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うそつき 夫の嘘

これは、ラジオドラマのシナリオとして創作している。物語は4部構成になっており、それぞれ「夫の嘘」「友だちの嘘」「恋人の嘘」「店員の嘘」というタイトルがついている。

すべて男性による一人芝居である。シナリオのため、情景描写ではなくト書きがある。音声のみを想定している。

これは、一人の女性にまつわる4人の男たちの物語である。「本当」の「嘘」は何か、誰が「本当」に「嘘」をついているのか、「本当」の「うそつき」は、誰か。

**「うそつき  夫の嘘」 **

(ポップなハワイアンミュージックが鳴る。ハワイアンスタイルのカフェ。客の入店を知らせる電子音が鳴る。)
マサノリ あ、ゆみちゃん!こんにちは、覚えてるかな、オレ、マサノリ。そう、さくらの、夫の。
(間)
や、こちらこそ、いつもさくらがお世話になって。ごめんね、仕事場に突然来てしまって。あの、仕事中に申し訳ないんだけど、ちょっと話せたりするかな?さくらのことについて、相談というか、話があって。
(間)
ありがとう。あ、じゃ、ホットのコナコーヒーの小さいサイズを。あと、お水をもらえるかな。ありがとう。うん。待ってるよ。

(マサノリの靴音。イスを引き、座る。店内の音楽がまた聞こえる)
(間)
マサノリ ごめんね。急に来て。そうなんだよ。外回り中なんだけど、今は休憩時間ってことにしてる。スーツ姿のおじさんが、こんなおしゃれなカフェにいるのは、なんか浮いちゃってるね。
特にここはさ、若い人に人気の店なんでしょ?テレビで特集やってたよ。今、店舗どんどん増やしてるらしいね。
ゆみちゃんって、店長さんなんだよね、大変でしょう。そう、さくらにいつも聞いてるよ。しょっちゅう、ゆみ、ゆみってさくらが話してるから、なんかいつも会ってるような気がしてたけど、実は、ゆみちゃんと会うのってオレらの結婚式以来かもね。
ああ、そう。2年前か。うん。
あのさ、ごめん、今、さくらがどこにいるか、わかる?
(間)
さくらから、何も聞いてないのか。ゆみちゃんになら、話してると思って来たんだけど。
うん、じゃ、本当に何も聞いてないみたいだね。そう。昨日の夜、急に家を出て行っちゃったんだ。
(ため息)うん、実家のお義母さんにも連絡してみたんだけどね、帰ってないって。いや、ケンカとかじゃないんだ。オレにも、わけがわかんないよ。急に、あんなこと・・・(ため息)本当に、何がなんだか・・・。
ゆみちゃん、あのさ、さくらは、オレに不満とかあったのかな。子供はいない分、二人でけっこう、うまくやってきてたんだと思ってたんだ。ケンカもほとんどなかったし。さくらって、友だちも多くないし、ほんと、どこか行くにしても、ゆみちゃんと遊びに行くぐらいで、それ以外はあんまり誰かと会ったりって聞いてなくて。
休日は、オレたち夫婦でよく遊びに行ってたんだよ。最近はさ、キャンプにはまってて、土曜の朝早く起きて、支度をしてさ、テントやら、寝袋やらたくさん車に詰め込んでさ。。。まぁ、たまに、だけど。
そりゃさ、結婚する前は、オレもずいぶんダメなところあったと思うよ。なかなかプロポーズしなかったしさ。5年か。あの頃はオレも未熟で、結婚で責任を負うっていうのが、イメージできなかったというか。40歳になってやっと自信を持ってきたとこなんだ。
オレも、けっこうだらしないところがあったしさ。なんていうか、女性関係もね。さくらから聞いてるかわからないけど、まぁ、なんていうか、ね。でも、男ってさ、そういうもんでしょ。バカなんだよ。
だけど、さくらと出会ってから、オレ、変わったような気がするんだよ。本当、さくらだけなんだよ。一緒にいてもいいかなって思えたのは。
だから、さくらと付き合って、結婚して・・・オレ、こんなにまじめな時はないって思ってるんだ。ほんとう、ひどかったんだよ、オレ。や、本当に。今から考えたら、遊んでたし、めちゃくちゃだったなぁって。実は、女なんか信じられないから、適当に遊んでればいいかなって思ってたときもあったんだよ。付き合うとか、恋愛とかめんどうだし、真剣になっても、こっちに責任を持たせようって考えてるような女ばっかでさ。オレの周りはね。
でも、オレもずいぶん、変わったんだよ。さくらと暮らしててさ。
だから、確かにさくらに愛想尽かされるのはしょうがないかもしれないけど、それでもなんでかってわかんないんだよ。なんで、あんな風に出て行っちゃったのかって。
(間)
そうか。ゆみちゃんもわからないのか。あのさ、その、さくらは、誰か付き合ってる人がいたのかな。
昨日、さくらが自分で言ったんだよ。「私と別れて欲しい。付き合っている人がいる。三人」って。
(間)
ちょっと、笑わないでよ。本当にそう言ったんだから。そうだよな。三人も不倫相手がいるなんて、そんなはずないよな。オレ、びっくりしちゃってさ、もうわけわかんなくなって、何も言えなくて。そしたら、いつの間にか、さくらはいなくなってて・・・うん。うん。そうだよな。うん。さくらが落ち着くのを待って、もっとよくさくらと話すことにするよ。ごめんね、ゆみちゃん。本当、恥ずかしいよ、こんなこと。
あのさ、もし、さくらから連絡があっても、オレがゆみちゃんのとこに来たことは・・・うん、ありがとう。秘密にしてくれると助かる。ありがとね。
あ、そうだ、ゆみちゃんは、ちなみに、先週の土曜、何してたの?
(長い間)
(カフェの音楽が消える)

