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【見つけたよって言ってみよう】【短編小説】秋の紅茶

どうやら、季節は秋らしい。

この搬入口からの扉を開けると、むっとした空気が攻撃してきて、私を辟易とさせるのだが、それがこの二、三日、ずいぶんと和らいできたような気がする。

私の仕事は、倉庫の整理だ。女性っぽくない仕事といえばそうだろう。体力も使うし、化粧などちゃんとしても誰も褒めてくれない。

毎日毎日、大型トラックから搬入される商品を検品し、決められたところへ格納する仕事だ。

私は、この黙々とやれる仕事が気に入っている。同じパートでも、もっと体力的に楽な仕事もあるだろうにと主人は言ったが、私はこっちが楽なのだ。

ひとつ前の事務の仕事では、社員とパート、派遣社員が入り乱れ、かなりピリピリしていた。年下の社員の顔色を伺い、

ランチのときの話題のため、興味もない恋愛ドラマを見ていた生活。

それに比べたらだいぶ楽だ。

仕事は、そもそも友達をつくるためにしているわけではないのだから。

この倉庫に来てから2ヶ月、私は特に誰ともコミュニケーションをとらなかった。

変わった人、と思われても構わない。もうあんな疲れる思いはしたくない。

昼休み、私はいつものように自分の車のなかでおにぎりを頬張っていた。ほかのパートさんたちは、中の事務所でお弁当を広げている。
「うちの長男がねー!」
だとか
「いやーん、翔くんロスー!」など、

楽しそうな笑い声が気になりつつも、私はスマホでSNSをチェックする。孤独感はあるが、もうだいぶ慣れてきた。


コンコン、と車のガラスを叩く音がして、私はびっくりして窓を開ける。

レジ係の山下さんだ。私より少し年上の、ベテランさん。

何の用だろう。

「大田さん、よかったらこれ」

山下さんが、新商品の紅茶のペットボトルを差し出した。

【新ブレンド 秋の紅茶 】と書いてある。たしか今日から売り出しのはずだ。

「え・・・」

私が固まってると、山下さんはふふっ、と笑った。

「大田さんいつも車で休憩でしょ?いままではみんな事務所で食べてたから、なんとなくそれがルールみたいになってたけど、私、実はあの事務所で食べるの苦手なのよね。あの【私たち仲良しよ!】っていうアピールが嫌でね」

はあ、と私がうなずくと山下さんも同じ紅茶を持っていた。

「これすごく売れてるの、美味しいみたいよ。私も大田さんの真似して、今日から車で食べます、って宣言してきちゃった。勇気がいったけど、まあ楽になったわ」

山下さんはそう言うと、私の三台となりの軽自動車へと向かった。

「私たちは、このスタイルでいきましょ」

はい、と言ったつもりだったがうまく言葉にならなかった。

秋ブレンドの紅茶をありがたくごくごくと飲み干し、私は車内で秋の風を感じた。

そしてすこし、


うれしくて笑った。





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