あの頃の寂れた町

今日、聡は訳あって寂びれた町に行った。
その町のとなり町はとても栄えているのに、その町に足を踏み入れるだけで明らかに空気が寂れているのがわかった。町全体に哀愁が漂っていた。

何か昭和の匂いさえするその町は現代から取り残されたような、むしろ現代をこばんでいるようでさえもあった。


歩いていると雑貨屋らしきお店に立ち止まった。ふと看板をみると、おやっと思った。なんと文字が右から左へ読むようになっているのだ。『屋貨雑』というふうである。なにかタイムスリップでもしてきたような気分になった。


そこからしばらく進んで人ひとりがようやく通れるような小さな路地をくぐり抜けると小さな工場に行き当たった。


ここも見事な程に寂れていた。今日は日曜なので休みらしかった。おじさんというかおじいさんぐらいの人が一人、作業に使うであろう手袋やタオルを干していた。
目が合ったので、内心びくっとしたが軽く会釈をしてさらに路地を進んだ。

路地の行き止まりに、「太陽荘」と書いてある名前に似つかないオンボロのアパートがあった。

ここが聡の目的地だった。

聡はバイトでこの町にやってきた。

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