第10講_200131_0055

産地事業論 〜今の産地に必要なこと〜



はじめまして。谷藤です。
ネクタイを中心に服飾雑貨を取り扱うメーカーで働いています。
前職が機屋だったこともあり「産地の学校」に興味を持ちました。

今回は毛織物で有名な尾州産地で働く彦坂さんの講義。ウールは、織っている時と整理後(洗ったり揉んだりして生地を整える工程)のギャップが好きで、講義が楽しみでした。

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彦坂さんはセレクトショップでの販売経験を経て、愛知県一宮市にある産元商社の大鹿株式会社に入社されました。
現在は生地の企画や生産管理をする傍ら、自社ブランドを立ち上げディレクションをされています。

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尾州は古くから「繊維の街」として発展し、戦後は織機を“ガチャン”と動かせば万のお金が儲かる「ガチャマン景気」に沸きました。
織機の音が響き、反物を運ぶ人の光景が町に広がっていたと思うとわくわくしますね。
(私が前職でお世話になった80代の職人さんも、「織機の音が夜中もうるさくて眠れなかったなぁ。」と言っていたのを思い出しました。)
尾州産地では現在も、繊維関係の会社が一宮市周辺に集結しており、糸から生地、そして製品へ仕上がるまでの工程が、産地内で全て完結できるそうです。

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彦坂さんの「とある1日」のスケジュールを拝見すると、自社に滞在している時間はごくわずか。大半の時間を紡績工場、機屋、縫製工場など、現場に足を運ぶことに費やしていました。
デスクワークだけではなく、こうして現場に足を運べる産地ならではの働き方に面白さを感じているそうです。
彦坂さんの「良い生地を作るためには全ての工程を把握することが必要!」という言葉が印象的でした。この一言に、産地で働く意義を感じます。
現場の知識がなくても製品をつくることは可能ですが、その知識の有無では、製品の説得力も大きく違うと思います。

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産地で働くことは、同時に産地としての課題にも直面することでもあります。
尾州では課題が山積みで、どこから手を出してよいものか分からず飽和状態になっていたそうです。
彦坂さんは課題解決に、産地のもの、場所、人を発信し、ファンを増やす必要があると考え、尾州を象徴するプロダクトをつくりはじめました。

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そこで生まれたのが自社ブランド『blanket』のメルトンコートです。
紡毛糸を二重織りにすることで空気の層をつくり、軽くて暖かいダウンのような構造の生地を使用しています。
見た目はふっくらと、かなり厚手の生地ですが、想像以上に軽かったです。肩まわりがゆったりしていて、ウールに包まれたような安心感がありました。
生地はもちろんのこと、オリジナルの漆ボタン、刺繍など細部までこだわり抜かれていて、彦坂さんの産地でのものづくりにかける思いの強さを感じました。

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また、繊維企業で働く若手たちで「尾州のカレント」という産地のコミュニティを立ち上げ、尾州が繊維産地であることを広める活動をされています。
尾州のカレントが企画した『びしゅう産地の文化祭』で、工場見学を開催したところ、想定を大きく上回る集客(推定来場者数2000人。大型シャトルバスも、100台ご用意した駐車場も、工場見学も満員御礼!)。好評を受けて、「次回のイベントに参加したい!」と新たな企業からの声も挙がっているとのこと。彦坂さんを中心とした産地の人々の活動により、尾州に新しい風を吹かせているのではないのでしょうか。このような動きは、他の繊維産地で奮闘している人たちに、これから益々注目されていくこと間違いないと思いました。

(講義はまだまだ続きます。)

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尾州には古くより羊毛再生の文化があるそうで、現在、彦坂さんが勤める大鹿株式会社が手がける再生羊毛を使用したテキスタイルブランド「毛七」が注目されています。
毛七は、反毛(古着などをもう一度わた状に戻すこと)した原料と化学繊維を混ぜて紡績したリサイクル糸を使用しています。毛七とは名前の通り「毛が7割(ウール70%)」という意味です。この糸は、古着が持つ元々の色を利用しているため染色もいらず、とても効率よくつくれるそうです。
サステナビリティへの関心が高まる中、尾州では当たり前だった文化が、海外からも注目されはじめています。日本らしさを押し出したブランディングも功を奏し、再生ウールは尾州のアイコンになりつつあります。

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国内の繊維産地の課題を紐解く鍵は、この「再構築」にあると思いました。
毛七は、尾州では一般的だった“再生ウール”という文化の魅せ方を、再構築、リデザインすることによって、共感を得て支持される製品へとなりました。
産地には、毛七のように視点を変えることで輝く、もの、技術、会社がまだまだあると思います。人との掛け合わせによって産地の仕事の可能性は無限に広がります。
働くことの価値観が多様化している今だからこそ、その可能性、おもしろさに気づいた若い人たちが産地に入ってくるのだと思いました。
産地企業は、既存の仕事にプラスアルファで動ける環境をある程度つくり、行政の支援が加われば、「日本の繊維産地はどんどんおもしろくなる!」と期待に胸が高まる講義でした。

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私は4年間機屋で働いていましたが、残念ながら“プラスアルファ”まで辿りつけませんでした。だからこそ、繊維産地のことを考えたい!と改めて思わされる講義内容でした。

彦坂さん、貴重なお話をありがとうございました。

谷藤

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