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坐禅、問答、物語。

坐禅を教えてくれる老僧と若い僧侶の対話を描いた創作物語です。
枯山水の庭を望む小さな寺の書斎で、二人の僧が心を通わせます。


静かな春の朝、寺の庭には桜の花びらが静かに舞っている。若い僧侶が書斎の扉をそっと開ける。中では老僧がお茶をすすっていた。

若僧: 「師匠、お邪魔します。坐禅について、もう少し教えていただけますか?修行が足りないもので」

老僧はゆっくりと目を向け、にっこりと笑う。

老僧: 「どうぞお座りなさい。ただ、修行が足りないのではありません。修行は積み重ねですからね」

若僧は頷きながら、床に座布団を敷いて、老僧の向かいに正座する。

若僧: 「師匠、坐禅は何のためにするのですか?」

老僧: 「坐禅は、自分自身と向き合うためだ。私たちの心は常に動いておる。坐禅を通じてそれを静め、本当の自分自身を見つめる」

若僧: 「心を静めるとは、どういうことですか?」

老僧は一瞬考え込むように見えたが、やがて話し始める。

老僧: 「心を静めるとは、雑念を手放し、今ここに集中することだ。私たちの心は未来や過去に飛びがちだが、坐禅はその瞬間、瞬間に意識を集中させる訓練、プラクティスでもある」

若僧: 「雑念を手放すのは難しいです」

老僧: 「確かに難しい。だが、それが訓練だ。坐禅はただ座ることではない。自分の内面と対話し、わが心を理解することだ」

若僧は思いを巡らせながら、もう一つ質問を投げかける。

若僧: 「坐禅中に感じる苦痛や疲れはどうすればいいですか?」

老僧: 「苦痛や疲れもまた、心が生み出すもの。それらを受け入れ、その感覚を観察することで、我々はより深く自己を理解することができる。苦痛は避けるものではなく、学ぶべき・・・教えだ」

若僧: 「なるほど。それで、師匠はどのように坐禅を始めたのですか?」

老僧は遠くを見つめるようにしてから、ゆっくりと答える。

老僧: 「私が若かった頃、心に多くの問いと不安があった。坐禅を通じて、それらと向き合い、解放する方法を見つけた。今ではそれが私の生きがいとなってます」

若僧: 「師匠の言葉に深く感じ入ります。私も真剣に学びたいと思います」

老僧は優しく微笑む。

老僧: 「その心があれば、きっと道は開ける。一緒に学び、成長して行こう。今日はここから始めよう」

二人は静かに坐禅を始める。
庭の外では風が葉を揺らし、時折鳥の声が聞こえてくる。世界の喧騒から離れたこの場所で、二人はただ静かに坐る。
しばらく時間が経った後、老僧がゆっくりと座を解き、若僧に話しかける。

老僧: 「さて、坐禅中に感じたことはあるかね?」

若僧: 「はい、初めは脚が痛くて、気が散ってしまいました。でも、師匠の話を思い出し、その痛みをただ観察していました。すると、だんだんと心が落ち着いてきたように感じます」

老僧: 「よくできた。痛みも、雑念も、すべては通り過ぎる。それらに振り回されず、ただ観察し続けることができれば、心は自ずと静かになる」

若僧: 「師匠、坐禅を深めるには、どのように練習を積めば良いのでしょうか?」

老僧: 「毎日、同じ時間に坐ることだね。そして、何よりも全ての行動、全ての思考に在り方を意識すること。坐禅は座布団の上だけの行いではない。日常の一挙手一投足にも、坐禅の心を持ち込む」

若僧: 「日常の中で坐禅の心を持ち込むとは、具体的にはどのようなことですか?」

老僧: 「食事をする時、歩く時、話をする時、全ての瞬間に、完全にその行動に集中すること。そこに心が全てを注ぎ、雑念が入る隙を与えない」

若僧は深く頷き、その言葉を胸に刻む。

若僧: 「理解しました。私も日常の中で心を集中し、常に今ここにいるよう努めます」

老僧: 「その志を持ち続けることが、何よりも重要です。時には、自分を見失うこともあるだろう。だが、そのたびに立ち返り、再び心を集中させる」

日が昇り、書斎の窓から柔らかな光が差し込む。老僧と若僧は、しばらく黙って座っていた。この静けさの中で、二人はそれぞれ自分自身と向き合い、内なる平和へと歩みを進めていた。

老僧: 「今日は、よくぞ聞いてくれた。この道は君の心を豊かにし、真の悟りへと導くだろう。悟りとは、黙って修行を続けることです」

若僧は感謝の念を込めて頭を下げる。

若僧: 「師匠、ありがとうございます。この教えを胸に、精進して参ります」

老僧は穏やかに微笑み、二人の心が一層深く結ばれる瞬間を共有した。この小さな寺での朝の教えが若僧の精神的な旅路において大きな支えとなる。師匠との深い対話から、彼の内面の世界がより豊かに、また穏やかに広がっていくのを感じることができた。

若僧: 「師匠、坐禅を終える際には、どのような心持ちで日常へと戻れば良いでしょうか?」

老僧は少し考えた後、答える。

老僧: 「坐禅を終えた後も、その静けさを心に留めておくことだ。坐禅の間に得た平和を、日常の中でも保ち続ける努力をすること。それが、坐禅の真髄を生活の中で実践する道です」

若僧: 「なるほど、坐禅の平和を日常に持ち込むことが大切なのですね」

老僧: 「正解。そして、その平和が次第に自然と身につき、どんな状況でも動じない心を育てることができる」

若僧はその言葉を噛みしめる。今の彼にはまだ理解しきれない部分もあるが、その深い意味をこれからの修行を通じて体得していくことを心に誓う。

若僧: 「師匠、教えをいただき、心から感謝しています。これからもご指導のほど、よろしくお願いいたします」

老僧: 「もちろんだとも。お互いに学び、お互いに助け合うことが、我々の道。いつでも何でも聞いてください」

そう言って老僧は立ち上がり、若僧もまた立ち上がる。二人は書斎を出て、朝日が照らす庭へと歩き出す。庭の桜の下で、師弟は新たな一日を静かに迎える準備をする。

老僧: 「さあ、今日も一日、心穏やかに過ごそう」

若僧: 「はい、師匠」

師匠と弟子、二人の間には言葉以上の深い理解と尊敬が流れている。坐禅とは、単なる座法ではなく、生き方そのものであるという教えが、若僧の心にしっかりと根付いていた。この日の教えが、彼の修行の中でずっと役立つことだろう。師と弟子の対話はここで一旦終わり、新たな学びへと続いていくのだった。


朝の陽射しの中で

今日は、若き佛との対話をイメージして創作しました。
わたしの理想というより密かな憧れのようなものです。

坐禅

本日4/11より原則として朝7時頃に投稿いたします。

いつも記事をご覧頂き誠に有難うございます。

念水庵 正道

#仏教の本質 #坐禅 #禅問答 #対話

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