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「be there」の意味を考えたら、BUMP OF CHIKENの凄さに気がついた。

※注意※
2023/4/20に札幌で行われた「BUMP OF CHIKEN TOUR 2023 be there」の内容に触れています。セトリやMCのネタバレにつながる恐れがあります。ご注意ください。


「なんかライブ行きたくない?」妻が言う。

「BUMPのライブとか無いんかな……あ、あった」

まさに目当てのバンドが全国ツアーで札幌に来る直前で、抽選期間の真っ只中だった。

「BUMP OF CHIKEN TOUR 2023 be there」

チケットは一度落選したが、公式でリセール(不要チケットの出品)を実施しており、夫婦別席(夫婦別姓だけに)ではあるがなんとかチケットを確保できた。

彼らの名前を聞いたことがない人は、すごく少ないんじゃないか。

BUMP OF CHIKEN。

自分自身は、正直そこまで熱心なファンというわけではない、気がする。

ずっと聞き続けているアーティストではあったけど、ライブは初めてだった。

実を言うとボーカルの藤原さん(通称「藤くん」)以外は正直名前も知らない。歌っている以外の姿も見たことがない。

けど、多分曲はほとんど知っている。
ベースの金髪の人が不倫をやらかしたのも知っている。

歌詞を口ずさめるほど知っている曲はそんなに多くはないけど、鼻歌ならほとんど合わせられる気がする。一番曲を認知しているアーティストは、間違いなく彼らだと思う。

最初に出会ったのは、面白FLASH倉庫で見た『ラフ・メイカー』だったと思う。曲に乗せて、当時2chで流行していたAA(アスキー・アート)の「八頭身」と「>>1さん」の友情が描かれる。


青臭さを感じながら、それでも決してバッドエンドにはならない、優しい小説のような歌詞に、AAの表現がぴたりとハマっていて、当時不登校でネットしかやることのなかった自分は何度も何度も繰り返し見た。

「グングニル」も、「ダンデライオン」も、「K」も、「天体観測」も、同じFLASH動画で知った。

その時はバンドとしてのBUMPではなく、FLASHでたまに流れてくるかっこいい曲を歌ってる人がいる、という認識だった。ネットで活動している歌の上手い人だと思っていた。

それからは、しばらく彼らを追っていなかったと思う。
正確に言えば、ポツポツと聴いてはいたんだけど、よく覚えていない。

FLASH動画のストーリー仕立てで表現できるようなわかりやすい歌詞ではなく、少し抽象的な、人生そのものを歌ったような曲が、当時の幼い自分にはよく分からなかった。
……少し背伸びした。今も正直よくわからないことが多い。BUMPの歌詞は難しい。

10年くらい経って、大学生の時ふと流れてきた「魔法の料理〜君から君へ〜」で彼らに再会する。


「キミの願いはちゃんと叶うよ 楽しみにしておくといい」

魔法の料理 〜君から君へ〜

大人になった自分が、今の自分に語りかけてくれるようなあの曲が、すごく好きだった。大学2年生。勉強を必死にするけれど、勉強しかできなかった自分には、未来というものはどうしようもなく不安で怖いものだった。

まるで大人になった自分が、未来からやってきた自分が優しく語りかけてくれるような歌が、当時の自分の心に沁みた。
彼らは、数年ぶりに自分に「アーティストのアルバムを借りる」という行為をさせた、使役動詞の使い手だった。


それからはTSUTAYAで過去に遡ってCDをまとめ借りしたり、Youtubeにアップされる新曲を聴いたり、途中他のアーティストにハマったり、また戻ってきたりを繰り返しながら、20年間は聞き続けているだろうか。

いつも不思議なのが、ちょうど元気がないときに、聴いているうちに「もう少し頑張るかぁ」となる曲がちょうどよくリリースされているのだ。

まるで、こまめに連絡をとるわけではないけれど、ちょうどいいタイミングで連絡をくれて、それでいて会えばいつでも打ち解けて話せる幼馴染のような……不思議な存在だと思う。

