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パフォーマンスいわれ16 サディスティクサーカス9<ゆきおんな>

2013年秋。演りたかった演目のひとつ「ゆきおんな」

小泉八雲原作「雪女」は子供の頃から好きな怪談のひとつだった。しかしこれを切腹ショーにしようと思ったのは、ずっと以降、ある作家の創作小説(この作家名と小説名は失念している)の冒頭、「千年に一度降る赤い雪。その時雪女は現れる」というフレーズを読んだ時から始まった。しかしまだこれをどう構成すればいいか、という案は浮かんでいなかった。それが進展したのは、前回「娘道成寺」の中に登場した、女剣戟一座の座長水島早苗氏との出会いであった。水島氏の思い出深い貴重な衣装を見ている際に、余談として、歌舞伎「連獅子」でおなじみの毛ぶりで使うカツラがある、という話になった。「使ってみるなら譲りますよ」私はこの言葉を聞いて、私自身ができるかできないか、ではなく、閃いた。「これだ!雪女だ!これで雪女ができる」。魔物の雪女から人間への早変わり。ここが明確なら物語はできる。

そして歌舞伎で使うものと同じ作り方で作った高価なカツラも譲っていただき、早速稽古の始まり。稽古をつけてくれたのは、この水島氏を紹介してくれた、かわ雅子氏。かわ氏も日舞名取で、歌舞伎座公演出演や、ショービジネスの世界では自身で考案した「ひとりカッポレ」を踊っていた大先輩だ。かわ氏とはストリップ劇場で出会った。ストリップ劇場も大きな行事の時には、裸だけでなく、本職の色物を入れていた時代だ(コントなど)。

毛ぶりの稽古。これは想像以上に難しい。あの長い毛を振る(回す)のは至難の技。3キロほどはあろうカツラ。2001年から月1、2回稽古を始め、肩こり、首痛、腰痛を患いながらもなんとか形になり、初めてストリップ劇場に出したのは2003年。紙吹雪の雪を降らせたかったので、これもわがままがきく劇場のみでしかやっていない。若松劇場、ショーアップ大宮、DX歌舞伎町、鶴舞劇場。余談だがこの名古屋鶴舞劇場では、面白い話が聞けた。私がこの毛ぶりのカツラの経緯を話すと、この当時の社長が子供の頃、この鶴舞劇場に(当時はストリップ小屋ではない)水島早苗一座が乗ったという。子供の頃の社長は、この座長の衣装の豪華さと、のぼりの多さが目に焼き付いている、と懐かしそうに話してくれた。

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さ、ようやくサディスカの話である。劇場版で思い入れの曲はあるものの、サディスカでは紙芝居のようにしたいと考えていた。そんな中(2012年晩秋)、ある懐かしいの琵琶師の名前を知人から聞いた。1991年に自主公演「色葉恋流鼠」をやった際に協力してくれた後藤幸浩氏である。当時は人づての紹介であり、舞踏家滑川五郎氏の制作頼みだった私は、後藤氏の詳細も知らないままであった。それが突然浮き上がってきたのだ。私はこのチャンスを逃すまい、と思い、まずその時に後藤氏が関わる演劇を観に行き、挨拶をした。そしてこの時に「またご一緒願いたいのです」とお願いをしてきたのだ。

春サディスカも終わり、初夏にかかる頃、私はまず自分の想いの台本をあげた。琵琶語りでは文語体が基本であるが、私は書けない。なので後藤氏にアレンジしてもらうつもりで書いた。そしてこの舞台では、後藤氏が当時一緒に組んでいた女性琵琶師と共に「琵琶デュオ」として関わってくれることになった。夏の暑い中、稽古は数回。稽古後のお疲れ会、1杯(?)のビールもサイコーに美味しかった。これまでの時間を埋めるように、私たちは語り合った。

「ゆきおんな」で私は雪降らしにこだわっていた。ストリップ劇場でも無理にお願いしてやったほどだ。最後の腹切り後、舞台に雪が降ってほしい。サディスカでは次々とパフォーマーが変わるため、あまり無理は言えないが、それでも意図はくんでくれ、スポットで雪降らしが可能となった。この雪降らし、いろんな方法を試したが、やはり原始的な歌舞伎で使う紙吹雪、紙を三角に切り、網目の容器に入れ、紐で引っ張って揺らして降らす、という人によるやり方が一番綺麗だ。そのために紙を切る作業や籠を揺らす尽力がかかるが、致し方ない。

そして腹切りでは、早乙女使用の「雪」の懐剣を使う。(マガジン「切腹布教活動4、5」参照)「ゆきおんな」で懐剣「雪」が使えるのは本当に嬉しい。これでこそ作ってもらった甲斐があるというものだ。「雪」の懐剣に想いをこめ、哀しみの腹切りをおこなった。

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「ゆきおんな」

シーン1

ト、琵琶弾き語り(ストーリーテーラー)

「千年に一度降り乱る、赤む雪、まさにその時、雪女は天から舞い降りる」

 ト、上手より獅子毛をつけた雪女登場。花道を通り舞台へ。

 雪女、毛振りの舞。


シーン2

ト、語りの間、雪女は当て振りのような舞。

「ヒトの世界へ降り立つ雪女。
 向こうには年行き(としゆき)と若人が倒れていた。
 雪女は吹雪のような冷たい息を吹き、年行きを氷らせる。
 若人へと近づけば、その姿、愛し(うつくし)、雪女は情けをかける。
 そして若人へ語った。
『決して誰にも云うでないぞ』
 雪女は幽鬼のごとく消えていく」

「天界の掟破り。
 雪女は若人に心置き、その姿をヒトに変え、若人の許へかけて行く」


シーン3

ト、雪女、獅子毛を取り、ヒトの姿へ早替え(舞台上)

「もはや二人は夫婦の身。
 幸福の中、雪女のゆきは人でありてヒトでなし。
 心いたわし、我の咎」

「その時、連れ添い人思いだす。
『君の面立ち、いつぞやの雪女か。』
 幸福の時ももはやこれまで。掟破りは元へ戻れず。
 涙は白くきらめく雪となり、契合った人を置き、死に出で立つ」

ト、スポット的に紙吹雪。
  もしくは照明にて降りだす雪。


シーン4

ト、雪女、腹切り

 死に後も音残し、余韻を残しつつ、終。 暗転

2013サーカス秋





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