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『夜明けのすべて』を観て。

3月7日、tohoシネマズ渋谷で三宅唱の新作『夜明けのすべて』を観た。
いやあ、素晴らしい。日本でもこんなに良い映画がまだあるんだよなあ。最高っすよ、ほんとに。

劇中、パニック障害の人が書いた文章(題名とかは読めなかった)が映される。『歩ける範囲が、世界のすべて』この言葉に、ずしんと来た。
凄く小さな範囲の世界の映画だけど、山添君と藤沢さん、それ以外の人にとって、あの小さな世界が彼らの世界なんだ。
僕が普段見落としているものが、この映画には映っていた。
カメラはありのままの現実をそのままに記録する。だからこそ、人が見ていないものも映画では見ることができる。これって、映画の最高の喜びの一つですよね。

登場人物たちの関わり方も凄く良い。
決して深入りはしないし、その人の心を荒らすこともない。ただありのままの関係でいられることって何より嬉しい。
僕もあの職場で働きたい。

何よりこの映画が素晴らしいと思うのは、映画の喜びに満ち溢れているところ。
さっき言った(書いた)のもそうだし、山添君が自転車に乗るシーンなんかもう、、、
光の演出も、Hi'specの音楽も、全てがあの自転車に乗る感動に繋がって、世界が広がった瞬間を見ることが出来た。
やっぱり、映画は自転車だよ!と一緒に観た友人と盛り上がった。
坂本さん(大学時代の教授で友達)が言うには、「映画史、実証済みです」だそう。
確かに、その通りです。

そしてプラネタリウム。カタルシスです。
ラストに全員集合する感じ、これも実証済みの映画の喜び。
全員が見上げて星を見てるのとかって、映画館で映画を観る感覚に近いのかもしれない。
プラネタリウムと映画館は親戚みたいなものなのかも。
最後に死んだ光石研の弟の手帳に書いてある文章を読むところ。
過去の、過ぎ去ってしまった人の残したものを今生きる人が受け取る。いやあ、泣きます。
前に大学の教授が、三宅唱の映画には必ず受け渡す。という行動が出てくる。と言っていて、確かにこの映画でもそれは多く出てくる。
でも、この手帳の受け渡しは、時間を超えて行われている。ある意味これはタイムスリップなのかも?
受け取るとか、渡す、って、素晴らしい事なんだ。三宅唱の映画を観るといつもそう思う。
あと、上白石さんの声がすごく好き。
安心できる声。
前に上野の博物館でやっていた古代メキシコ展に行った時、音声ガイドを上白石さんがやっていて、その時もああ良い声だなあ。と思っていた。

些細なんだけど、でも限りない映画の喜びに満ち溢れている。

最近僕は、ベランダで椅子を置いて煙草を吸っている。
鬱屈としたどうしようもない生活を送っていたと思ってたけど、ちょっとだけ僕も世界が広がった気がする。

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