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大病院ドキドキクエストⅡ

前回までのあらすじ:セミオープンシステムを利用するにあたり、検診と出産と入院の予約手続きをするため、大病院の産科を訪れた私。さて、綾野剛のような産婦人科医はいるのだろうか?

名前を呼ばれて部屋に入ると、医者ではなく、助産婦さんと面談をした。体調や食事、生活環境について話をしたり、色々と質問をされた。

その中でも【身近に子育てを手伝ってくれる人はいますか?】というのは、いつも通っているクリニックでも聞かれたことだった。そしてその答えはNOだ。
そう答えると「誰かいた方がいいですよ!」と強く言われた。これもまた、いつも通っているクリニックでも何度も言われていることだった。

地方出身者の妊婦(とそのパートナー)にとって、これはよくある問題だとは思うのだが、私たちにとってもまた、そこが問題なのである。

私もゲゲも地方出身者で、親は地元にいる。どちらの親も元気にバリバリ働いているので、孫が産まれるからと言って世話しに東京に長期滞在するわけにはいないのだ。

産休や育休が何かと話題になるこの頃ではあるが、まだまだ出産・子育てする本人たちでも休みづらいというのに、その親たちなんてなおさら休めないだろう。
そもそもそこまで行き届いた職場などないだろうが、親たちも産休や育休をとれたら、どんなに悩まず苦労しないで済むだろうと思う。

「誰かいた方がいいですよ!」といくら言われても、いないものはいないし、しかたないのだから、私たちだけでなんとかやってのけるしかない。
過去現在にも、同じような環境下で出産・子育てする人たちはいるのだから、私たちにだって出来るはずだ。

と奮いたたせてはいるのだが、念を押すように「誰か手伝ってくれる人はいますか?」「誰かいた方がいいですよ!」「いないと本当に大変ですよ!」と言われるので、だんだんと弱気になってくる。

そういう時の解決法の一つとして、里帰り出産があるが、今からまた病院を探して決めて、電話して予約して、予め地元に帰って検診して出産して、役所に行って手続きして、1ヶ月〜2ヶ月地元で過ごした後、生まれたてのわが子を連れて苦手な飛行機に乗って東京に戻って、ということを考えると、それはそれで難儀である。

短い間とはいえ、ゲゲと離れて暮らさなければならないのも引っかかる。好きな時に行き来できる距離ならば気にはならないが、私の地元がど田舎なせいで、飛行機も数が非常に少ないし、空港から家のある辺りまで1時間に一本しかないJRに乗り、さらにバスかタクシーを乗り継いで大分かかる。
急に陣痛が来て、何かあって、すぐに駆けつけれるような距離じゃないのがいただけないし、不安である。

それに、別に親と仲が悪いわけではないが、親が身近にいて世話してくれる楽さと、生活が大変でもゲゲがそばにいる安心感とを比べた時、圧倒的に後者が勝るのである。

との理由により、里帰り出産よりは東京で産みたいと思っているのだが、これはバカな判断だろうか?どこでもドアがあれば即解決するのだが、残念ながらそんな代物を持ち合わせていないし、どうするべきだろうか?

そんな私に助産婦さんは、「もし誰もいないのなら...」と、代わってサポートをしてくれるサービスがあることを教えてくれた。自治体がやっているものや、病院がやっているもの、民間のものなどあるらしい。
それは助かる。まだ利用すると決めたわけではないが、そういうものがあるというだけで、少し肩の荷が軽くなる。

なんていう助産婦さんとの面談を終えると、今度は医者による検診を受けた。大病院でも、これはいつもと変わらぬ内容で、なーんだと思ったが、血液検査もしておきたいと言われ、採血することになった。
その場でちょちょいと採血してくれればいいのに、わざわざ別の階にある採血ルームに行って採血しなければならなかったのは、大病院という感じだった。

採血を終えたら、一度産科に戻り、またも助産婦さんと面談をして、今度は出産と入院の予約手続きをしに別の階へ行き、そしてまた産科に戻り、待合室で何かを待っていた。
あちこち行っていろいろやって、もう一体これから何をするのかわからなくなっていた。

この大病院に来てから、かれこれもう3時間くらい経っていた。疲れたんだ...なんだか眠いんだ...パトラッシュ...

産科の隣には小児科があり、その待合室のソファには、産後まもない赤ちゃんを抱いた人から、やんちゃ盛りの子どもを連れた人がいた。泣き声に笑い声に、叱る声に喚く声、とても平和なその光景を、私はボーッと眺めていた。
私の目の前や、横、斜め後ろのソファには、お腹の大きな人とその付き添いの人たちがいた。その中に、少しだけお腹の膨らんだ私(当時)もいた。私もあんな風になるんだと、周りを何気なく眺めていた。

そのうちに、胸が苦しくなり、無性に泣きたくなった。長時間、大病院にいることで疲れたからか、妊婦特有の情緒不安定のせいか、よくわからないが、涙があふれたのを、周りにバレないように拭き取った。

しばらくして大病院での全ての用が済み、私はタクシーに乗って帰宅した。バスもあったが、少しでも早く帰りたかった。そして、ゲゲに会いたかった。
しかし、帰ってもゲゲはいなかった。そういえば今日は予定があると言っていた。とても悲しかった。何がこんなに悲しいのか、何でこんなに涙がでるのか、とにかくわんわん泣いた。

そのあと、どうやって気を取り戻したのか、今や覚えていないが、お待ちかねのゲゲが帰った時には、涙はどこかに引っ込んでしまっていた。

以上が、大病院に行った(ちなみに綾野剛はいなかった)というだけの話である。

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