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偏愛の純度を高めるためには、まだまだ知らないことがありすぎる|絵本原画の世界2022

わたしの生活の一部に、いつもそっと寄り添ってくれているもののひとつに、絵本がある。

幼稚園教諭をしていた母のこだわりもあって、昔から我が家にはいわゆる「定番モノ」と呼ばれる絵本が一通り置いてあった。

ぐりとぐら
おおきなかぶ
はじめてのおつかい
ぶたぶたくんのおかいもの

何度も繰り返し読み聞かせてもらって読み真似をした絵本も、初めて文字を追いながら読んだ絵本も、怖がったり泣いたり笑ったりした絵本も、そういえば、絵のタッチも作者の生まれた国も全然違う絵本たちが、本棚にいつもたくさん並んでいた。

どの絵本も一度は母に読み聞かせてもらっていると思うのだけれど、あまり好きじゃなくて自分では開かなかった絵本もある。それでも、我が家にはいろんな絵本があった。

でも、いざオトナになって、自分で読みたい本を選べるようになった今、選書のポイントはというと

「わたしは、このタッチが好きだから」
とか
「こういうお話が好きだから」

とかそういう自分の「スキ」に焦点を当てたものが多かった気がする。オトナになったんだもん。偏愛だってステキじゃない。

と、オトナを満喫していたわたしは、ポスターに描かれた林明子さんの「はじめてのおつかい」と「ぐりとぐら」の原画が大好きで、初夏に、北陸は富山を訪れた。

初めての富山、よきでした。

この展示は、地方の巡回にしては珍しく一人の作家ではなく「こどものとも」という雑誌を軸にした展覧会。とにかく広い展示で、全部見るのに2時間半くらいかかった。

するとやっぱり
・この作家さんは好きだな
とか
・この作家さんはあんまり得意じゃないな
とか、そういうことを思うわけで。

創刊から149号、一貫してこの雑誌の編集者は松居直さん。

同じ方が編集しているのに、なんでこんなにもいろんなジャンルの、いろんな作家さんが出てくるんだろう……と純粋に不思議だった。

同じ人の好みとは、到底思えない。でも、一貫して彼は

この絵本を手に取る子にとって初めて触れる文章だからと、取り上げる題材だけでなく、絵の切り取り方ひとつ、文章の一言一句、レイアウトひとつひとつ、厳しくも常にホンモノを求める原画たちがたくさんあった。

そして、この文章にはっとさせられた。

ことばというものは意志で押しつけるものではありません。ただ語ればいいんです。相手が聞いた結果伝わればいいし、伝わらなかったらそれでおしまい。音の言葉は一回限りで、消えていくわけですから。今は教えようとか効果を期待しようとかいうのばかりで、相手に委ねる、言ってみれば「遊び」の部分がないんですよね。
私のことば体験 より

この人は、わたしたち子ども「に」自分の好きを提供してくれていたんじゃない。わたしたち「が」自分の好きを見つけられるように種蒔きをしてくれていたということに、やっと気づいて涙が溢れてきた。

だから、「こどものとも」にはいろんなジャンルが登場するのか。
だから、我が家には、あんなにもいろんなジャンルの絵本があったのか。

母の読み聞かせてくれる絵本に
本棚の絵本に
大きくなって読む本に
「これはアタリだったよな」とか「今回はちょっとハズレかも」と思っては一喜一憂していたし、オトナになって好きなものを引き当てることが上手になったようなそんな気がしていた今日この頃。そんなこと言っているわたし、薄っぺらかったな。

ガチャガチャで、創刊号「ピップとちょうちょう」を当てました。

わたしのための偏愛の純度を高めるためには、まだまだ知らないことがありすぎる。頭の中の模造紙にもっともっとたくさんの付箋を貼り付けよう。そして、それらをばーっと広げて、たくさんのグループを作って、また広げて……をずうっとずっと繰り返していけるような人になりたい。

そんなことを考えさせてくれた松居直さんが、お亡くなりになったと知った昨晩。ツーッと涙が頬をつたって、あの展示たちがばーっと脳裏をよぎりました。

たくさんの学びをありがとうございました。これからも、松居さんの言葉を胸に、自分や子どもたちと向き合っていけるようなオトナになります。

ヒカリが綺麗に入る美術館、大好き。

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