新型コロナは、今女子教育にどのような影響を与えているのか?コロナ後に求められる対策とは?

現在、新型コロナウイルス感染症の影響で、約15億人の25歳未満の青少年が学習の機会を奪われていると推測されています。学校の休校措置に伴って、家庭学習や遠隔学習の比重が高まる中、特に、貧困層、女子、障がい者、少数民族などの「社会経済的に不利な環境に置かれた人々(marginalized people)」が十分な教育を受けられるよう、対策・支援が求められています。

その中でも、就学年齢人口の半数を占める女子への影響は深刻です。例えば、家庭学習や遠隔学習の手段として、パソコンやスマートフォンなどのデジタルデバイスを活用した学習が行われていますが、家庭内のデジタルデバイスの台数やアクセスが限られている場合、女子は男子よりも遠隔教育を受けられる機会が少ないと言われています。また、女子にとって家庭が安全に勉強できる環境だとは限りません。WHOによると、複数国から家庭内暴力件数の上昇が最近報告されており、原因として、ロックダウンなどに伴う社会的保護ネットワークの機能不全やストレスの増加などが挙げられています。また、性的暴力の増加により、女子が早期妊娠し、学校に通うことが難しくなることも懸念されています。

この記事では、特に女子教育に焦点を当て、現在新型コロナウイルス感染症が女子教育にどのような影響を与えているのか、そして、コロナ後の対策としてどのような対策が求められているのかについて考えたいと思います。

1. 新型コロナの女子教育への影響とは?

1-1. 女性、子どもに対する暴力の増加
前述したように、新型コロナウイルス感染症の影響で、女性や子どもに対する家庭内暴力の増加が懸念されています。WHOによると、外出自粛が求められているため、家族が長い時間を共有することによるストレス、失業や経済的損失、社会的保護ネットワークや学校のサポートが受けにくくなることが暴力のリスクを高めているとされています。これにより、家庭で学習環境を確保することが難しく、十分な学習機会を確保することができない女子が増加することが懸念されます。
さらに、ジェンダーに基づく暴力の増加により、早期妊娠をする女子が増えると推定されています。これにより、学校が再び始まった時に、出産や育児のため、学校に通えず、退学をする女子が増加する可能性が考えられます。


1-2. 精神的・身体的健康への懸念
一部の子どもにとって、学校は「安全な居場所」としての役割を果たしています。学校が閉鎖されると、このような子どもたちは十分な食事や心理的なサポートを得ることが難しく、精神的・身体的健康が守られない恐れがあります。特に、家庭内での資源配分が不平等に行われている場合(例えば、休校により学校給食を食べられない状況で、女子よりも男子の方が家庭内の限られた食料を多く消費することや、家庭内の医療品が限られる状況で、女子よりも男子が優先されること)など、学校が再び始まった時に、健康状態がすぐれず、学校に通うことが難しい子どもが、女子を中心に増加する可能性があります。

1-3. デジタルデバイスへのアクセスの不平等
こちらも前述したとおり、家庭学習においてデジタルデバイスを使用する際、そうした機器を使う機会に恵まれない子どもたちは、質の高い学習を得ることができません。加えて、家庭内のデジタルデバイスの台数が限られる場合、女子よりも男子の方が使用できる傾向にあるとされています。これにより、新型コロナウイルス感染症による学校閉鎖によって、男女間の教育格差が広がってしまいます。

1-4. ケアワーカーとしての役割
家庭において、女子は男子よりも未就学の兄弟姉妹や年配者の世話をすることを求められる傾向があります。新型コロナウイルス感染症によって学校が閉鎖される前から、女子がケアワーカーとしての役割を担うことで、教育から遠ざかり、欠席や退学を余儀なくされることは、問題視されていました。今回の新型コロナウイルス感染症の影響で家にいる時間が長くなり、兄弟や年配者の世話をする役を担い、学校が再開しても復学できず、退学していく女子が増えることが懸念されています。マララ基金が発表したレポートによると、コロナ第一波の後、このケアワーカーとしての役割を始めとする様々な要因により、中・低所得国のおよそ1000万人もの中等教育段階の女子生徒が学校を退学する恐れがあると推定されています。

1-5. 女性教員への影響
世界的に、教育・医療・サービス業は男性よりも女性の割合のほうが大きい傾向があります。厚生労働省によると、日本において、女性が教育・学習支援事業に携わる割合は男性の約2倍です。さらに、家事育児に費やす時間・割合は、男性よりも女性のほうが多く、アメリカでは既婚者の女性は男性の約2倍の時間を家事と育児に費やしており、北ヨーロッパでは、女性が家事や育児のおよそ3分の2を担っています。このため、新型コロナウイルス感染症の影響で、教育従事者の多くの割合を占める女性が仕事と家庭を両立していくことがより難しくなることが指摘されています。実際に、子育て中の女性研究者は、学校が閉鎖され、リモートでの仕事へと移行したことで、論文執筆や大学の授業準備等に当てるはずの時間に、子どものケア・家庭学習補助や家事を並行して行う必要に迫られていることが明らかにされています。

2. ポストコロナ期に必要な対策


それでは、このような状況を改善するために、具体的にどのような対策が求められているのでしょうか。今回は、アメリカのブルッキングス研究所による「ポストコロナ期に最も取り残された少女たちが学校に戻ることを助けるための5つのアクション」を紹介したいと思います。

