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パフォーマンスいわれ21 サディスティックサーカス13「羽衣」

2015年9月。秋の本公演。
私は作りたい作品があった。
ストリップ劇場時代から思案していた題材「羽衣」だ。
羽衣伝説は、日本各地に伝わる民話であるが、能舞台での作品が有名であろう。

三保の松原の大きな松に、美しい羽衣がふわっと掛かっているのを、漁が終わった漁師、白龍が見つける。あまりにも美しい衣。白龍はこれを家宝にしようと手に取り、持ち帰ろうとした途端に天女が現れる。天女は大切なものなので返して欲しいと頼む。そういわれると余計欲しくなる。大切にするので譲って欲しいと、天女に頼む白龍。天女は悲しい顔になり、羽衣がなければ天へ帰れないので、どうか返して欲しいと懇願する。白龍は悲しむ天女をみて羽衣を返すが、代わりに天女舞を見せて欲しいと頼む。天女は羽衣さえ戻れば御安いご用とばかりに、白龍のために舞を披露し、天へ帰っていく。

この舞台で象徴となるのが1本の松(樹)。これがなければ雰囲気が出ない。しかし樹を立てるということはなかなか難儀である。なのでこれまで温存していた。しかし百戦錬磨のサディスカ。きっとなんとかなるだろうと思い、まずは華道家上野雄次氏に連絡した。
上野氏とは2008年「花魁切腹」で初共演し、そのダイナミックな華道に惹かれ、いずれまた、と思っていた。しかも今回は登場人物にもなって欲しかった。白龍役として。上野氏の風貌は飄々としていて舞台向きである。現実に彼は独自でパフォーマンスを行いながら華道をしていた(かなり破天荒な)。私の連絡に上野氏は快諾してくれた。

本格的な打ち合わせが始まると、上野氏は樹ではなく、大きな竹を立てる、という提案をしてくれた。しかし私たちに与えられた持ち時間は20分程である。大きな竹を立てるところから見てもらいたいが、時間がない。仕方なく、竹を大道具扱いし、パフォーマンス前にたて込む、という方式となった。

「白龍」の衣装はすでに頭の中にあった。タイパンツに男物の襦袢を尻ぱしょりで着る姿。そう思って男物襦袢を探していると、ありました。青地に松、鷹、波が描かれている豪快な襦袢。これはもう「羽衣」白龍のためにあるようなもの。さい先いいですね。これに上野氏は自前の背負いかごを合わせてくれた。


天女はどうするか。引きずり着物では面白くない。「能」にならって袴というのもいいか。袴の切腹も面白い。でも切腹で血糊がつき、1回で衣装がダメになるか、、、。天女、、。そうだ。インド神話っぽくサリーのような布を使ったイメージにしよう。と決めた時、サディスカスタッフから連絡があり「衣装のアイディアがあるので作らせて欲しい」ときた。これは面白い。私は来るものはこばばない。出来不出来はあまり考えない。いろんな人とコラボレーションできることが面白い。

イメージが出来上がったところで、肝心の演出となる。ラストは天に昇る、というシーンにしたい。幸い今回のサディスカでは電動ウィンチが使えるということで、ウィンチでスーッと天に昇っていくシーンとする。そうなると、どこでハラキリをし、ラストに生き返っているという辻褄を合わせるかだ。
キーポイントはやはり「羽衣」だ。羽衣をなくしたことで悲観する天女。ここでハラキリ。それを見つける白龍。この羽衣か、と気づき、羽衣を天女にかけてあげる。魔法の羽衣。この魔法によって天女は生き返る。
このストーリーで辻褄はあった。

と、ここまで考えたときスタッフから、舞台片付け要員として系列店Barのスタッフ二名を舞台へあげて欲しい、と連絡がきた。以前にも男性スタッフを舞台に上げたので、その流れで考えたのだろうが、女子となると簡単にはいかない。店舗スタッフは商品なので、美しくなければならない。しかも稽古時間がほとんどない。私は「きちんとステージに立てる人でないと困ります」と伝えた。このステージに初々しさはいらない。ショーとして成立していることが重要だ。

そして音付け。この演目のラスト曲は決めていた。
この年札幌で初めて行ったグループ「カルマン」のライブ。楽器は馬頭琴、太鼓のバウロン、ハンマーダルシマーの三つ。ハンマーダルシマーは台形の箱型に金属の弦が何本も張られ、透明な高音を奏でる楽器。映画「犬神家の一族」のテーマソングで使われていた。このハンマーダルシマーが主旋律を奏でるある一曲に、私の魂が反応した。曲を聴きながら私は天を仰いだ。「この曲は魂が昇華していく曲だ」。私はこの曲を使うことを即座に決めた。
その他のシーンに音をつけていくのだが、今回の登場人物は四人で、稽古時間は3時間しかない。ショーとして流れるように観せるには、かなり厳しい。そこで、シーンごとにわかりやすい音作りとする。「この音でこれ」と指示が出しやすい。

