広瀬和生の「この落語を観た!」vol.46

8月24日(水)
「おひつじ亭“立川笑二ひとり会”」@駒込アーリーバードアクロス

広瀬和生「この落語を観た!」
8月24日(木)の演目はこちら。

立川笑二『青菜』
立川笑二『ちむわさわさぁ』
~仲入り~
立川笑二『死神』

笑二の『青菜』は植木屋が完全に怠けて全然仕事してないのを旦那が見透かして声を掛けるという演出。「袢纏が汚れてるから」と言う植木屋に「汚れてないでしょう」と切り返す旦那、というのはいかにも笑二らしい。隠し言葉のわけを聞いた後で繰り返される植木屋のトボケた対応と旦那のリアクションの可笑しさも絶妙。「これ、直しですよね」と言われた旦那が「このあたりではそれを直しと言いますか」と感心するのが後半のオウム返しで見事に活かされるのはお見事。「ひょっとすると華族様の出じゃないかって言われるぞ」への「華族様の出なのに職人やってる方が余計バカにされるよ」という女房のツッコミも笑った。「奥様って言われちゃうぞ」と言われてその気になって自ら押入れに入った女房、押入れから倒れ出て受け身を取れずピクピクしてるのに「菜を持って来なさい」と言われてまた入っていくのを見た半公の「やめろ! そこに菜はないしあっても腐ってる」はごもっとも。かなり攻めている演出なのに全体に飄々とした雰囲気が漂うのは笑二ならでは。

『ちむわさわさぁ』はホラー系の新作。“ちむわさわさ”とは沖縄言葉で“胸騒ぎがする”といった意味だとか。喫茶店のマスターが、やって来た客に沖縄言葉で話しかけるのが発端。客はマスターの沖縄時代の友人で会うのは15年ぶりだという。時に沖縄言葉を交えながら展開される2人の会話は徐々に恐ろしい方向に展開していく……。“沖縄言葉”というツール(吉笑の言い方を借りれば“ギミック”)がもたらす我々にとっての“異世界”感と登場人物にとっての“リアリティ”との絶妙なバランスが効いている、笑二にしか作れない傑作だ。

笑二の『死神』は「神様というのは結果を見ているだけの存在」という世界観に基づいている。福の神は金持ちを見ているのが好き、貧乏神は貧乏人を見ているのが好き、そして死神は「人が死ぬのを見るのが好き」ということ。枕元に死神がいた近江屋を布団反転の計略で助けた途端に主人公の男は具合が悪くなり、家で寝ていると死神が現われて「凄い知恵を出したな。よくやったよ。あそこにいたのは俺だ、褒めてやるよ」と意外な言葉。「今日は疲れてるから明日来てくれ」と言うと「明日があると思うのか? まだわからねえか、お前の枕元に俺がいるんだぜ」……。

冒頭で死神が「寿命が残っている人間が死ぬと後始末をしなくちゃいけないので面倒だから」と主人公を医者にするという設定が、ラストの死神の棲家(寿命の蝋燭が揃っている場所)でのやり取りに見事に活かされ、主人公の驚きの行動からの意表を突く展開はあまりに独創的。主人公と女房との関係性を中心に置いている点も含め、笑二の卓越した創作力が堪能できる逸品だ。

次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

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