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音の葉の山

『椿の庭』という映画をご存知ですか?
上田義彦さんという写真家の方が撮られた
映画です。桐島かれんさんというモデルの方の
旦那さんでもあります。

舞台は神奈川の葉山という江ノ島の近くで
ご自身の別荘が映画の舞台として使われていた
そうです。映画を撮ったきっかけは
もうこの別荘から見る景色もいつかは
見られなくなるんじゃないかという
喪失感が原点であるという。

映画や小説というのは不思議なもので
時間が経ってからふとひとつの
場面が急に頭に浮かんだりします。
そのような時、ふとうれしくなる。
ああ、懐かしいなと。

この映画は葉山に一人で住む絹子
(富司 純子)を中心として物語は展開
します。淡々とした日々の暮らしが映像に
納められ、長女の陶子(鈴木京香)が訪ねてきたり、
と葉山の家を中心に物語が進んでいく。

映像がとても鮮やかで、
海から吹き付ける風の音がとても
印象に残っていて、たまにその音を思い出す。

✴︎

葉山に初めて行ったのは上司に以前、
刺身がおいしい和食屋さんに連れていってもらったのが
初めてだった。そこで葉山っていいところだなあと思った。
民家の間から見える富士の景色がいつもよりなぜか大きく
見えて不思議だった。

ある時一人で行った時にある骨董屋さんが目にとまり
ふらっと入ると品のいい年配の女性が切り盛りされていた。
そこに古い時計が壁一面に埋め尽くされるように立てかけ
られていた。数で言えば20個以上はあるだろう。
昔の時計だからか耳に心地よく、一斉に鳴り響く
それは小川の流れのような響き方をした。

店主がもう少し後に来たら、壁にあるフランスの
鳩時計が17時の合図の音を出すから来なよと
言ってくれた。わかりましたと言いしばらくして
戻ってその音を聞いた。

すると学校の授業が終わった時に流れる
あのおなじみの音色が店内に響き渡った。
キーン、コーン、カーン、コーンー、
キーン、コーン、カーン、コーン。
続いたのは30秒ほどだったが、耳に心地よく
響き、ずっと鳴っていてほしいと思わせられる
そんな音だった。

もともとこの合図は昔のフランスの学校で
授業の始めと終わりに(だったかな?細かいことは
忘れた)実際に子供達がベルで鳴らしていたという。
へえ、そうなんですね。と店主とあれこれ
世間話をして話すのも骨董屋に行く楽しみのひとつだ。
以外と、日々の中で、音はあらゆるところで鳴っている。
バタバタしているとそのことを忘れてしまう。


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