彼の歌声は圧倒するようなものではなく、どこか優しい。
歌の苦手な自分にも、なんとかカラオケで歌えそうな気分になる。

とはいえ実際歌おうとすると意外と高くて、天体観測の前半で体力を使い果たし、後半で声がぶっ飛ぶのが我々メンズのあるあるでは無いだろうか。


チケットを取ってから約1ヶ月。育児に追われていたらあっという間に当日になっていた。幸いなことに9ヶ月の赤子は会場近くの方が預かってくれることになり、

入口で妻と別れ、1階A席と書いてあったチケットは席につけば2階の最後方席だった。後ろも右隣もコンクリート。後で聞いたらB席の方がいい席だった。いわゆるハズレ席。

開始を告げるアナウンスが響く。今回はコロナの規制が緩和されて初めての公演。マスクをつけていれば声出しが可能だ。

数分たっただろうか。
階下のアリーナ席から歓声が上がる。メンバーがステージに上がってくるのが見える。

歓声の合間を縫って会場から「おかえり」と声が上がる。

配布されたリストバンドが光り、会場全体が幻想的な光で満ちる。
このイントロは……「アカシア」だ!

ハズレ席。それは即ち最も人目を気にしなくていい席。
めちゃくちゃ歌って、会場の倍のリズムで腕を振った。

会場の反対側の妻曰く、僕の座っていた席あたりに「明らかに光の動きが元気すぎる奴がいた」らしい。

一曲目が終わって藤くんが喋り出す。

「おかえりって言ってくれた? 悪い気分しなかったぜ。」

……語尾に「だぜ」を付ける人って現実に存在するんだ。
間違いなく、ラフメイカーを書いた、グングニルを書いた、ダンデライオンを書いた、藤くんその人だ。

「俺たちの誰も札幌出身じゃねえんだけどな。俺からも言わせてください。 君たちの声、おかえり」

上がる大歓声。そうだ。事前のアナウンスで「今回はコロナの規制が緩和されて、マスクをつけていれば声出しが可能になった」と言っていた。アナウンサーの声もどこか弾んでいた。

「そう、今回から声を出してOKになったよな。いっぱい声を出してほしいし、俺も求めていく。いいよな?」

上がる大歓声。

「でも俺はそんなに声出す派じゃないって人もいるよな。座って、目瞑って、腕組みして、俺たちの音と一つになる。そんな楽しみ方も、俺は全然肯定派なんで。自分なりの楽しみ方で、楽しんでいってください。
 でも、まだルールが一つ残ってるよな。そう、マスクはつけてなくちゃいけねえ。マスクつけて声出してたら、息苦しいよな。もし体調が悪くなったら、無理せずゆっくり休んでくれ。もし、これはやべえ、ってくらいの体調になったら迷わず手をあげてくれ。スタッフの人がなんとかしてくれるから。手も上げられねえってくらいになったら、隣の人に助けを求めてくれ。助けを求められた人は、ちゃんとスタッフに伝えること。いいね? じゃあ、行こうか」

カッコつけた話し方で、丁寧に観客への配慮を一つずつ伝えていく。
会場全体が黄色に輝き「ダンデライオン」が始まる。

その後も「天体観測」「なないろ」……好きな曲が立て続けに演奏され、テンションも上がっていく。

知っている曲は歌い、アップテンポの曲には腕を振り、スローな曲は座って、リストバンドで幻想的に光る会場に見惚れながら曲に浸る。

ライブの中盤も超えた頃だろうか。

「去年は歌えなかったけど、今は歌える曲があるんだ。聞いてくれよな」

独特の語り口で新曲『窓の中から』が始まった。
Youtubeで聞いた時は聞き流してしまっていたが、ライブで聞くと全く違う感想を抱いた。この曲、トップレベルで好きかも。

サビに近づくにつれ、不思議な既視感(既聴感?)を覚える。

「カーテンの内側限定のため息 愛読書みたいに並んでしまった独り言
痛くない事にした傷に 時々手を当てながら 一人で歌うよ」

「昨日と明日に毎日挟まれて 次から次の今日 強制で自動更新される
痛くない事にした傷が 見失わない現在地 ここから歌うよ」

窓の中から


あれ……この曲、ずっとずっと前から知ってるような……?

