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サンタが腹にやって来た

メリークリスマス!(遅)

今年のクリスマスはイブ共に平日だったので、仕事という人も多かったとは思うけど、恋人とデートしたり友達とプレゼント交換したり、家族とパーティーしたり、ぼっちでチキン食べたり、色々なクリスマスのドラマがあったことだろう。

さて我が家のクリスマスについてである。

クリスマスは、ゲゲは仕事だったり用事だったりがあったので、私は一人家で過ごすことになった。というかこれを書いている今まさに、その最中、お留守番なうだ。

まさかのぼっち!(お腹にはいるけどネ)

とは言え、イブはゲゲと二人で過ごすことができたのでリア充ってやつだ。

だけど、イブの午後、ゲゲはとても落ち込んでいた。ディナーの場所が決まらないことが原因だ。
良さ気なレストランに電話をするも、どこも空きがないようだ。ゲゲは電話を切る度に「ハァ...」とため息をついては、しょんぼりと肩を落とした。

こうならないように、ひとは前もって計画を立てるものなんだろうけど、うまくいかない時がある。まさに"今"がその時だ。とはいえ事情がある。

こういう計画を立てるのが大の苦手なゲゲの性格もあるのだけど、そうではない。

私たちはゲゲの出張先の街に来ていた。予定が変わり滞在が伸びたので、急遽、この街でイブを過ごすことになった。という事情である。

もともと大した計画もなかったんだけど、こうなると計画もへったくれもない。

あくまでも出張だけど、私はゲゲと旅行に来られたような気になって浮かれていたので、そんなことは気にしていなかったのだけど、ゲゲは違った。

うわぁ...めっちゃ気にしてる...

ゲゲはせめてもと、街で一番のホテルに部屋をとってくれた。部屋はとても広くて綺麗だったけど、なによりもその気持ちが嬉しかった。

だから、ディナーの場所なんてどこでもよかった。吉野家でもファミレスでも居酒屋でもコンビニでもいいくらいだった。
完ぺきなデートのプランもプレゼントもいらない。もう充分だった。

ありがとう、ゲゲちゃん。

だけど、ゲゲはまだ落ち込んでいた。「ハァ...死にたい...」その度合いは逝くとこまで逝った。もちろん死ぬ気はないだろうけど、この落ち込みようは相当なものだ。

待て、早まるな!

「とにかく出かけよう、せっかくだし、ね?」そして私たちは、海浜公園まで出かけた。天気はあまり良くなかったけど寒くもなかった。
近くの売店でクレープを買ってから波打ち際を散歩した。クレープを食べながらなんて、うぶな十代のデートみたいだとくすぐったくて二人で笑った。
カメラでお互いの写真を撮ったり、反対岸にあるのはなんだろう?と想像したり、冬の海っていいねなんて話したりした。波の音は優しかった。

犬童一心か岩井俊二かわからないけどなんかの映画のワンシーンのようだった。防波堤沿いを並んで歩く二人。そして男は静かに台詞を言うのだ。

「ごめんね...」

カーーーット!!

なんとゲゲはまだ落ち込んでいた。信じられない。こんな素敵なシーンにその台詞はふさわしくない。

「なんで謝るの?すごく楽しいよ?」
「ありがとう...」
「ゲゲちゃんは楽しくない?」
「え...すごく楽しい...」
「じゃあ謝ることないよ!」

\つーか謝るな!!/

こんなやり取りを3.4回、いやもっと繰り返した。謝らなくていいと言うのに、ゲゲは「ごめんね...」と定期的につぶやいた。

そんなゲゲが可愛くもあり、可哀想でもあり、可笑しくもあった。ゲゲは、とにかく私を喜ばしたいという一心なのだ。

私もゲゲを喜ばしたいと思った。そして、プレゼントをリクエストをすることをプレゼントした。それがお互いにとってのプレゼントになると思った。

今からでもギリギリ間に合う時間だ。私たちは街のショッピングモールに滑り込んだ。
「これかな?こっちがいいかな?」と二人であーだこーだ言いながら選んだのは、スケッチブックと色鉛筆とカラーペン。絵の具も欲しかったけど残念ながら売ってなかった。

