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開発コンサルタントのお話し(実務編・後編)

皆様こんばんは。副代表の川崎です。

ちょうど今週は一時帰国していて、こちらの記事は日本でまとめています。
幸い今年は東京の桜は早めに満開を迎えたそうで、一時帰国中に街中で満開の桜に出会うことができました。
あまり詳しいわけではないのですが、日本の桜って海外にも結構出ているようで、もちろんハノイにも日本の桜を持ち込んで育てようという話は聞いたことがあります。すでに桜並木があるという情報も見たことがありますが、一方で特にソメイヨシノはなかなか気候が合わずに定着しないという情報もあったり。
またあちらに戻りましたら、街中を散歩してみて、もし見つかったなら現地から桜の便りを届けたいと思っています。


さてさて、前回は「開発コンサルタントのお話し(実務編・前編)」として、開発コンサルタントと呼ばれる人たちが、どのような仕事を行い、それをどう受注するかというところまで話をいたしました。
今回は、それに続いて実際に受注した案件をどう実施するのかというところからお話を続けたいと思います。

それでは、後編です。

(トップの写真は、現地調査のイメージですが、建設案件であれば敷地の調査から始まります)



1.案件を実施しよう

現地調査にて、相手国のカウンターパートへの報告や協議を重ねます

1)JICAと契約、業務を始めよう

徹夜でプロポーザルを仕上げて提出し、はれて競争で受注した案件は、JICAとの契約交渉を経て業務の開始時期や委託費を決定し、業務を開始することとなります。
こまかな契約管理についてはさすがにマニアックすぎるのでこの記事では触れませんが、契約書の作成や報告書の作成何でもかんでもガイドラインや規定がしっかりと定められておりますので、開発コンサルタントの業務はこのガイドラインを如何に攻略するかというのが業務の大半であるといっても過言ではないと思います。
しかも、ガイドラインは結構な頻度で更新・改訂されるので、そのアップデートにも常に気を張っておくことが大事です。

案件の流れとしては、基本的に現地調査と国内作業の組み合わせで実施されます。案件にもよりますが、現地調査と国内作業にかかる期間が7:3くらいの割合が平均でしょうか。新型コロナウイルスの影響で海外渡航の制限が厳しかった時期は、現地調査なしで調査をやり切ったケースもありましたが、やはり現地に行って自分の目で見て聞いて感じてくるのとは全く情報量も違いますので、今後も現地調査中心での業務実施は必須と思います。

2)案件実施のイメージ

案件の種類によっても異なりますが、無償資金協力事業や有償資金協力事業の協力準備調査では、概ね3回の現地調査が実施されます。
また、技術協力プロジェクトでは、相手国のカウンターパートへの技術移転が主な目的のため、現地調査が大半となり、時には年単位の現地常駐での業務実施となります。

例えば無償資金協力事業の協力準備調査のイメージですと、一般的に以下のような調査の流れとなります。調査全体は概ね1年程度です。

1.国内準備(1カ月)
業務計画書やインセプションレポート(IC/Rと言います)を作成し、現地調査のための準備を行う
2.現地調査①(1~1.5カ月)
現地のニーズ確認やデータ収集を行い、課題やニーズの整理を行う
3.国内作業①(2~3カ月)
現地ニーズに合わせて、協力事業の内容を計画する
現地調査時に説明するために中間報告書(インテリムレポート IT/Rと言います)を作成する
4.現地調査②(2~3週間)
協力事業の内容について現地側と協議し、すり合わせを行う
5.国内作業②(4カ月)
協力事業の内容に基づいて、必要な資金を見積もる(積算と言います)
現地調査時に説明するためにドラフト最終報告書(ドラフトファイナルレポート DF/Rとかドラファイと言います)を作成する
6.現地調査③(1~2週間)
DF/Rを説明し、現地側と合意する(ミニッツと呼ばれる合意文書を締結します)
7.国内作業③(1~2カ月)
最終報告書(ファイナルレポート F/Rと言います)をまとめてJICAに納品する
精算報告書(※後述)をまとめて提出し、最終的な支払いを受けて業務を完了する