よく似た曲調とかそんな話ではなくて、この曲を聴いた時と同じ感情に、ずっと前になったことがある。


曲は気がつけば『HAPPY』になっていた。
コーラス部分の「HAPPY BIRTHDAY」を繰り返し歌う中、唐突に藤くんがいう。

「自分のバースデーに、HAPPYを付けられますか?」

……ドキッとした。

「言えない人、俺が代わりに言ってやるよ! HAPPY BIRTH DAY!」

彼の喋りは相変わらず青臭い。聴いていてどこか恥ずかしくなる。
カッコつけていて、少年漫画のキザなキャラクターみたいな喋り方で、そして、優しい。

余韻に浸る間も無く、次の曲のイントロが始まる。心拍数が上がる。
なんでって。自分の一番好きな曲『ray』だったからだ。

程なく、さっきの既聴感の正体に気が付く。

そうだ。『ray 』だ。
約10年前の僕は『ray』を聴いた時に、同じ感情になったことがある。当時の自分は大学4年。大学院に進学する直前だった。

周囲の殆どが進むから、院に進学した方が就職に有利だから。社会に出るのが怖いから。いや、もっと研究がしたいから。

後ろ向きな理由を前向きな理由で隠しながら、嫌でもモラトリアムからの卒業を見据えざるを得ない時期に、この曲に出会った。

一見明るいポップな曲調で自然と口ずさみたくなるけれど、その歌詞をよく聞けば、妙に後ろ向きな雰囲気を纏っていることに気がつく。

「楽しい方がずっといいよ ごまかして笑っていくよ
大丈夫だ あの痛みは 忘れたって消えやしない」
「理想で作った道を 現実が塗り替えていくよ
思い出はその軌跡の上で 輝きになって残っている」
「お別れしたのは何で 何のためだったんだろうな
悲しい光が僕の影を 前に長く伸ばしている」

ray

人生にたくさん残してきた後悔や痛みを、一つ一つ確認していくような歌詞が続く。それでも、大サビはまるでそれまでの流れを無視するような「真逆の台詞」で締められる。

当時の自分には、どうしてそんなことが言えるのか、よくわからなかった。

けど、迷いとか恐れとか恐怖とか後悔とか、そんなネガティブな感情を丁寧に描いてくれることに、どこか安心を覚えて、繰り返し聞いた。

心にも思ってもいないけど、その「真逆の台詞」をよく口ずさんだ。

曲は佳境に差し掛かり、いよいよ大サビの直前になった。
藤くんが叫び、会場にマイクを向ける。

「思ってなくてもいいから言ってみよう!」

少しドキマギしながら叫ぶ。

「生きるのは最高だ」

「ray」


10年後の自分は、この気持ちが、少しだけわかるようになった気がする。

それから、あっという間に最後の曲になって、アンコールがあって、藤くんの「おやすみ」の一言で公演は終わった。会場全体が余韻に浸る中、赤子を迎えにいくために会場を飛び出した。

ライブの感想について妻とあれこれ喋っていた時(妻は自分の一番好きな曲『embrace』がアンコールで来たのでテンアゲだった)、自分の発した言葉にふと固まる。

「BUMPが伝えようとしてるメッセージって、ずっと同じな気がする」

そうだ。彼らが伝えていることは、ずっと、ずっと一緒だ。

帰って、好きな曲の歌詞を調べる。

「破り損なった 手造りの地図 シルシを付ける 現在地 ここが出発点 踏み出す足は いつだって 始めの一歩」

『ロストマン』

「溜め息にもなれなかった 名前さえ持たない思いが 心の一番奥の方 爪を立てて 堪えていたんだ 触れて確かめられたら 形と音が分かるよ 伝えたい言葉はいつだって そうやって見つけてきた」

