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ビルドアップで負けて 試合にも負けて J1第31節vsアルビレックス新潟 マッチレビュー

試合サマリー

・前半

サンガは前節からメンバーを大きく変更。アビスパ戦での大活躍以降不動のレギュラーだった原をベンチに回して天馬が先発スタートに。

しつこいほどにディフェンスラインからのパスによる組み立てを狙う、新潟への意識と対策を強く感じさせる布陣でスタート。

したのですが。ここでいきなり大きな誤算。
ハイプレスに対して「奪えるものなら奪ってみよ」と言わんばかりのビルドアップで迎え撃ってくると予想していたアルビが、足元での繋ぎにこだわってくれず。

パスワークを中心にはすれどハマりきったら無理をせず蹴り飛ばしを選択。ボールが中盤の頭の上を超えるシーンが想定以上に発生します。

「おたくら、高いところで引っ掛けてカウンターを封じられると攻撃が手詰まりになるらしいですね」との声が聞こえるかのようでした。

アルビに見透かされつつも、左サイドを中心に何度か引っ掛けたりして攻撃できそうなシーンはあったのですが、奪った後の精度は低く崩し連携で同じイメージを共有することもできずでは点は奪えません。

そうこうしているうちに20分あたりからはアルビが京都のプレスに慣れ始めて、奪うどころか剝がされチャンスを作られ始める事態に。

独走されて決められたシーンはオフサイドで救われましたが、左サイドを崩され後追いでファールで止めたところで与えたFK。高い精度のキックをファーで合わせられ先制を許します。
0-1。

反撃を試みたいところですが…。
ハイプレスは空転させられ、自分たちで後ろから組み立てようにもまるでまともなパスワークを作ることができず。
単発でカウンターからサイドを突破できても所詮は単騎突破。一人で持ち上がるものの囲まれ時間をかけられ相手の守備は整い、苦しい状況でむやみに縦パスを入れたところで失ってを繰り返すつらい展開に。
追いつける雰囲気などなく0-1で前半終了。

・後半

ビハインドを解消するためギアを上げてハイプレスを敢行するサンガに対して、それはもう前半で慣れましたよとの余裕をもって対応するアルビ。

狙った形で奪えないなら次は自分たちで試合を作るために組み立てる必要があるのですが、それができたら苦労しないのが今のサンガ。

「剝がされるリスクを負ってガツガツ追わなくても、コースを限定しつつ追い込んでいけば勝手にそちらからロストしてくれると聞きましたよ」と言わんばかりのアルビの守備に、仰るとおりですと返さんばかりのサンガの攻撃。

意思なく隣の選手に預けては追い込まれハメられ、苦しい体制で無理に前線に差し込んだところではじき返されたりロストしたり。
前線の力業でアタッキングサードに侵入できる場面はあれどやはり単発。シュートは打てても決定機には至りません。

危険な奪われ方や剥がされ方をして大きく裏返されあわや…といったシーンは生まれつつも、アルビがリスクを負わず流し気味に攻めてくれたこともあり失点はせず。
結果以上に差がある0-1で試合終了。

PickUp:アルビとの比較で考える「ビルドアップ」論

いつものことですが基本スタッツから見ていきましょう。

パス成功が357対358。支配率は49%対51%。そして結果は0-1。
この数字が物語るのはそう、繰り広げられたのは互角の戦いであり、どちらが3ポイントをとっても不思議ではないシーソーゲーム。
そんなわけあるかい。

結果として残された数字が僅差であっても、両チームのサッカーの完成度には埋めがたい壁がある。試合を見た人であれば誰もが持った感想のはずです。

差を感じたポイントは多々あれど、特に大きく違いを感じた後ろからのパスによる組み立て・ビルドアップの精度。同じピッチで戦うことで浮き彫りになったサンガのビルドアップが抱える問題点。

今年の頭からずっと抱え続ける問題ではありますが、良い機会なのでこのタイミングで振り返っていきます。

サンガのビルドアップがなぜうまくいかないのか。
まともに収まらないファーストタッチに遅くて浮くパス…といった技術面はもちろんですが、高い技術を持つはずの選手(三竿・原・武田)がいてもこれだけ悲惨なことになっている以上、技術だけの問題でもありません。
(一三さんのパスサッカーは魅力的でしたが、就任により劇的に選手の技術が向上したり、實好さん就任により劇的に退化したわけではなかったでしょう)

技術以外の大きなポイントとを見ていきます。
また、スタッツが出ていないため正確な数は出せないのですが、見ていて両チームで明らかに差がある数値でビルドアップに影響するものを挙げていきます。

ビルドアップの基本要素

「ビルドアップ」と一括りにすると解像度が低いため、一段階ブレイクダウンして考えます。ビルドアップからフィニッシュに繋げる流れに沿って以下の4つに分解します。

  1. シンプルに味方に渡すパス

  2. 相手を動かすパス

  3. 相手を剝がすパス

  4. アタッキングサードへ届けるパス

具体的に見えるようになりました。
それぞれのポイントにおけるアルビとの差(サンガの問題点)を分析していきましょう。

1.「シンプルに味方に渡すパス」における問題
当然の話ですが前提として。
間違ったポジションに位置を取ればコースは消え、コースがなければ味方に渡すことすらできません。相手を動かす・崩す以前の話です。

