実録 ドラキュラ菜園に立つ 2

何かがうまく...行くはずがない!派の逡巡

物事というのは興味を持ちだすとタイミングよくそれについての情報が引き寄せられてくるものなのか、あるいは今まで興味がないので単に見逃していただけなのか、いずれにしても好奇心は自分の領域を拡げるものである。野菜熱が微熱を帯びてきたちょうどその折、わたしの目にニュースが飛び込んできた。市の広報をぼんやり眺めていたら、市民農園の募集が出ていたのである。よく見ると、わたしがいつも散歩の途中で通りかかる近所の農園も今回は空きがあるらしい。普段なら「楽しそう」と「大変そう」を秤にかけると「大変そう」で落ち着くのだが、今のわたしは野菜に関する情熱がやや盛り上がっていたため、「いや、でもやってみたいかも...一度きりの人生だし」などとちょっと思ってしまったのである。それに、わたし、くじ運すごく悪いし。くじといえばティッシュの山。すか。ハズレ。それがわたしの人生だ。きっと当たらないだろうから、その間夢を見るのもまあ楽しいことよ。とタカをくくって、とりあえず応募してみたのであった。

それからしばらくして、すっかり忘れた頃に市役所から郵便が届いた。当選の手紙である。まさか当たるとは思わなかった。しかし、当たってみると、嬉しい中に、一抹の、いや、もう少し大きな不安がムクムクと沸き起こってきたのである。わたしはポール・サイモンの「Something so right」を地で行く人間なので、いいことやうまい話が自分に起こると、逆に不安で落ち着かなくなるたちなのだ。たちまち頭を駆け巡るネガティブ思考の奔流。仕事の合間に世話する程度で大丈夫なのだろうか。というか、ただでさえ仕事ばっかりで家も人生も散らかり放題しっちゃかめっちゃかなのに野菜の世話などおこがましいのではないか。虫が大発生したらどうしよう。まだ春の日差しも弱い今日この頃だから陽光の農園が楽しげに想像されるのであって、真夏の頃の記憶を辿れば1秒も外で活動する気がしない、あの暑さ!それより何より、まず朝早起きできてから出直してこい。というように悩みは尽きず、果たしてこの駄目人間に手に負えるだろうか。しかし当たってしまったものは仕方がない、やってやろうじゃございませんか。(いや本当こんな覚悟の足らない人間が軽い気持ちで応募してごめんなさい、とちょっとこの場を借りて懺悔しておきます。いや、ちゃんとやるったら!)

そのようなわけで、農園の使用説明会に役所までに行ってみた。説明してくれたのは人の良さそうなおじさまで、農園使用にあたっての「べからず集」を教授してくれた。曰く、農園の使用開始日は4月1日からなので、それ以前には決して立ち入るべからず。業者が入って整地耕運をひととおり行うので、それに先んじて早植え品種を植えたいからと畑に入るような不届き者は権利剥奪に処す。車で来るべからず。道具は持ち帰り決して放置するなかれ。野菜くずなどのゴミは全部持ち帰るべし。周辺住民の迷惑にならぬよう騒ぎを起こさぬこと。他の農園使用者とのトラブルも避けるべし。営利目的で栽培せぬこと。違法作物を栽培せぬこと(当たり前だ)。根を張り大木となるような果樹類を植えない(もっともだ)。建物を建てない(いるのかそんな人)。そして「なにより、まあ、雑草引きですよ。雑草を放置すると、周囲の人の迷惑になりますからね。とにもかくにも雑草です。放っておくとすぐ、ぼうぼうになっちゃいますからね。とにかく雑草だけは引いといてくださいね」とのことであった。ふーん。そんなものなのか。ここのくだりが後でなにやら悪い伏線になってなければいいが...と若干不吉な予感を感じながら書いている。(つづく)


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