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衝撃!密着!出産24時!-その2-

カラカラカラカラカラ・・・

車椅子に乗せられ、ゲゲと分娩室へ向かうが、痛みと苦しみに耐えることにただただ必死で、分娩室までの道や、そこがどんな所か、ゲゲの心配気な表情や助産師さんの顔、自分の体勢や格好、等々を見ることもままならず、とにかく歯を食いしばる。
「ギギギ・・・」

分娩室の外で、どのくらいかかるか目処のつかない時間を一人待つことになる義母を気づかって声をかける余裕などなく、私は戦場へ向かう兵士のごとく、心の中で敬礼をする。列車の外では義母がパタパタパタと旗を振っている。
「いってまいります!」

カラカラカラカラカラ・・・
パタパタパタ・・・
ギギギ・・・

パタン・・・・・・

・・・・・・

・・・

耳をすませば

AM10:30 病院/分娩室

あまりの痛みと苦しみに顔を歪めながら、なんとか目を開け、できるだけ耳をすませ、なるべく様子を感じとる。

此処が、ポコが生まれる空間。ポコがはじめて息をして、涙を流して、声をあげる場所。地球で、広い宇宙で、他のどこでも誰のとこでもない。それは私のいるこの小さな分娩室。

その分娩室の照明は、集中しやすいようにと落ち着いた色と明るさに調光されている。真ん中には分娩台が鎮座していて、隅の畳のスペースにバランスボールが置いてあって、BGMにはほどよい音量で、ジブリ楽曲のオルゴールアレンジが流れている。

そういえば、好きな音楽をかけたり、好みのアロマを焚いたりできるはずだが、どちらも用意していなかった。かといって、今の私に合う音楽やアロマが何かもはや見当がつかない。

アロマはともかく、BGMにはテクノを流したいと言ってたのに、結局、"DJ病院"選曲のフィーリングミュージック、ジブリ楽曲のオルゴールアレンジ。でも、これが今の私にピッタリなのかもしれない。

ああ、そんなことより痛い・・・スッゲー痛い・・・なんだこれ!・・・いてててててて!
ううっ、息ができない・・・スッゲー苦しい・・・息が・・・息がああああ・・・!!

ふだん、私たちはあたりまえのように息をしているが、分娩中はそのあたりまえができなくなる。すぐに、いきみそうになったりパニックに陥りそうになる。そして、さらに息が難しいものになる。

ダンスをするように、息をするのが超大事。リズムに合わせて、グルーヴをつかまえて、流れにのって、終わることないダンスをするように。

スーーー・・・フゥーーー・・・
スーーー・・・フゥーーー・・・

痛みの波がやってくるのが見えたら息を吸い、波が高くなったら息を吐く。なるべくゆっくり。波にのまれないよう、フゥーーーっと、細く長く吐く。
思わず、痛みをこらえようとグッといきんで、呼吸を乱してしまいそうになるが、そうすると一気に波にのまれてしまい、深い海の底へ落ち、ジタバタともがき苦しむことになる。

分娩中は、心がもろくなる。
つい弱音を吐きそうになる。
弱気に支配されそうになる。

「痛い」「もうムリ」「やめたい」「もうヤダ」「辛い」そんな言葉がちらほらと心に顔をのぞかせる。しかし、それらを決して口にしてはいけないと、本能が言う。
もしもそれらを口に出したなら、きっと今度は波にのまれてしまい、真っ暗な海の底へ引きずり込まれ、ジタバタともがき苦しむことになる。

また波がくる。次の波は越えられるだろうか。のまれてしまわないだろうか。

次から次と休みなく、波はくる。

つづく


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