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note殺人事件#「シロクマ文芸部」

十二月、師走とは言っても、まだ人々が慌ただしく街中に繰り出さない初旬の夜、路上に一人の女が倒れていた。

切り裂かれた衣服、研ぎ澄まされたナイフの傷痕が倒れた彼女の背中を縦横無尽に這っていた。

「怨恨の線が濃厚だな」

しわくちゃなトレンチコートを着た橘警部補が部下達に向かって言った。本人はフィリップ・マーロウを気取っているつもりらしいが、日本人然とした体型から、どこから見ても「刑事コロンボ」にしか見えない。
「可哀想に、まだ若いのにな」
「そうですね」
部下の玉見刑事はメモを取りながら頷いていた。
「このファッションからして、近くのキャバクラの姉ちゃんかな?所持品は?」
「それが身元を示す物は何一つ、見当たらないんですよ」
「何もか?」
「はい、何も…」
橘警部補の眉間に縦皺が二本、くっきりと浮かびあがった。昼間ならまだしも深夜のこの辺りで目撃者を見つけるのは至難の業だろう。後は科捜研に何か手掛かりを発見してもらうのを待つしかないのか。
それにしても科捜研の到着が遅い。

「仏さんが何処の誰だか分からないと怨恨関係を探すことが出来ないなぁ」
橘警部補は大げさなアクションで腕時計で時間を確認した。
「午前三時か…」
ポーズを決めた上司を無視して
「後もう少しだったのに」
玉見刑事は一人言を呟いた。
ガクっとしながらも橘は、その言葉を聞き逃さなかった。
「おい、『もう少し』ってなんだよ?」
「いや、公衆電話で助けを求めたかったんじゃないですか?彼女。こいつが話せればな~、全部見てたはずなのに」
玉見は恨めしそうに深夜に其処だけ明るい公衆電話を見つめた。


『見てたよ。僕は全部見てたんだ』
公衆電話は叫ぶが橘達の耳元には届かない。
『早く、僕のボックスの中を捜してよ!そうすれば、全てが分かるから』
公衆電話はボックスの中で苛々を隠せなかった。

橘達の背後から
「遅れてすみません」
息急きって敏腕刑事の青豆ノノが現れた。今日も風にたなびく黒髪が美しい。
「遅いぞ、青豆、何してたんだ?!」
「えっ、いえ、ちょっと…」
(PCの調子が……なんて言っても警部補には分からないだろうしな)
「それより、第一発見者の通報者は?」
青豆は急いで話を逸らした。
「それが何処にも居ないんだよ」
「消えた通報者って訳ですね」
青豆も手帳を取り出しメモを取り始めた。

ノノさん、僕に気付いてよ~』
公衆電話はまだ叫びを止めない。

「あっ!」
さっきまで地面を探していた鑑識官の中山明媚巡査部長が声を上げた。普段、冷静沈着な彼女にしたら珍しい。
何かをピンセットのような物で挟むとそれを青豆刑事に素早く見せた。

「こ、これは」
「間違いないですね」
頷き合う二人の敏腕警察官の間に割って入ったのは除け者にされた恰好の橘警部補だった。

「なんだ?見せてみろ」
「これです」
青豆ノノ刑事と中山明媚巡査部長が橘警部補に差し出したのは
「なんだ、どんぐりじゃねぇか」
何処にでもありそうな一個のどんぐりだった。

「こっちにはダイニングメッセージとおぼしき物が発見されました!」
鑑識官一同が俄然、色めき立った。
紙切れを自慢気につまんだ暗夜灯鑑識官が、大きな声で、それを読み上げた。

「きのみきのまま」


「なんじゃ、そりゃ」(このセリフポイント)
橘が素っ頓狂な声を上げる。

「もう、間違いないわね」
「完ぺきよ」
青豆ノノ刑事と中山明媚巡査部長は二人で、ご遺体に近付くと同時に揺り動かし始めた。

「おい!止めろ!お前たち、そんな事したら現状維持の捜査の基本が」 
マーロウを気取った橘は慌てふためく。


「起きて〜、スズムラさん」
「こんなところで寝てると風邪引いちゃいますよ~」

「うーん、寒いんだけど…ムニャムニャ」
遺体が動いて、あどけない寝顔を見せた。

「ひぇ~、し、死体が動いた〜」
橘が思わず玉見に抱きついた。
「やめてくださいよ!セクハラで訴えますからね」

『なんだ、僕の出る幕なかったんじゃん』
公衆電話はちょっと寂しそうに笑った。公衆電話の上にはスズムラのスマホが置かれていた。使い過ぎてバッテリーの充電が切れたのだった。
『それにしても、このげりすんどめって落書き消して欲しいな…』


騒然とする現場へ一人の女が近づいて来た。
「皆しゃ〜ん、おちかれさま〜」
かなり酔っているようだ。足元もフラ付いている。
「第一発見者のsanngoでーす」
「今まで何処で何してたんすか?」
三羽刑事の問いに酔っぱらい女が答えた。
「寒いから飲みなおちてまちた〜」
「本当に人騒がせなんだから」

橘警部補だけは全てが腑に落ちなかった。
「じゃ、じゃあ、この女の背中の傷は?」

「あ、これ?スズムラーなら皆知ってますよ。趣味のアートですよ」
はそや鑑識官が見事に締めくくった。








少しの方のお名前しか出せなくて申し訳ございません。
なかなか難しいです。
あ、出ない方が良かったですか?(笑)失礼しました。


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