築地魚河岸三代目 第13話 (ふくれっ面のフグ 中編)

初めての三部作ではないでしょうか?ネタが多すぎて時折このようになった回があります。大変でしたが書きごたえがあって楽しかったです。皆さんが読み応えもあっていただくと嬉しいのですが。

第13話。
フグ中編。「気付く」

#・前号のヒキから入る。
前編「ちあき」で英二が旬太郎の投げつけた言葉と顔。
英二「三代目には
   魚河岸で働く者として
   一番大切な物が
   欠けているんです!」
#・『魚辰』。営業中。
ホースを持ち。立ちつくす旬太郎。遠い目。
冒頭シーンの英二の言葉が彼の回想だと分かる。
通りすがりの客に怒鳴られる旬太郎。
客 「どこ見てんだ!バカ!濡れんだろう!」
水槽に海水を入れていたホースを、いつの間にか、通路に向けていた旬太郎。
慌てて頭を下げる。
旬太郎「あ!す!すいません!」
と、いいながら、なお。心ここに無い旬太郎。
大きなため息を一つつき、
旬太郎モノローグ『英二さんは、
   それが何かは
   教えてはくれなかった。
   オレも聞かなかった。
   魚河岸(ここ)では
   言葉で伝えられる
   事は少ない・・・』
昨夜からの三代目と英二の関係に気を使いながら、気まずく働いていた他の面
々が、ひそひそと語り合う。
拓也「やっぱ三代目、気にしてるっスよ」
雅 「昨日の事だろう?
   あの言い方はキツいよなぁ」
まな板の上の、己の仕事を淡々とこなす英二。
英二「三代目」
旬太郎「あ!はい!? なに英二さん?」
旬太郎の方を見向きもせず、厳しい表情を変えずに、
英二「しばらく、『魚辰』
   休まれちゃどうです」
旬太郎「え?」
英二「何もわかっちゃいない三代目に、
   考え事されながら
   店にいられちゃ迷惑だと、
   言ってるんです」
「!」一同、驚きに声も無い。身を固くする一同。
下を向いた旬太郎。
旬太郎「すまない・・みんな・・
   しばらく休ませてもらう!」
拓也「さ、三代目!」
旬太郎「いいんだ。英二さんの
   言うとおりさ」
肩を落として店を出ていく旬太郎。
それを見送り、一同、英二に反発して、
エリ「ちょ、ちょっとぉ~
   ヒドくない?英二さん!」
拓也「あんまりっス!」
雅 「いくら、なんでもあの言い方は・・」
何も答えず、その非難を承知で受け止める、
ザクザクと自分のやるべき仕事をこなす男の背中。
#・肩を落として歩く旬太郎。
だが、拳を結んで決意する。パン!アップで、
旬太郎「よしッ!」

#・ふくマル商店。
旬太郎「昨日は申し訳ありませんでしたぁ!」
とんでもない大声が仲卸に響き渡る。
驚く、客や他の店の者たち、何事かと、声の方を伺う。
ふくマル商店の店先で、深々と頭を下げている旬太郎。
奥で、水槽から上げたフグの顔を睨む福太郎。
店の従業員が泡を食って周囲に気遣いながら、
従業員「やめて下さいよ、店先で・・」
旬太郎「お願いがあります!
   しばらく、オヤジさんの下で
   勉強させて下さい!」
頭を下げ続ける旬太郎に、何事かと出てきた他の店の仲卸の連中が声をかけ
る。
周囲「なんだ、あんた『魚辰』の
   三代目じゃないか
   よさねぇかよ。いい若旦那が・・
   ホラ頭を上げねぇ」
旬太郎「いえ!どうかお願いします!!」
頭を上げようとはしない旬太郎。
周囲「ふくマルの。こんだけ
   言ってるんだ話くらい
   聞いてやんねぇよ」
ギロツ!一瞥を旬太郎にくれる福太郎。
フグを品定めする時の厳しい顔を変えずに、
福太郎「オレは容赦しねぇぞ
   そんでもいいのか!」
これを受けて、嬉しそうな旬太郎。
旬太郎「ハイ!ありがとうございます!」

#・魚河岸内の売店の前。そこいらに腰掛け、缶を手の中に包み込むようにし
て、暖をとり、飲みながら英二と福太郎。不器用者同志のボツボツとした喋り
合い。
福太郎「驚いたぜ・・
   魚河岸(かし)じゃあ、
   仲卸の跡継ぎが
どうしても甘えの出る
   自分の店より、厳しくしつけられる他の卸に
   修行に出されるてぇ話しは
   聞いた事ぁあるが・・」
福太郎「まさか、てめぇ自身を
   辛ぇ武者修行に出すなんてよぉ」
感慨深げに、福太郎。缶の熱燗をグビリと飲み、
福太郎「あれが『魚辰』の三代目か・・」
缶を傾けながら、ちょっと誇らしげに、薄く微笑み。
英二「ええ。あれが
   『魚辰』(うち)の三代目です。」

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