2-1. 経済的な障壁を取り除く
貧困層の中等教育段階の女子生徒は、新型コロナウイルス感染症の影響で、経済的な理由により、早期結婚、性的搾取、児童労働などのリスクが高まる可能性があります。ケニアでは、新型コロナウイルス感染症により国民の80%が経済的損失を受け、68%が食事の回数を減らしているなど、多くの人が経済的に厳しい状況に直面していることが調査によって明らかになりました。授業料が免除されるなどの対策は、女子が学校に戻ることを後押しするとされており、最貧困層への現金給付も効果的な策として期待されています。例として、シエラレオネ政府は、2年間授業料・試験費用の免除を決定し、ガーナのジェンダー、子ども、社会保護省は、ガーナ全土の貧困世帯を対象とした生計向上のための貧困対策(LEAP)プログラムにより現金給付を行い、最貧困層の女子が学校に復学できるよう後押ししました

2-2. ジェンダーに対応した遠隔教育
新型コロナウイルス感染症が収束した後も、しばらくは遠隔教育が続いていくと考えられます。ブルッキングス研究所の研究によると、高所得国の90%、低所得国の25%で遠隔教育が続けられると推測されています。その際に重要なのがジェンダーへの視点です。例えばベトナムでは、ユニセフが政府と協力することで、新型コロナウイルス感染症を機に、遠隔教育におけるジェンダーギャップを無くしていくことを目指しています。具体的には、ユニセフと教育訓練省は、女子をはじめとする社会経済的に不利な環境に置かれた人々が学習を続けられるように、特に障がいのある児童・生徒を対象として定期的な家庭訪問を継続することや性的虐待の予防・対応をする機関やスタッフを検疫所に配置することなどにより、大規模かつインクルーシブな教育の実施をサポートしています。また、地方でインターネットを普及するために投資し、ICT技術・設備の開発を行い、教員のデジタル機器の使用も促しています。地方でもインターネットやデジタルデバイスを使用できるようになることは、結果として、女子が遠隔教育を受けられる機会が増えることにつながると期待されています。

2-3. コミュニティを動員し、女子教育の強化を促進する
学校コミュニティは、学校が再開したら、学校管理委員会、保護者会、教職員チームを通じて、女子の出席状況をモニタリングし、その間の遠隔学習をサポートする必要があります。そして、学校閉鎖期間でも、女子がオンライン・オフラインの両方で学習教材にアクセスできるようにし、家族は女子が学習に専念できるようにする必要があります。例えば、コミュニティの人々が持つ性別役割観にアプローチしていくことで、女子の教育機会を確保しようとする取り組みが行われています。

2-4.女子の安全と保護
女性と少女に対する暴力が増加していることは事実であり、性暴力、早期結婚、妊娠から女子を保護するための措置をとる必要があります。女子の安全を守り、学びを保障するために迅速な対応をしている例として、ヨルダンとコートジボワールが挙げられます。ヨルダン政府は、ユニセフおよび英国政府と協力し、ノンフォーマル教育システムを通じた女子への心理・社会的サポートや、ライフスキル教育における教師の専門能力開発、暴力の被害者を支援する効果的な方法を含む一連の包括的な方針を掲げ、関連施策を展開しています。このプログラムにより、これまでに18万人以上の子どもたちが支援されました。コートジボワールでは、ユニセフの支援を得て、政府が全国的な遠隔教育プログラム「Monécoleàla maison」(「My school at home」)を立ち上げました。このシステムでは、教師、母親のグループ、コミュニティヘルスワーカー、コミュニティリーダーが、新型コロナウイルス感染症が生徒や家族にどのように影響しているかをモニタリングし、性暴力、結婚、早期妊娠、その他の脅威からの保護を必要とする可能性の高い女子を見つけ出し、早期に支援の手を差し伸べることが目指されています。

2-5. 教育改善活動に女子自身の参加を確保する
新型コロナウイルス感染症により女子教育が損なわれることを防ぐには、女子自身が様々な活動へ参加できるようにすることが必要不可欠です。例えば、プラン・インターナショナルは、「フォトボイス」アプローチを利用して、ソロモン諸島の思春期の少女が中等教育を修了する上で、妨げとなっている障壁を特定しました。この取組で撮影された、”Give girls the chance to finish school”と書かれたカードを持った女子たちの写真は、“Our Education, Our Future”(「私たちの教育、私たちの未来」)と “Stronger Together”(「ともにより強く」)という2つの若者主導のレポートで取り上げられました。ローカルおよびグローバルのプラットフォームにおいて女子自身が声を上げることはインスピレーションとなりました。

 
3. まとめ

現在、新型コロナウイルス感染症が女子教育にどのような影響を与えるのか、対策としてはどのようなものが考えられるかについてここまで述べました。一言でまとめると、新型コロナウイルス感染症は、女子をはじめとする社会経済的に不利な環境に置かれた人々から教育を受ける機会を剥奪する可能性が高いということです。そして、対策として、教育へのアクセスの不平等に目を向け、経済的な障壁を取り除き、学習環境を整え、身体的・精神的な保護体制を強めていくことが求められています。一方で、遠隔教育において教育の質は保障されるのか、上記で求められている支援は実現可能であるのか・妥当であるのか、どれくらいの期間・誰が支援していくのか、地域や社会経済的な諸条件によってそれぞれにどのような支援が必要であるのかなど、さらに検討をする必要があると考えます。

                  サルタックインターン 古谷優佳


お知らせ

現在サルタックはネパール学習危機緊急支援クラウドファンディングを実施中です。新型コロナウイルスの拡大により学校閉鎖となり、学びの継続が危ぶまれている貧困層の子どもたちを対象に、自主学習教材を開発・配布する予定です。どうかご支援のほどよろしくお願いいたします。

https://readyfor.jp/projects/38876

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