『Aurora』

「涙の砂 散らばる銀河の中 疲れた靴でどこまでだっていける 躓いて転んだ時は 教えるよ 起き方を知っている事」

『なないろ』

ようやく気がついた。
僕は、彼らの曲に何度も何度も何度も励まされていた。

彼らは、人間の弱さを絶対に無視しない。
むしろあの日の、無かったことにしたい後悔を徹底的に見つめて、色とりどりの言葉で描写する。

けど、決してそれで終わりには決してしない。

弱さを見つめて、向き合って、それでも絶対に最後に残る「人間の強さ」をそっと教えてくれる。前から手を引っ張るでもなく、背中を押すでもなく、隣から語りかけるように。

「辛いことばっかりだよな。しんどいよな。けど、何があっても俺たちは、君が歩き出すまで一緒にここにいるよ。その先にいいこともあるからさ」

僕は人生の節目で彼らの曲を聞くたびに、こんなメッセージを受け取り続けている。

彼らは今年が結成27年目と言っていた。
この27年間、どれだけ世界は変わっただろうか。

彼らの言葉は、いつもどこか青臭くて、優しくてピュアだ。

しかもそれはずっと変わっていない。少し調べれば、10数年前のライブでも、藤くんが今と全く変わらない口調で、ほぼ同じことを伝えている動画が簡単に見つかる。

27年間もの間、彼らはスレていく僕たちの代わりに、僕たちのために、ずっとピュアでいてくれたんじゃないか。

27年間、価値観を揺さぶられる出来事が何度起きただろうか。
それでも彼らは一貫して「生きる」ということに対して辛さも、絶望も、希望も併せ飲んで肯定し続けてきた。

それがどれだけ凄いことか。

彼らは決して強引に引っ張ろうとしない。背中を後ろから押すでもない。
元気の押し売りもしない。僕たちが元気になるまで、隣にいてくれる。

今回のライブのタイトルをふと思い出す。

「BUMP OF CHIKEN TOUR 2023 ~be there~」

be there。直訳すれば「そこにいる」だ。鳥肌が立った。
彼らはずっと、ずっとそこにいてくれたのだ。

彼らの曲で劇的に人生を変えられたわけでは無いと思う。
けど、自分の価値観には、人生観には、世界の見方の一部には、ずっとBUMP OF CHIKENがいる。

不登校の時に聴いた『ラフ・メイカー』が。『グングニル』が。『ダンデライオン』が。『天体観測』が。

学生時代の、漠然とした不安と戦っていた時に聴いた『魔法の料理』が。『ray』が。

社会に出て、仕事で悩んでいる時に聴いた『Aurora 』が。『なないろ』が。

子どもが産まれて、自己実現と育児の両立の合間で悩む日々の中で聴いた『窓の中から』が。

たくさん悩んでいるときに、たくさん聴いた彼らの曲が、今もこれからも、そこにいる。

何があったって「生きるのは最高だ」。

P.S.ライブの最後の藤くんのMC(うろ覚え)を引用する。

「キミが苦しい時はいつだって皆のそばにいたい。けど、次いつ来れるかわかんねえ。ここは札幌。俺は東京。すぐには無理だ。だから、歌ってる。もちろん俺たちの曲じゃなくたっていい。けど、俺たちの曲を選んで欲しいと言いたい。俺たちの歌を聴いてくれたら、そこには絶対に俺たちがいるから。じゃあ、次会う時まで。……元気じゃなくてもいい。それでも、次会う時まで絶対に、生きていて下さい。じゃあね。おやすみ」

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