事業規模によっては、現地調査2回(調査・計画と説明)ということもあり、この場合調査全体で9カ月くらいとなります。

で、この調査1年ですと、規模が小さいとだいたい5,6人のチームで15MMくらい、規模が大きいと7,8人のチームで20~25MMくらいの業務量になります(地下鉄事業とか巨額の円借款案件の協力準備調査だと、20人くらいのチームで60MMなんてのもあります)。キャリア編・後編で述べたのをご記憶いただいていれば、主に調査団員となるのは2,3,4号という格付けの担当者が中心です。また、実務編・前編の表にあった通り、これら格付けの報酬の平均値が300万くらいですので、仮に20MMとすると20MM×300万=6000万円、これに例えば全部で延べ15回くらいの現地出張がありますと、旅費が一回50万とかかかり、更に通訳や翻訳に係る費用や現地で車を借りるお金がかかったりで、だいたい7000万円から8000万円くらいの仕事になる、ということです。
さて高いと思われますか?それとも安いでしょうか。

このような感じで現地調査と国内作業(国内解析とも呼ばれたりします)を繰り返しながら目指す結果を出すのが一つの案件の流れとなります。繰り返しになりますが、案件の種類によっても全然業務量や業務の構成は異なりますので、企画競争説明書をよく読み込んで、理解することが必要です。

3)業務の成果は報告書に

最終的には、JICAから受けた仕事は須らく何らかの報告書というものを納めることとなります。この報告書については、原則すべてJICA図書館のサイトでオンラインで読めるようになっているので、こちらもご自身のご関心ある国や領域の報告書を読んでみて、イメージいただければと思います。

また、上記に精算報告書というものが出てきましたが、JICA発注の調査は税金を使った事業でもあることから、その費用の使途が厳密に精査されます。細かくは契約によっても異なっているのですが、原則としては報酬以外の費用は実支出の精算という形になり、特に現地経費であるレンタカーや翻訳費などは、領収書を整えてJICAに提出し、その実際に係ったお金を返してもらうという取り扱いになります。
この精算報告書にもかなり細かなルールやお作法があり、これをまとめ上げるのも一つの特殊技能と思っています。今は提出もPDFのデータ提出でよくなりましたが、以前は領収書の束をまとめて10cm幅のファイル2冊まとめて提出、なんて感じでした。

報告書も数百ページとなることはざらで、精算報告書もあり、キャリア編・後編でも述べましたが、開発コンサルタントの仕事は書類仕事というのは過言ではないと思います。それを時に複数案件並行して抱え、現地調査と国内作業を短期に繰り返しながら、、、ということで、国際協力の仕事はとにかく体力勝負というのが私の持論ですが、間違いないと思います。

この報告書作成においても、各種ガイドラインが出てきます。報告書の構成や計画内容のまとめ方については、例えば「無償資金協力にかかる報告書作成のためのガイドライン」、報告書の体裁については「コンサルタント等契約における報告書の印刷・電子媒体に関するガイドライン」という感じです。大抵報告書は英語と相手国の公用語も含まれますので、数百ページという報告書を翻訳してもらうために、計画的に進めることも求められます。報告書が何本か提出時期が重なると相当ハードワークですが、完成した報告書が製本され、ウェブで見られるようになると、何ともいえない達成感があります。

2.で、それがどう国際協力になるの?