湘南戦でも何度も発生していた現象ですが、ある程度いい形で右サイドに展開できて福田がボールを持てたのに、止まってしまい結局戻してやり直し。
のパターンが何度も見られました。

ボールを持って出せなかったのは福田だから福田が悪い。
そんな安易な結論になるはずがありません。右サイドが壊死してしまっていた大きな要因は、自由好き勝手にメチャクチャな動きを繰り返して陣形に大穴を開けた川崎です。

川崎へのコースはゼロ。金子・山田に当てるのも厳しく結局井上しかない

「完全な自由を与えられている」と評されたメッシにでもなったかのような動きでした。縦横無尽に、しかし規律なく相手への脅威にもならない動きを繰り返すことで右サイドのパスコースは消失。

いてほしいタイミングと場所にポジションが取れず。遅れて入ってきたときには相手の守備がセットされ結局戻す以外の選択肢が取れない。湘南戦から数えると何度同じようなシーンが出ていたか。

メッシは、場所と時間を問わずボールを持てば質で優位を作れるからあんな動きが許されているだけです。世界で唯一。

サンガ内ですら特筆するほどズバ抜けた技術があるとは言えない川崎が同じような動きをすれば、陣形に穴が開きチームのバランスが崩れるのも当然。
ポジショナルプレー以前にポジショニングがきちんとできていないのです。

タッチ位置のバラつきが顕著。チームの崩れに繋がりました

「担当エリアを離れた回数」あたりを数値で出すと、チームパフォーマンスとの逆相関が見えそうです。

2.「相手を動かすパス」における問題点
横パスや下げるパスの多さに辟易としているコメントが多く、フラストレーションを溜めている人が多いように見受けられました。
とはいえアルビも横パスや後ろに下げるパスは多かったはずです。
なので、横や後ろへのパス数そのものは問題ではなさそうですね。

サンガのパスの何が問題か。パスを出す方向が横や後ろであることではなく、意図なく隣の選手にとりあえず預けるだけで、相手を一切動かせていないことです。
自分のロストを避けることしか頭にない麻田を筆頭に。

相手を揺さぶる力と組織力のなさが浮き彫りになっていた2点をピックアップします。

①パスを出すときのタッチ数
特にバックパス前のタッチ数で明確な違いが出ているはずです。
アルビの選手は苦しい状況になったら下げてやり直すためにバックパスを多用していましたが、パスを受ける前から下げるべき状況を察知しているため、バックパス時のタッチは多くがダイレクトか2タッチ以内に収まっています。

一方でサンガは...。漫然と回しているだけで相手を動かす目的がないため、ボールを触りながら考えて追い込まれたと気付いてからバックパス。戦術的に下げているのではなく下げさせられており、バックパス前のタッチ数が明らかに多い。

②受け手と出し手の距離

出ている矢印は隣接する選手にしか向かない。濃い矢印が特定の場にあるだけ
矢印の出先が豊富。CB間でのパス交換も少ない

詳細に比較するまでもありません。
サンガの矢印の出先のパターンの少なさは隣接する選手に渡しているだけであること示し、濃い色の矢印が出ている後ろで隣の選手に渡しているだけであることが伺えます。
相手のゴールから遠いところで、悪い意味で規則的に、短い距離でパスを交換しているだけ。それで相手が動くはずがない。

対してアルビの矢印の豊富さ。矢印の濃さが均等であることと合わせて、相手の位置を見ながらボールを広く動かし、サンガを揺さぶっていたことが伺えます。

そしてボールを大きく動かすためには、まず自分たちが相手を動かせる位置に立つ必要があります。アルビの選手はパスを受ける位置が良いのはもちろん、受ける前のポジション修正での運動量が豊富でした。
対するサンガは一度ポジションに着くとそれっきり。動き直して相手を撹乱することがないから相手の視野を外れませんし、立ち止まって受けるから当然タッチの瞬間を狙われます。
(「走行距離」を攻撃時と守備時で分けて見れるようになると良いのですが)

動き直しがない顕著なデータとして、麻田と井上のタッチ場所。

何故かはよく分かりませんが、二人はハーフライン付近まで進出すると「後退する(スペースを作る)」の選択肢が消え去ります。

一度受けるとピンで刺されているかのようにハーフ付近を死守しようとし、中盤の選手が詰まって下げたい雰囲気を出しても動かないため「やり直し」を作ることすらできなくなるシーンが多々。
結局、CBの二人が苦し紛れに進むか蹴って失うばかりになるのです。

少し遡りますが、セレッソ戦のハイライトが分かりやすいので使いませう。
セレッソのカウンターのほとんどが高い位置で受けてしまった右CBからのロストですね。

「低い位置で受けると相手のプレッシャーが直撃するからNG」は、一律で高いところに滞留し続けろとの話ではないのですが…。
相手を動かすためのポジション修正で動けていません。