本番三日前。唯一の稽古日。衣装も上がった。ヘッドドレスも作ってくれた。私は衣装デザイン画を見て、アクセサリーなどを用意しておいた。衣装は白乳色の薄手の生地をたっぷりと使ったセパレート型衣装。フレアースカートに飾りとして長い生地もつき天使っぽい(多少若々しい感じもするが)。女子スタッフは「禿」として登場するが、その衣装もキャミソール風でふわっと優しいフォルムがいい。稽古も皆真剣に対応してくれた。皆が一つになりここまでできたことで、この「羽衣」の演目は完成したようなものだ。

本番当日。華道家上野氏は五メートルはあろうかという青々しい竹をわさっと持ち込み、会場入り口付近で竹の造形を施している。竹を裂き、葉を移植(?)してそびえ立つ竹のフォルムを形成している。本当はこう行ったところから物語はスタートしたいが、時間には限りがある。私はその作業をワクワクしながら、一方では、観てもらえない残念さと想いは絡みつつ眺めていた。


出番前、舞台転換で大きな竹が運び込まれ、ステージの四方に建てつけられていく。私は舞台裏で、トンカントンカンと聞こえる音にこれからの運命(パフォーマンス上)を描き、身震いがしてきた。


本番は順調に進み私は気持ちよく腹切りし、蘇った。ステージはあっという間に終わってしまった。

今回も演りきりました。出番はラストだったため、悠長に片付ける時間はなく、自分の片付けを終え、朝日が眩しい(今まで言い忘れましたがこのイベントはオールナイト興行である)会場入り口に出ると、上野氏は黙々と竹の解体作業をしていた。そうか。青々しく美しい竹はもう寿命なんだ。このステージのためだけに伐採された竹。私は済まなさ、寂しさを覚えたが、感傷に浸っている時間はなく、せめても、と思い竹の片付け作業を手伝う。竹は短く断裁され、上野氏の知人の山林へ捨ててくる、という。
この時私は気付いた。この竹の勇壮にそびえ立つ姿を見ていない。ステージ上から見えているのはごく一部だけで、客席から、下から上までこの勇壮な姿を目に刻んでおきたかった。これだけが唯一心残りである。

創作  「羽衣」
出演/白龍・上野雄次
   天女・早乙女宏美
   黒子・(吊り補佐)
   禿 ・一 ジーナ
     ・二 ルナ

ト・転換時、上野氏作・竹物、リング等に固定する。
   照明落ち・音出し

シーン1
  音・strobe`s the hunted 3分42秒
    うららかなな秋の良き日、気分の良い天女は舞い踊りながらも
    地上に降り立ってしまう。
    天女・舞台中央より登場。
    照明・華やかな感じ
    舞い踊りながら天女は<羽衣>を竹に掛け、それを忘れてしまい、
    散策へ出かける。(下手ハケ)

シーン2
  音・SE川 中流 1分32秒
        小川 1分01秒
    上手より、白龍登場。気分の良い日を感じていると、枝に
    美しい布が掛けてある。しげしげと見る。
    この世の物とは思えぬ美しさに、家宝にしようと背負い籠に素早く
    しまい、足早に去っていく(上手)

シーン3
  音・黒の天使① 1分29秒
    下手より天女、置き忘れた羽衣を思い出し、慌てて戻ってくる。
    しかしそこには何も無い。羽衣がなければ天界へ帰れない。
    嘆き悲しむ天女。
  音・メアリー女王葬送 2分33秒
    VJ出し
   「天の原 ふりさけ見れば霞立つ 雲路惑いて 行方知らずも」
    天女、これも天の思し召しかと、自害を決意。
  音・カンツォーナ 2分05秒
    天女の腹切り。
    照明、血糊目立たせる。
    すると上手、下手より花を持った禿、ゆっくり登場。
    絶命した天女。
    禿、天女の死に悲しむ。

シーン4
  音・黒の天使⑱ 1分53秒
    白龍、羽衣を手に戻ってくる(上手)。済まないことをした、
    という後悔の念で。もとの場所へ戻そうとした時
    絶命している天女を発見。愕然とする白龍。
    白龍、手にしていた羽衣を天女に掛けてやる。
  音・hours after 4分46秒
    すると羽衣の魔力で、天女はみるみる蘇る。
    天女は羽衣を戻してくれた白龍に礼をし、感謝する。
  ト、黒子、吊り準備。天女、吊る道具装着後、
    禿は天女に羽衣をかける。
    ゆっくり吊り上がっていく(同時に羽を撒く)。
    照明、ゆっくりフェードアウト。天に消えていくように。
    暗転。
    天女舞台上へ降り、装置はずす。
    明かりつく。
    全員で礼。
    ハケていく。

転換、禿はステージ上の羽を回収する。




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