(部屋のあかりをつけるボタンの音。家のなか、マサノリの独白)
マサノリ ただいまぁ・・・いないか。(ため息)あのカレンダーに書いてあったアルファベットの「Y」、やっぱりゆみちゃんだったか。でも、それならなんでわざわざアルファベットにしたんだ。余白はたくさんあるのに。
それとも、ゆみちゃんは嘘をついたのか。
Yって、誰なんだ。いや、人のイニシャルとは限らないか。場所かもしれない。場所・・・
さくら、どこにいるんだろう。
ゆみちゃんにも知らせてないってことは、やっぱり三人の男のうちの一人の家にいるのか?
いやいや、三人って、嘘だろ。だっていつも家にいたじゃないか。たまに遊びに行くのだって、ゆみちゃんしかいなくて、オレは・・・
オレは、とんでもないバカなのか?さくらに、いつも騙されてたのか?くそっ。なんなんだよ。なんでオレがこんな目に遭うんだ。なんなんだよ。もうわけわかんねぇよ。
(間)
でも、ゆみちゃんは、本当に何も知らないみたいだった。嘘をついていたように見えなかった。本当に、さくらに不倫相手がいたとか、オレと別れたがってるなら、一番にゆみちゃんに相談するんじゃないのか。ゆみちゃんが本当に何も聞いてないなら、もしかしたら、さくらはオレを苦しめるために、わざとあんなことを言ったのか。オレに何か不満があって、わざと?
不満ってなんだよ。好き勝手させてやってただろ。家事について文句言ったことないし、年収だってそこそこあって、子供もいないのに専業主婦だぞ。
そうか、子供か。
・・・ずっと、そういうこと、してなかったもんな。セックスなんて、体力もなくなってきたし、疲れるだけって思ってきてたし。昔は、ずいぶん遊んだけど、その分、最近はなんか、気づいたら、なんとなくそういう気分がなくなってきて、さくらからも、言ってこなかったし。別にそういうことがなくても、仲はよかったし。
(間)
そうだ。さくらは、言い出せなかったんだ。女って、もしかしたら「そういうこと」にあんまり興味ないのかもしれないと思ってたけど、そうか。したかったのか。それで、子供が欲しいってことなのか?オレのことを嫉妬させたくて、あんなこと言ったのか?本当は、今もどこかでオレに抱かれたがってるのかもしれない。

さくらは、どんな顔をしてたっけ?どんな体だっけ。肌の感触は、どうだっけ。髪の毛、くちびる、化粧、声、、どうだったっけ。なんか思い出せない。
匂いは、覚えてるような気がするけど。甘いような、曖昧な、ほのかなようで、いつまでも、まとわりつくような。
さくら・・・。

(長い間)
(朝、スズメの鳴き声が聞こえる)
(玄関の扉が開いて、閉じる音。さくらがマンションの部屋に入る。)
マサノリ さくら、か?帰ってきたのか?
(間)
オレは、今日は仕事休みだよ。
荷物って、まだ、うちに帰らないつもりなのか?一体、今までどこにいたんだよ。待って。
(間)
ちょっとくらい時間あるだろ。話をしよう。
コーヒー、炒れるよ。

(長い間。コーヒーカップを机に置く音)
マサノリ 家を出てから、どこに行ってたんだ?お母さん、心配してたぞ。
もちろん、連絡するに決まってるだろ。なんで実家にも連絡しないんだ。いったい、今までどこにいたんだ?
いや、ごめん。オレはただ、心配で。
(間)
さくら、ごめんな。オレ、今まで自分のことでいっぱいいっぱいだった。さくらは、いつもオレに尽くしてくれていたのに、オレは仕事や遊びにかまけて、お前のそばにいてやれなかったよな。さくらが、どんな想いをしているのか、気づくことができなかった。そんなに思い詰めているって思わなかったんだ。オレに不満があるなら、隠さないで言ってほしい。オレにできることがあれば、やるよ。改善するからさ。だから、出て行かないでくれよ。そばにいてくれよ。オレには、さくらが必要なんだよ。いなくなって気づいたんだ。お前がどれだけ大切かってこと。これからは、もっと大事にするから、一緒にいてくれよ。お願いだよ。愛してるんだ、さくら。

(ここではじめて、マサノリ以外の声、女性の声が聞こえる)
さくら うそつき

「うそつき 夫の嘘」完。

この物語は、フィクションです。一人舞台用に書き直すことも可能ですので、希望があればご連絡ください。また、朗読なども大歓迎なので、是非読んでやってください!そのときは連絡くださいね。

まだあと3話あります。

次回の「友だちの嘘」をちょっとだけ予告↓

(ダイニングバー。軽いボサノバの音楽が流れ、カクテルの入ったグラスのなかの氷が溶けるカラン、という音)
テツヤ はぁ?「三人と付き合ってる」って、なんでそんな嘘ついたの?
いや、「だって」じゃねぇよ。相変わらず、わけわかんないな、お前。
不思議ちゃんとか呼ばれていいのは、10代までだぞ。いや、20代でもだめだ。10代までだな。
ほんと、出会ったときから、お前って変わんないのな。変わってるとこが、変わってない。
・・・そうか、もう15年か。数字にしてみるとすごいな。おい、オレの名前は「テツヤ。」「ヤー」って、そこまで略して呼ぶなよ。おい、さくら、聞いてんのか?
……………

続きは、また投稿します!感想をぜひ、聞かせてください!お手柔らかにー!

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