後ろの組み立てで引き付けたら前に。前を固められれば後ろで回して引き出す。
左に寄せたら右に広げ、右に寄せたら空いた左を突く。
アルビに限らず、J1のどこのチームもやっている当然のアクションなのですが。というかサンガもアビスパ戦ではできていましたね。
「成長だなあ」と思っていましたが、その日限りの思い付きでしかなかったのかもしれません。

3.「剥がし方」における問題
原も試合後コメントで話していますが、ドリブルで相手を剥がし数的有利を作るシーンがほとんどありませんでした。

「大きなチャンスは作れず、蹴ってのチャンスがほとんどだった。一人ひとりが間で受けて、崩すだったり、そういう小さな突破が少なかった」
https://www.soccerdigestweb.com/news/detail/id=142016

中断期間にシティと戦ったマリノスの選手が、欧州との差について印象的なコメントを残していました。「後ろの選手の持ち運びがとても厄介だった」と。

パスの話をしているのにドリブルかよと思われるかもしれませんが、車輪の両輪であり、一方を見せることでもう一方が活きる関係にあります。

パスだけでもドリブルだけでも良くない。剥がすためのトライなくパスだけ回していても相手が崩れるはずもない。
のは、両翼しかドリブルの選択肢がないサンガと、中盤からセンターバックまで自分で持ち運び剥がす選択肢のあるアルビとの差で感じられることですね。
各選手のドリブル数も見れませんが、MF/DFのドリブル数で顕著な差が出ていることでしょう。

ほかに細かい点でいうと、パスの際の体の向き。
サンガの選手は体が向いている方向にしか出せないので、予測されてしまい剥がせない(どころか相手の守備に先手を打たれて詰まる)です。
アルビの選手は上から見ていても予測できない先に出していることが何度もありましたね。

4.「アタッキングサードへ届けるパス」における問題点
パスが回せて、相手を動かせて、剥がせて。と仮定して。
フィニッシュに繋げるためのラストの部分のパスの話です。

アルビとの明確な差を感じたのは「スイッチONの共通意識」です。

問題点だらけのパス回しを繰り出すサンガでも、さすがに90分あれば何回かは剥がせるところまではいくものです。にもかかわらず、自分たちで組み立てて良い形でフィニッシュに辿り着くことは皆無でした。
(パトの頭めがけて放り込んで作ったチャンスは除外しますよ)

せっかく「剥がせた!チャンスになりそう」なシーンがあっても、ピッチ内の選手でその意識が共有できていないのです。
なので、いい形でフリーで持てたのに悩んだり、もたついたり、そもそもチャンスを掴むきっかけがあることに気付くことすらできず。

結果止めてしまい、その時間で剥がして生んだ浮いた味方のところに敵のカバーが間に合ってしまう。
(太田がリスクを負って懸命にトライして剥がして作ってくれた有利は、受け手のところでことごとく握りつぶされていました)
そんなシーンが最後の壁で立ちはだかります。

テンポよく1~3タッチで繋いで引き付けて、サイドチェンジや楔で剥がしたら太田・松田・高木にサイドの深い位置で預けて切り込んで…。までの絵が11人全員で描けているのだろうなあ。
とアルビを見て感じました。ひとりひとりがバラバラに動き意識すら共有できていないであろうサンガとの差と共に。

せっかく相手を剥がせたのに止まったり後ろに戻してれば、良い形でフィニッシュに持っていけるはずなどありません。
剥がせた後のタッチ数やパスの方向がデータで取れたらいいんですけどね。これもきっと明確な違いが出ていることと思います。

さいごに

ビッグスワンで対戦した時のアルビは、良くも悪くも「良いパスのチーム」でしかありませんでした。
こだわりが強く特徴さえ押さえれば与しやすい敵と思っていた相手が、5か月後に変貌した姿で現れ、サンガスタジアムで躍動していました。

パスの使い分けに加え、組織的なゾーン守備でサンガに攻める糸口すら与えないアルビは「良いパスのチーム」ではなく「良いチーム」でした。
一方で自分たちのチームに目をやると、5か月経っても「よく走るチーム」は「良いチーム」になっておらず「よく走るチーム」のまま。

悪い言い方をすると「よく走るだけのチーム」のままでしかないと気付かされてしまったときの気分は何と表現すればよいのでしょうか。

アルビのようなパスサッカーを望んでいるわけでは、決してない。集められた選手の特性やチームスタイルの違いを筆頭に、そういった上辺の表層的な部分を真似をしてほしいと言う趣旨ではない。

強身を軸にしてチームの土台を作り、一つの武器を二つに、二つの武器を三つにしてたくましく成長していく。そんな今のアルビのような姿こそが成長でありRevUpと思っていたのですが、私の考えが見当違いなのでしょうか。

シーズンが佳境に差し掛かった時期なのに、自分たちの強みが何かの整理すらできず、時限爆弾パス回しゲームをホームで繰り広げるチームが見たいわけではありません。

下が下なおかげで今年の残留は大丈夫でしょうが…。
来年下3つを回避できるかは甚だ疑問に感じてしまいます。今から危機感を持って真剣に自分たちと向き合わないと、来年の今頃泣くことになるのが目に見えるようですね。

長くなりましたが、今回のレビューは以上です。
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