1分でわかる「教育のためのグローバル・パートナーシップ(GPE)」と日本

突然ですが、先日の畠山のブログを覚えていますでしょうか?「私立教育は是か非か?」というタイトルでしたが、記事の中で何度か「Global Partnership for Education(GPE:教育のためのグローバル・パートナーシップ)」という組織名が登場しました。記事の雰囲気から、何となくGPEが国際教育開発の世界で重要な役割を担っていることは伝わってくるかと思いますが、「そもそもGPEって何?」と思われた読者の方も少なくないのではないでしょうか。そこで今回は、アカデミックな議論から離れて、GPEとは何かという点を、特に日本の様々な組織との関わりに着目して少し紹介してみたいと思います。

1分でわかるGPE

GPEとは何か、きっちり説明しようとすると少し時間がかかるのですが、忙しい方のための動画があります。その名も「1分でわかるGPE」(How GPE works in 1 minute)!ここで紹介されているように、GPEは世界で唯一の教育開発に特化した資金プラットフォーム且つ多様な関係者によるパートナーシップで、インクルーシブ且つ公平な質の高い教育をすべての人が享受できる社会の実現を目指しています(目指すゴールはサルタックと同じですね!資金力は全然違いますが・・・)。GPEの資金は、主にドナー国からの拠出金で賄われており、3年ごとに行われる増資(Replenishment)の機会に、各国が向こう3年間で「〇〇ドル拠出します」と誓約(Pledge)することになります(正確には「ドル」建てで約束する国もあれば、自国通貨建てで約束する国もあります)。この増資のためのイベント(増資会合)は非常に大掛かりなもので、直近では2018年2月にセネガルのサル大統領とフランスのマクロン大統領が主催者となり、複数の国家元首や閣僚を含む1200名以上が参加して執り行われました。GPEの資金の多くは、途上国において質の高い教育セクター計画を策定・実行するために運用されますが、面白い特徴の一つが、GPEと途上国政府が約束した資金の全額を最初から提供するのではなく、総額のうち最低30%は成果ベースで後から支払われる(予め設定した成果が達成されない場合、30%が支払われない可能性がある)仕組みになっていることです。また支援に当たっては、GPEから一方的に資金を提供するのではなく途上国政府も教育分野への公財政支出をコミットすることが求められます。この資金が、実際にどのような関係機関・関係者によってどのように運用されているのか、という点については若干込み入ってきますので、ここでは割愛させていただきます。ご関心のある方は、例えばJICA人間開発部の方が書かれた以下の記事・論文をお読みいただければ、イメージが湧きやすいかと思います。

GPE を「活用」しよう①(GPE の仕組みの解説)
GPE を「活用」しよう②―GPE は参加・活用する「パートナーシップ」です。
「教育のためのグローバル・パートナーシップ」の被支援国内での現状と今後への示唆

これらの論考でも指摘されているように、GPEが他の国際機関などと比べて非常に特徴的なのは、「パートナーシップ」としての機能を有していることです。つまり、GPEの意思決定やプロジェクトの実施等に当たっては、ワシントンDCの世界銀行内に置かれているGPE事務局(Secretariat)がすべて取り仕切るわけではなく、途上国、ドナー国、国連機関、開発金融機関、NGO、民間企業、財団、教員組合などが意見を交わしながら進めていくのが基本であり、GPE事務局は、このパートナーシップによる様々な活動を支援する役割を担っています。

では、こうした資金プラットフォーム且つパートナーシップに対して、日本ではどのような組織がどのような関係を構築し、実際に連携しているのでしょうか。以下では、日本側の代表的なステークホルダーとして、外務省、JICA、NGO、民間企業、国際機関それぞれについて、簡単に解説していきます。

外務省

先ほどご紹介したように、GPEの資金は主にドナー各国からの拠出金で賄われています。日本の場合、例えば世界銀行は財務省が主たる担当省庁になりますが、GPEについては外務省(国際協力局地球規模課題総括課)が日本政府の窓口となり、当初予算及び補正予算を活用して拠出しています。それでは実際、現在進行中の増資期間(2018年~2020年)に日本政府はどの程度の拠出を約束しているのでしょうか。GPEのホームページで公開されているデータ(2019年4月末現在)を見ると、日本政府は4,986,227米ドルとなっています。現在の為替レートで日本円に換算すると約5.5億円ということになりますが、この数値は果たして大きいのか小さいのか・・・なかなか判断が難しいところですが、一つの参考情報として他国の拠出額と並べてみたのが下図になります。

これを見ると、悲しいことに一目瞭然ですが、他のドナー国に比して日本の貢献度は限定的なものにとどまっています。上図は絶対額で示していますが、これをさらに各国の経済規模(例えばGDP)に占める割合で計算し直すと、日本の相対的な貢献度は一層小さくなってしまいます。この背景には、日本の財政状況が長らく芳しくないことや、一度GPEに資金を拠出すると基本的にはプールされ、最終的にどのような教育支援に日本の資金が使われたか捕捉しづらくなること(いわゆる「顔の見える支援」になりづらい)などが挙げられます。とはいえ、例えば保健分野でGPEのように資金プラットフォーム且つパートナーシップとして機能しているグローバル・ファンド(The Global Fund)への拠出金は、日本として他国にひけをとらないどころか、世界をけん引する役割を担っていることを考えると、GPE(に限らず国際教育協力分野全般)に対する日本の貢献は、まだまだ伸びしろがたくさんあるとも言うことができそうです。実際、5月16日に東京大学で開催された国際教育開発セミナーでは、外務省地球規模課題総括課の課長が、ユーモアも交えた素晴らしいプレゼンテーションの中で、既に日本政府の支援が充実している保健分野と並行して、今後、教育分野に対する支援も充実させていくことの必要性を訴えられていましたので、これからの展開が楽しみなところです。

