彼女を愛してはいけません


彼女は、突然この世界に現れた。


2☓☓☓年、地球上で行われていたとある紛争が、紛争地域全体を巻き込む大災害により終焉を迎えた。

何かしらの陰謀か、天の神の存在か。
突如として戦争を終わらせた大災害は、人の興味を賑わせることとなった。

のだが、その正体は私に対しては、すぐ明らかになる。

突然転校してきた彼女が言うに、「私が戦争を終わらせた少女だよ」と。

嘘だと疑う人が多数だった。全く相手にされずただクラスを包み込む笑い話になっていた。

そうだと思わずに彼女に対しかなり興味を持ち、攻め寄ってくる輩も勿論いた。

しかし、彼女がちゃんと説明できず、実演もできなかったためにすぐ興味を失い、去っていくか、からかいの対象として扱い、彼女をけなす。

そんな彼女は、私にだけ真実を打ち明けた。
私にだけ、実際に天変地異を起こす様子を、披露してくれた。

仮想空間を作り上げ、そこにある街を一瞬で破壊する。そんな姿を見せてくれた。

「あなたに『興味』があるの。」
彼女が私に全てを明かした理由はそれだけ。

「自分でも感じたことのない『感情』に、出会ったときから突き動かされてしまった。」と。

彼女は、「世界を守る」意思を先天的に植え付けられ動かされる種族であり、種族でその意思は共有される。

その意思が一段と強くなった個体が、種族の力を統括し、自らが作り出せる仮想空間ではなく実世界に天変地異を引き起こすことが出来るらしい。

彼女はその中でも元々の力が種族平均よりあきらか大きい上に、「世界の平和を第一に思ってる」とはっきり私に伝えるほどに意思が強い。

そのため、前の大災害を引き起こした主個体は自分だと誇らしげに笑っていた。


このときに私は、彼女を殺すか、どうにかしてでもその意思を弱めるかしなければならなかったのだと思う。

彼女の力となる意思、「世界を守る」こと。

それが「誰のものでもない皆の世界」ではないことに気づいておくべきだったのだと思う。



率直に言うと、彼女は暴走した。

いうなれば、私以外は滅んでしまった。

私以外、というと抽象的すぎるのかもしれないが、実際そうとしか表現できない。

瓦礫となった校舎、誰かの家、そして街以外には私と彼女しか残されていない。


彼女が暴走した、いや『意思』を持って事を遂行した原因は、私だ。

彼女が初対面から私に向けていた感情に蝕まれていなければ、こんな形で「世界を守る」ことはなかったのだろう。

そして私が、心を開いてくれたことに少しでも惹かれその感情を受け取っていなければ、彼女の『世界』にはならなかったのだろう。

私を思う故に、
世界が私を中心に回ってると解釈した彼女は
世界を阻害するものを
その敵と学習したものを
尽く破壊した。

私が密かに大切にしていた
大事にしていた
かけがえのないものも
彼女が思う世界に反すれば
尽く滅ぼされた。

止めることはできなかった。
なにせ、彼女と私の意志は繋がることはできない。

彼女は結局「世界を守る」意思を持つだけの、人間とは違う別の種族だから。



彼女は今私の隣で、またもや誇らしげな微笑みを浮かべ私の方を見ている。

私以外の全てが駆逐された世界を、呆然と眺めている私を見ている。

「ちゃんと、世界を守れたよ」
と嬉しそうに話し、私を見続けている。




彼女は愛されてはいけない。
彼女を愛してもいけない。

彼女は、人智を超える別種族である。
人間ではない。

彼女を愛してはいけない。

彼女が持つ意思は、人間には抗えないモノだ。

彼女を愛してはいけない。

彼女の世界になってはいけない。

彼女を愛してはいけない。


                    私











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