【連載小説】すまいる屋②
「・・それでは、森田さんの長所を3つ上げていただけますか?」
白い部屋に、面接官の声が響く。
落ち着け、落ち着け。今朝あんなに練習したじゃないの。
「あ、はい!私の長所は、明るいことと、細かく気を配れること、そして、真面目にこつこつやることです!」
一気に答えて、額に汗が滲んでくる。
ああ、スカート、ちょっときついなあ。
セールで買ったけど、サイズあってなかったんだよね。
面接官の女性の隙のないスーツ姿にくらべて、私、なんか決まってない感満載。なんでこんなに雰囲気が違うんだろ。
「ありがとうございます。森田さんは、現在までどんなお仕事されてこられたんですか?」
あー、来た。私が一番苦手な質問。
「あ、はい!えっと・・」
自信のなさが声に出てしまう。
どんなお仕事っていわれても、といつも私は困るのだ。
「あの・・一般的な事務、です」
面接官は少し小首をかしげて、なにか言いたそうだったが、途中でふと諦めたように口をきりっと結んだ。
「よくわかりました。では、採用の場合だけ一週間以内にご連絡いたしますね。おつかれさまでした」
ああ、またこれだ。
採用の場合だけ、のところがやたら強調されている。暗に、連絡しないぞと言われているようなもんだ。
「はい・・ありがとうございました」
私は頭を下げながら、面接のお礼を言う。まあ、書類で落とされるよりもマシかなあ。
なんだか、落とされるために面接受けてる気さえしてくる。
振り返って面接会場の会社を見ると、たくさんの働く男女が笑ったり、電話したり、真剣に書類を読んだりしている。
みんな、イキイキして見えた。
昔からそうだ。
「得意なもの」を質問されると、とたんに自信がなくなる。「不得意なもの」ならたくさん言えるのに。
さっき答えた、明るい、こつこつがんばる、なんてまるで中学生の答えじゃないか。
何が人より得意で、どれが長所なのかなんて、だれも教えてはくれない。
自分でもよくわからないのに、それが、伝わるわけはないのだ。
着信音が鳴る。スマホ、大丈夫みたいだ。よかった、いま修理代は困る。
慌てて画面を見ると、登録している派遣会社からだった。
「仕事、あったのかな」
少しワクワクしながら電話をとると、担当者の安本さんの早口が聞こえてくる。
「あ、森田さん?今いいですか?先日から要望頂いてたデータ入力の仕事ですが、今なかなか求人がなくて。またご紹介できるお仕事がありましたら電話しますので!」
一方的に安本さんは捲し立て、電話を切ってしまう。
まただ。
「何かありましたら連絡します」なんて、ほとんど断り文句だ。実際、かかってきた試しないもの。
「あー、もうコンビニ寄って帰ろう」
電話を切って、PayPayのアプリに画面を切り替えようとしたとき、
スマホ画面が何故かまた、昨日の姉とのLINEのトーク画面に戻ってしまう。
「あれ・・おかしいな」
何度戻る、を押してもずっとその画面から動いてくれない。
私は改めて、「すまいる屋ピリカ」というアイコンを眺める。
ここに連絡しろってこと?
なにこれ。新手の霊感商法かなんか?
・・ま、いいか。一度だけ。シノ姉さんの顔を立ててやるか。
私は、ふと魔が差したように、通話ボタンを押してしまった。
2コール目で、女性の声がした。
「お電話ありがとうございます。すまいる屋でございます」
少し低めの、よく通る声。
「あ、あの・・」
「シノさんの妹さん?」
女性は親しげに話しかけてくる。
「あ、はい。姉が番号教えたんですか?」
もしそうなら、文句言わなきゃ。個人情報だっての。女性はアハハ、と笑った。この人がピリカだろうか。
「いえ、シノさんに声が似てたから。ただの勘です。失礼いたしました」
「そう、ですか」
なんか腑に落ちない。
「それで?こちらになにかご用向きがありましたか」
女性はなんだか楽しそうだ。
ああ、もうどうにでもなれ!
「あの、姉がこの番号を私にくれて。仕事探しがなかなかうまく行かなくて。姉が相談にのってもらえば、って。・・あの、あなたがピリカさん?」
「はい。私がピリカです。・・失礼ですが、あなたはご自分の意思でここにいらっしゃるのですか?」
ピリカは、少し話し方を変えたように感じた。
「あ、いや、姉が・・」
「今お話を伺ってると、主語がすべてお姉さんになってます。お姉さんから言われたから来る、というだけなら、私どもはあなたのお役には立てないと思います」
「あ・・はい・・」
なんかやな感じ、この人。ただの言葉のアヤってやつじゃん。言葉尻とっちゃって、偉そうに。
「もう一度お聞きします。あなたがここに本当に来たいと思ってるのなら、あなたの言葉で言ってみてください」
私は電話を切ろうとも思ったが、このまま言われっぱなしも癪にさわる。
「はい、私は姉からあなたの話を伺って、仕事探しの相談に乗って頂きたいと思っています」
一気に言ってやった。
「お見事です」
ピリカが、先ほどとはまた違う、明るい声で答える。
「言葉には言霊が入りますからね。主語を他人にすることは、他人に人生の舵を取らせているのと同じことです」
ん?ちょっと褒められた?
「どうぞ、森田さま。我がすまいる屋には色んな分野のプロフェッショナルがおります。全員で森田さまをサポートさせていただきます」
かくして私は、すまいる屋の個性豊かな面々と引き合わされることになるのだった。
<続きはこちら>
✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨
ピリカ、高飛車なヤツですね!(笑)
いやー、連載🔰ですがこりゃたしかにメンタル削られますな!
なんでもやってみるもんだ。
前回はこちら、のリンク貼るのに四苦八苦して結局さわきゆりさんに質問しました🎵
明日からも読んでくれたら舞い上がります😃
ピリカグランプリの賞金に充てさせていただきます。 お気持ち、ありがとうございます!