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チップスターなう





ポテトチップスならカルビーより、
断然僕はチップスターだ。

なんと言ってもチップスターを語るうえで欠かせないのはその頼りない歯応えで、こんなにモロいジャンクフードって市場的に許されるんだろうかと、初めて食べた時にジャンクフード業界に気を馳せたのを覚えてる。

「許す許されないじゃないのよジャンクフードの市場って。投げかけなの。ボクシングじゃなくてプロレスなのよ」
君に出会った頃、お互いの好きな物に関して(僕はチップスターで君は道路標識)話してる時、君はそんなこと熱く語ってたけど。



今日も赤い筒の箱を開け、歯に当たった瞬間に粉砕するなんとも気弱なポテトチップスを愛おしくバリバリ咀嚼する。塩加減最高。

赤い箱には東京本社の住所と
茨城県にあるらしいお客様センターの住所。

そんなことがまかり通っていいのか、
ヤマザキビスケットは何を考えてるのか、
ある日チップスターに対してこのヤロウと思う事件が起きたとしてヤマザキビスケットに一報いれても、でもそこはコックピットではないのだ。

大好きな君に大好きだと伝えたくて名前を呼んだら君のSPが用件を聞きに僕の元へ来てかしこまりましたと伝言を受け取って去って行かれる感じにそれは似ている。

チップスターへの愛や君への気持ちがあればあるほど、そんなことされると自分自身の真意ごと、疑わしく思える。
たらい回しにされる僕の熱意。

考えてると勝手にはがゆくなったから
チップスターを二枚取って思うさま砕く。
でもそんなに気合いを入れなくても
チップスターは二枚だろうが三枚だろうが、もろもろと口の中で反抗せず砕け散る。
これはもうチップスターは悟ってると言っていいんじゃないかと思う。
あまりにも無抵抗、でも構わず塩味。

どうせなら茨城県に本社も構えてほしい。
ブルボンが新潟県に本社と工場をどっしり構えてるように。あれはカッコいい。
茨城県に移住した友達は茨城の居酒屋はどこも旨くて人が皆温かく熱いと言っていた。
僕もヤマザキビスケットがお客様センターを構える茨城にいつか君と旅行してみたい。
茨城にはめちゃくちゃ広い教習所が沢山あるとその友達が誇らしく言っていたから、道路標識が好きな君と見学に行けたらいいけど、教習所観光なんてまあ無理だろう。

君のいない僕の部屋で君との旅行を一人考えるのは東京で企画管理されているチップスターを思いながら茨城県への回線でその思いを吐き出し回収され、データの一つとして東京に提出されてるのと同じでつまり、ひとりよがりが際立つ。

君はこのやるせなさを共感してくれるだろうか。
絶対してくれないだろう。
「データとしてまとめて貰った方が意見として生かされやすくない?」
なんて言われそうだ。
僕はチップスターに対して意見なんかない。
惚れてる相手に意見なんかしない。
このヤロウ、と思ったなら、このヤロウのままで、イチャイチャしたいのだ。
君にだって。




「チップスターなう」と今更感の凄いつぶやきを、Twitterに投稿したくなってスマホを手に取ったけど、でももう、もうこの世にTwitterないんだ。

投げかけてもそれはTwitterではなくXであり、最早「チップスターなう」はXの中では「チップスターなう」以上の妙な意味を持ってしまう。なにかしらの、含みのある意見になってしまうのだ。Xへの。ああ嫌だ。「チップスターなう」はただの「チップスターなう」でいさせてくれ。


ジャンクフード業界は許す許されるの世界ではなく、あらゆる投げかけの中で成立していると君がそう語るように、全ての配置や流れは裁きの中ではなく、命を賭けたその場しのぎであればいいし、既に全てはそうなんだと、それに気付ける、僕であればいいのに。
チップスターを一枚手に取り口に運ぶ。
欲望が一人歩きしたように両端が少しめくれ上がってる楕円形が僕の歯に静かに当たり、嬉しそうに粉砕する。









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