障害者の自助具の出力をティンプーで請け負ってくれる事業者を確保したかったからです。単品もののカスタマイズ製作には3Dプリントは非常に有効で、障害者のニーズにより合った自助具を作ることができるのではないかと思っています。これもLeaf Creative Solutionsの事業のカバレッジの拡大につながるのではないかと期待したいところです。それに、出力サービスだけでなく、デザインの3Dデータ化やオープンソースデータに基づくデザイン改編など、出力サービスよりも川上の段階での事業展開も考えられるでしょう。

そして、そうなってくると、用途に応じて異なる材質のフィラメントを使用することも検討する必要が生じます。近年、フィラメントの研究開発が盛んになってきていて、3Dプリントの用途に応じて異なるフィラメントを用いることができる選択の幅が広がってきていると聞きます。現状、ブータンでは、Leaf Creative Solutionsでも、JNWSFLでも、利用素材としてはPLA一択で、フィラメントの選択はほとんど注目されていません。

誕生してからまだ日も浅いスタートアップ企業です。このnoteの読者の方で、ティンプーにいらっしゃる方や、ブータンで何か事業をなさりたい方がいらしたら、是非この若い子たちにチャンスを与えてあげて下さい。まだまだサービスの幅は狭いですが、彼らだけでは需要の開拓には限界もあるでしょう。まだまだ狭い3Dプリントへの理解をより広げていくために、多くの異なる分野の方々に、その可能性を探っていただけたら幸いに思います。

今日も最後まで読んで下さり、ありがとうございました!

取材協力ありがとうございました!

【連絡先】leafcreativesolutions@gmail.com

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