その後、ショッピングモールのイルミネーションに見送られてホテルへ戻った。

ホテルのラウンジでは、ガラス製のピアノの演奏に合わせて合唱団がゴスペルを歌っていた。それを二曲ほど立ち止まって聴いてから、部屋に戻った。

散々ゲゲを悩ませたディナーだけど、ホテルのルームサービスに二日間限定のスペシャルコース料理があるというので、それを頼むことにした。答えは意外とすぐそばにあるもんだ。

どの料理もとても美味しかったし、ルームサービスなんてなんだかセレブみたいで贅沢だし、レストランよりプライベートにマイペースに食べられるし、とてもよかった。

ゲゲはボーイのまねごとをして、私に料理を運んでくれた。私はセレブな客を気どってみせた。楽しいディナーだった。

「おいしい?」
「うん、おいしい!それに楽しい!」
「よかった...」

ずっと落ち込んでいたゲゲだったけど、ここにきてようやく安心したようだ。そして、ホッとした顔で「パンにバターつけるとおいしいよ...」と言った。

「うん、知ってる」ちょっと意味がわからなかったけど、ゲゲのホッとした顔を見たら私もなんだか安心して思った。「(これまで落ち込み続けるなんて...しつこいな...)」

ディナーの後は、先ほどショッピングモールで買ったスケッチブックと色鉛筆とカラーペンを机に出して、二人で絵を描いた。それこそが私のリクエストしたプレゼントだった。
絵を描くのが得意なゲゲに、ゲゲの描いた絵をお願いをした。ゲゲの絵も、一緒に絵を描くことも、その時間も、プレゼントなのだ。

それも、世界でたったひとつの。

二人とも夢中で絵を描いた。私が一枚描く間に、ゲゲは二枚も描いた。

そうこうしているうちに夜中過ぎとなった。そろそろおやすみ。大きなベッドに二人寄り添うように横たわった。

寝る時、ゲゲが私の膨らんだお腹に手をあてるのが近ごろの慣わしだ。「動くかな?」と確かめるのだ。
もう動くのがわかってもいい頃らしいのだけど、この子がのんびり屋なのか私の脂肪が分厚いのか、未だ動きがわからないでいた。なので「動かないねぇ」と言うところまでが慣わしだ。

この夜も、いつものようにして、今度、描いた絵に合う額縁を買いに行こうと話して、目を閉じて、口数が少なくなって、息が深くなっていった。

その時...

トトン!

「あれ!?」
「今...」
「「動いた!?」」

微かだけど、気のせいかもしれないけど、そんな気がした。確かめたい。もう一度感じさせて欲しい。

ゲゲが同じようにトトン!とお腹を軽く押して合図した。そんなモールス信号みたいに交信できるものではないだろう。やはり、返事がない。ただの気のせいのようだ。

と、あきらめかけた時...

トントン!

「あ!!」
「「動いた!!」」

気のせいではなかった。確かだった。それからは、トン!とかトトン!とか盛んに動いているのを感じた。元気すぎるくらい。
その都度、「わあ!」とか「今!」とか「ほらまた!」とか二人で目を合わせてはしゃいだ。

動いた...

子どものころ、朝目覚めると、枕元にプレゼントが置いてあった。小学四年生くらいまではサンタクロースがいると思っていた。手紙を書いたこともある。
だけど、いないことを知ってからは、サンタクロースにトキメクことなんてなかった。

それなのに、このことは、なんだかサンタクロースのプレゼントのように思えた。鐘の音はリンリンとは違うけど、サンタクロースだと思えた。

トン!トトン!メリークリスマス!

イブの夜、私とゲゲのもとに、サンタクロースがやってきた。

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