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カジノで感情を失った友人の話

こんにちは。
実家が全焼したサノです。

僕は数か月前から、
ポーカーをやり始めました。

まだルールを覚えたばかりですが、
オンラインゲームでは、
少しずつ勝てるようになりました。

そして先日、僕とほぼ同時期に
ポーカーをはじめた友人と、
アミューズメントカジノ
(お金を賭けないカジノ)に
行こうという話になりました。

ポーカーは、ポーカーフェイスという
言葉があるように、
感情を悟られずに相手の感情を読む戦いです。

だけどオンラインでは互いの表情を
読むことはできないので、
アミューズメントカジノで
心理戦を楽しみたかったのです。

いざ当日、僕と友人は少し興奮気味でした。
そして友人は会うなり僕にこう語りました。

「サノさん、僕ポーカーネーム決めてきました」

ポーカーネームとは、
ポーカーの時に使用するニックネームです。
ちなみに僕は名字でやっています。

いったいどんな名前なのか尋ねると、
友人は少し恥ずかしそうに、
しかしどこか誇らしそうにこう答えました。

「シェイン」

え?と思わず声をもらすと、
友人は再びこう言いました。

「シェイン」

もしかしたらすごく良い名前
なのかもしれませんが、
僕は彼がそう呼ばれているのを
1度も聞いたことがなかったので、
戸惑ってしまいました。

戸惑う僕をよそに、
友人はシェインと名付けた理由を
説明してくれました。

シェインは友人の名前を
ローマ字にして入れ替えた、
アナグラムでした。

確かにアナグラムを用いた
名前の改変は、
シェインがしそうです。

僕はようやく友人が少しだけ
シェインに見えてきました。

ただしポーカーテーブルに

サノ・タナカ・シェイン・ヤマダ

が並んだ時、名前だけでいうと
シェインは格の違う圧倒的に強い
キャラクターでなければ、
世界観がおかしなことになるので、
友人が圧勝する未来を願いました。

話が長くなりましたが、
ようやく店内に到着しました。

店内に着くと、早速
ポーカーネームを聞かれました。

友人は少し緊張しながら

「シェインです…」

と答えていました。

初めてのアミューズメントカジノに
緊張していたということも
あると思いますが、
それ以上に道中、友人が思い描くほどには
僕がシェインに惹かれていない態度だったので、
友人の「シェイン」に対しての絶対的な自信が
少し揺らいでしまったのかもしれません。

少し悪いことをしてしまったなと思いました。

いざ、僕たちがトーナメントに参加すると、
やはり相手に緊張が伝わってしまうのか、
全く思い通りにいきませんでした。
僕たちはあえなく敗戦しました。

こんなにもあっけなく
終わるものなのかと
僕たちは落ち込みました。

しかし負けても、1度だけ救済措置のある
システムだったので、僕たちは復活できました。

復活する際、店員さんから

「登録名お願いします~」
と聞かれました。

「サノです。」

「△△です。」

え?僕はシェインの顔を見ました。
シェインは、何食わぬ顔で本名を名乗りました。
そしてシェインは遠くを見つめていました。

しかし僕には友人の気持ちが少しわかりました。
オンラインで練習したのに、
こんなにあっさりやられたのも悲しいし、
今はシェインを名乗る気分では無いのでしょう。

「おかえり△△君…また一から一緒に頑張ろう」

そう思った瞬間、店員さんがこう言いました。

「すいません、△△という名前はありません」

友人は1度、え?と
聞きなおしていましたが、
ポーカーネームでないと
当然店内では識別されません。

友人は、覚悟を決めたのか、
どんな猛者ですらできないであろう
完全なるポーカーフェイスで
こう言いました。

「シェインです」

その後の試合も、
僕たちは惨敗しました。

いただいたお金は、切ないことに使います。