JICA

日本が誇る国際教育協力のけん引役といえば、もちろんJICAを忘れるわけにはいきません。JICAは、GPEとも様々な形で連携しており、例えばいくつかの途上国で関係機関(現地政府、ドナー国、国際機関、NGOなど)のとりまとめ役となりGPEとの連携調整を行う機関(Coordinating Agency)として重要な役割を担っていますし、先述のセミナー@東京大学で登壇されたJICA職員は3月までGPE事務局に出向し、GPE業務に直接貢献しつつ、両機関の関係強化に一役買っています。さらに昨今は、GPEと協調融資を行う連携先として、JICAが存在感を示し始めています。具体的には、途上国政府が活用できる資金を文字通り乗数効果で増やす一つの取り組みとして、マルチプライヤー(Multiplier)と呼ばれるスキームがあります。これは、GPEが通常のスキームで提供する資金(コアファンド)に加えて、支援対象国政府が新規に他ドナー等から資金供与を取り付けた場合、GPEも追加的に一定額のグラントを提供するというものです(ここで、GPEからの追加グラントに比して、他ドナー等からの資金は3倍以上であることが求められます)。この「他ドナー等」としてJICAは位置づけられ、既にマルチプライヤーを使った援助がいくつかの国で動き始めていますが、今後もGPEとJICAが連携して同様の案件を増やしていこうと検討しているようです。なお、マルチプライヤーの適用事例であるパプアニューギニアのプロジェクトについて、JICAの担当者がGPEのブログで紹介していますので、こちらも是非ご覧ください。

NGO

先日の山田の記事は、NGOに焦点を当てたもので、実体験も踏まえた非常に興味深い内容となっていますが、GPEもNGOとの関係を非常に大切にしています。実際、日本においてGPEは複数のNGOと個別にコミュニケーションをとっているほか、重要なステークホルダーとして教育協力NGOネットワーク(JNNE)と連携しています。JNNEは、その名のとおり国際教育協力に力を入れているNGOの連携組織で、日本政府に対するアドボカシーや、「世界一大きな授業」など世界的にも注目される事業のとりまとめなどを行っています。またJNNEは今年、G20に対して市民社会として様々な働きかけを行うエンゲージメントグループ(C20)の中で、教育に関する政策提言を取りまとめる際に主導的な役割を果たしましたが、JNNEによる強い働きかけの結果、最終的な提言の中でGPEを積極的に支援・活用していくことの重要性が盛り込まれました。その他、外務省や財務省との対話などにおいても、JNNEは日本政府としてGPEへの貢献を強化していくことを頻繁に訴えており、GPEにとっては心強いサポーターの一つになっているようです。

民間企業

先日の畠山の記事にあったように、民間事業者が提供する教育に対してGPEがどのように関わるか(直接的に資金を提供すべきか)、という点については様々な議論があります。他方で、国際教育開発を一緒に盛り上げていくパートナーとして、また例えば途上国政府が質の高い教育を実現するために公教育制度の一部として学習システムを導入する際の調達先として、さらには教育に関する諸データを収集・分析するためのシステム作りを行う際の専門集団として、民間企業はGPEにとって重要な連携先の一つとなっています。実際、GPEは途上国政府が効果的・効率的に教育データを収集・分析・活用できるようにするためのシステム構築を目指して、Education Data Solutions Roundtableを立ち上げ、大手民間企業との対話を続けています。日本国内でも、複数の民間企業と具体的な連携に向けた話し合いが進められており、また事業者のとりまとめ役ともいえる経済産業省とGPEの間でも協議が行われています。これに加えて個人的には、以前の記事でも紹介した日本型教育の海外展開事業(EDU-Port)とも、何かしら建設的な関係が生まれてくると面白そうだな、と考えているところです。

国際機関

え、日本国内なのに国際機関?と思われた方もいらっしゃるかもしれません。そもそもGPEは、意思決定機関である理事会のメンバーとして国際機関枠がありますし(その他には、支援対象国枠やドナー国枠、民間・財団等枠などがあります)、各支援対象国で資金管理や連絡調整を行う主体としても国際機関は存在感を発揮しています。そして日本においては、世界銀行東京事務所やUNICEF東京事務所とGPEは様々な形で連携しており、例えばGPEがメディア向けの勉強会を世界銀行の会議室で開催したり、本年8月に予定されているアフリカ開発会議(TICAD)のイベントをGPEとUNICEFが共同で企画したりしています。往々にして、似通った活動を行う国際機関は、限られた政府予算の奪い合いをしてしまうようなケースもありますが、同じ志を持つ組織同士、是非引き続き前向きな連携を進めていけるとよいですね。


以上、簡単にGPEと日本の関係組織との連携状況を概観してきました。ここで紹介した事例以外にも、GPEは例えば大学等の学術機関や個別の大学教員とも定期的に情報交換していますし(先述のセミナーも、東京大学大学院・北村友人研究室とGPEとの共催でした)、今後は日本国内の財団などとも連携強化していく可能性もあります。先にご紹介したJICA職員の記事でも指摘されているように、GPEは単に資金を拠出したり支援をしたりする対象ではなく、積極的に参加・活用すべきプラットフォーム且つパートナーシップであり、これを上手く活用してグローバルレベル及び支援対象国レベルでの政策策定や案件形成に関わっていくことで、日本の諸機関が自ら世界の国際教育協力の潮流を作り出していくことも可能になります。その意味で、これから日本のどのようなアクターがGPEを通じて国際社会をリードしていくのか、その動向から目が離せません!

荒木啓史

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