広瀬和生の「この落語を観た!」vol.124

3月14日(火)
「白鳥vs白酒 ピーチスワン」@浅草見番

広瀬和生「この落語を観た!」
3月14日の演目はこちら。

三遊亭白鳥・桃月庵白白酒(トーク)
桃月庵白酒『宿屋の仇討』
~仲入り~
三遊亭白鳥『宿屋の仇討:はん治編』

白酒の『宿屋の仇討』は三木助型(川越藩の石坂段右衛門)。キンちゃんの贔屓力士は白鵬。一方ロクちゃんの贔屓力士は輪島、双羽黒、朝青龍。源兵衛は式守伊之助が好きで、白鵬対輪島の行司を務めることに。

白鳥のネタは、15年ほど前に作って封印した噺をリニューアルしたもの。当時は「柳家喜多八編」だったものを「柳家はん治編」に変えている。

東京駅近くには遠方から通勤しているサラリーマンが夜中まで飲んで泊まるようなカプセルホテルやビジネスホテルが乱立している。そんな安ホテルのひとつ井筒屋で客引きのバイトをしているオジさんが、ムアンチャイという男を「5千円で一泊、静かに眠れますよ」と部屋に案内するのが発端。ムアンチャイはタイから来たキックボクサーだがジムをクビになって道路工事などをして暮らしているのだという。

その直後、ベテラン噺家と若い弟子が翌朝の新幹線移動に備えてホテルを物色、弟子が井筒屋の客引きと交渉し始めると、客引きが叫んだ。「あっ、お前は弟弟子の柳家ミミ!」「あれ? はん治兄さん、どうして客引きを?」 そこへ現われたのは二人の師匠である人間国宝……。

一部屋しかないので師匠はミミと相部屋に。夜中、ミミに『初天神』の稽古をつける人間国宝。その声がうるさくて眠れないとはん治に怒りをぶつけるムアンチャイ。「明日ワタシ仕事みつけなきゃいけない! タイで妹と弟がワタシのお金待ってるよ!」「でも師匠が怖くて文句言えないんです」 ムアンチャイは地元では死神と恐れられていた男。「静かにさせないとワタシのキックで腰骨バラバラにするよ!」

おそるおそる人間国宝に「静かに寝てください」と頼みに行く柳家はん治。「さもないと蹴り殺されますよ!」「わかった、静かにする」 人間国宝は稽古をやめて、ミミに昔の思い出話を始めるが、ついつい大騒ぎになり、再びムアンチャイははん治に脅しを掛ける。はん治に注意された師匠はおとなしくミミに“色事の話”を始める。曰く、二ツ目の頃、新潟で北朝鮮に拉致されて日本語の教官を務めていたが、あるとき将軍様の第三夫人ユン様に「私を連れて日本に逃げて」と言われた。ユン様は日本に住んでいたことがあるのだという。若き日の人間国宝は将軍様の子をお腹に宿したユンと共に大脱走、共に日本へやって来るとユン様は「私と一緒に居るとあなたは危険に巻き込まれる」と別れを告げた。その後、ユン様の隠し子は若き日の人間国宝のツテで落語協会の噺家となった。高座名は桃月庵白酒……。

話が盛り上がってミミが「マンセー! マンセー!」と大騒ぎ。するとムアンチャイははん治を呼んで「ワタシの正体は北朝鮮の先の将軍様の第三夫人と隠し子を探しに来た工作員チャン・トンソク。隣に第三夫人を逃がした仇がいる。朝になったらワタシがマンギョンボン号で連れ帰る! 早くしないとテポドン落とすよ!」 驚いたはん治は師匠をトランクに押し込めた。だが翌朝、ムアンチャイは「あれは嘘よ」と言い、師匠ははん治に「破門だ!」と怒りをぶつける。ムアンチャイは「破門を取り消せ! さもないと蹴り殺すぞ!」と人間国宝に迫るが、はん治とミミは体を張って師匠を守ろうとする。感激した師匠、ムアンチャイを弟子に取り、やがてこのムアンチャイは名人となって師匠の大名跡を継いだというおめでたい一席でお開きとなった。


次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

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