日本のODAで20年以上前に整備された病院。いくつか日本のODAで整備された施設を見てきましたが、どこに行っても高評価で、また大事に使われていました。

コンサルタント等業務をとおして作成した報告書だけでは、もちろん直接的には国際協力や途上国への具体的な支援には全くなりません。それらがどう国際協力に直結するのかについて、最後に触れておきたいと思います。
前編でも紹介した3つのパターンごとでイメージいただけるかなと思います。

1)協力準備調査の成果

協力準備調査は、前編で説明の通り無償資金協力事業や有償資金協力事業のための計画づくりのための調査です。この調査をとおして策定された協力事業の内容や予算は、その後日本政府内で審議され、この事業にこの予算でODA事業予算を使おう、ということが決められます(閣議決定と言います)。で、その閣議決定に基づいて、日本政府と相手国政府が交換公文(Exchange of Note、E/Nと言います)を結び、このE/Nでは、無償資金協力事業であれば、日本政府がいくらいくらのお金をこういう事業に拠出しますということを合意するわけですね。そして、このE/Nに基づいて、今度は実施機関であるJICAと相手国政府の実施機関(例えば保健医療案件であれば保健省とか)との間で、無償資金協力事業であればG/A(Grant Agreement)、有償資金協力事業であればL/A(Loan Agreement)というのを結び、具体的な支援内容を合意することとなります。
このG/AやL/Aに基づいて、今度は相手国政府の実施機関によりコンサルタントが選定され(一般に無償資金協力事業であれば、協力準備調査を実施したコンサルタントが推薦され、担当することになります。円借款の場合は、競争となるので必ず続けて実施できるとは限りません)、このコンサルタントが実際に事業を進めることとなります。
具体的には、建築案件であれば、工事を担当するゼネコンを選定したり、その業務を監理したりするのがコンサルタントの役割となります。実際に現場で工事をするのはゼネコンであるわけなので、そういう意味では一番直接国際協力を現場で担っているのはこのゼネコンともいえるわけですね。
なお、無償資金協力事業ならびに有償資金協力事業の中でもSTEP案件(詳細はこちらで)と呼ばれるものの場合、コンサルタントとゼネコンなどの実施事業者は日本企業となります(「タイド」と言われます。逆は「アンタイド」)。ODAというと、富める国から貧しい国へお金を上げるイメージを持つ方は実際多いと思いますが、タイド案件の場合、実際はその売り上げは日本企業が上げることになります。事実、事業実施において、日本から相手国にキャッシュは出ていかない仕組みとなっています(相手国名の口座を日本の某金融機関の中に設置してもらい、そこに資金がプールされ、コンサルタントや事業者に支払われます。ネット検索で見つけた資料ですが、わかりやすく整理されていたのでご参考まで)。
ODAは日本の経済振興の一環でもあるというのは、こういうところから言われています。

2)技術協力の成果

技術協力プロジェクトやアドバイザー業務、というような技術協力の形でコンサルタント等契約がなされる場合は、まさにこの業務自体をとおして提供される人材育成や制度の構築、政策の策定などが成果と言えると思います。そのため、技術協力系の案件の場合、長期間にわたって現地に張り付いて相手国のカウンターパートと一緒になって様々なことに取り組むというものが多く、恐らく多くの方が開発コンサルタントが行う業務として一般にイメージされるものに近いのかなと思います。

3)その他調査の成果

情報収集・確認調査や基礎研究、事後評価と呼ばれる調査ものは、相手国のニーズや現状、課題等を調査して、報告すること自体が目的となります。そこで整えられた情報や課題は、次の支援事業のための基礎的なデータとしても使われたり、発掘されたニーズに基づいて、具体的な無償資金協力事業の協力準備調査が次に実施されたり、ということがあります。


以上、開発コンサルタントのお話し(実務編)ということで、まとめてまいりました。
多少なり、この業界にご関心ある方にとってイメージの参考になればと思います。
なお、繰り返しになりますが、キャリア編含め、全て筆者の個人的な経験と理解に基づくもので、筆者の属する団体や、登場する団体等の公式な見解や説明ではありません。あくまで読み物として、参考まで、受け取っていただければ幸いです。
また、何か間違いや誤解を招くような表現がありましたら筆者の知識不足・認識違いによるものですので、是非ご指摘いただければ幸いです。


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